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「つ、疲れた・・・」
閉店後の黒狐はブラックフォックスの為の場所になる。
私はほとんど倒れるように机に突っ伏す。
「今回風野は・・・」
「リキ君と潜入だったっけ?夏海ちゃんお疲れ様!」
次にブラックフォックスが狙う絵画の情報を手に入れるためにパーティへの潜入するのが私の役目だったんだけど。
「この俺がエスコートしてやったっていうのに何だその不満そうな顔は」
「何がエスコートですか。精神的にすっごい疲れたんですからね」
今もちょっと胃が痛い。
うーん・・・柳瀬さん、格好いいんだけどなぁ。何だかな。
無事に情報はゲットしたものの柳瀬さんによる精神的なダメージがこう・・・何というか来るというか。
うーん・・・柳瀬さんに付き合いきれる女の人って居るのかな?
私には絶対無理だ・・・。
「・・・この俺にそんな事言うとはな」
「どんだけ自信過剰なんですか」
ふぅ、とため息を吐くと目の前にカップが置かれる。
「はい、夏海ちゃん」
「集さん」
他の人にはビールが用意されているけれど、私の調子が悪いのに気付いてくれたのかお酒じゃなくてホットミルクを出してくれる。
(やっぱ好きだなー)
わいわいといつものように騒ぐブラックフォックスのメンバーを眺めながらそう思う。
次のミッションの成功祈願の飲み会も終わり各々が帰っていく。
私はもう遅いので黒狐に泊めて貰うことになって2階の部屋でごろごろしていた。
明日はお休みだし、一日黒狐の手伝いで集さんと一緒に居られる。
「・・・・・・」
そう考えただけで頬が緩む。
と、その時ドアがノックされる。
『夏海ちゃん、入るよ?』
「あ、はい。どうぞ」
起き上がって集さんを迎え入れる。
「今日はホントお疲れ様。リキ君と一緒じゃ大変だったでしょ」
「あはは、大変でした」
確かに女性同伴じゃないと入れないパーティだったし、つまりは柳瀬さんとカップル役で居なきゃいけなかったワケだけど。
(集さんの正装とか見てみたかったかも)
とか密かに思ってたのは秘密にしておこう。
ミッション中にそんなこと考えてたのがバレたら大変なことになるしね。
「夏海ちゃん」
名前を呼ばれて後ろから抱きしめられる。
「・・・何かありました?」
何だか普段と違うような気がして声をかける。
それでも返ってくるのは何でもないよという声。
腰に回された手に、自分のそれを重ねる。
「ほんとは、集さんと潜入したかったですけどね」
ぽつりと本音を漏らす。
「夏海ちゃん・・・」
「・・・なんて、言ってたら柳瀬さんに怒られちゃいますけど」
ミッションは命がけだから。
たかだか情報収集じゃない、これをしっかりしてないとみんなが危ない目に合う。
だから、私は私に出来ることをきちんとしたいし、自分が出来ることでみんなを守りたい。
「本当はね、リキ君と行かせるの少しだけ嫌だったんだよね」
「・・・え?」
私を抱きしめる腕に少しだけ力がこもる。
「リキ君はリーダーだから信頼してるけど・・・少し妬いたかも」
耳元で聞こえたその言葉に、一瞬で体が熱くなる。
「私にとっての一番は、集さんだから大丈夫」
ありがとう、という囁き声が聞こえて首元にチリッと痛みが走る。
熱の籠もった声で名前を呼ばれ、私はそれに応えるように目を閉じた。
全部全部溶かして消して
(不安も恐怖も貴方とならば)
「さーて、夏海ちゃんに良いところ見せたいしおじさん今日は頑張っちゃおうかなー」
「マスター今回気合い入ってるね」
「いっそうヒゲ無き子がキモい・・・」
「そう言ってやんな、こんな時くらいしかマスターは役に立たないんだからな」
「お前のそれも十分ひでーよ」
「っていうかみなさん余裕ですね」