「わぁ、除夜の鐘が聞こえますねー」
遠くから響く鐘の音に杏は窓ガラスに張り付く。
「ハニー、そんな所に張り付いてたら冷たくなっちゃうよ?」
苦笑する佐伯に杏は振り返るとソファに戻る。
「年越しですかぁ・・・。今日は流石に仕事は休みなんだ?」
「もちろん、年を越す瞬間をハニーと過ごしたかったからね」
冗談なのか本気なのかよく分からないが、多分本当にそう思っているのだろう。
(・・・そういうことにしておこう)
あまり深く突っ込むと色々と余計なものを掘り起こすことになるのは今までで何度もあったことだ。
(何も言わなくてもセクハラしてくるもんなぁ)
「杏」
「はい?」
名前を呼ばれ、思わず居住まいを正す。
本気なのか冗談なのか―恐らくは本気だろうが―普段ハニーと呼ばれているせいか名前を呼ばれると緊張する。
佐伯は優しく微笑むと
「今年もよろしくね」
そう言う。
「・・・はい!こちらこそ!」
パッと顔を輝かせ杏は言葉を返す。
(そっかぁ、今年も佐伯さんと一緒に居られるんだなぁ・・・)
大変なことも多かったが、楽しい事も沢山あった。
(みんなが野球やるのを見たり、佐伯さんのお仕事を手伝ったり。クリスマスは大変だったなぁ。・・・う、またエプロン要求されたらどうしよう)

「除夜の鐘で佐伯さんの煩悩が消えればいいのに」

思わず口からそんな言葉が出てくる。
そうすれば裸エプロンや彼シャツなどの要求はなくなるだろう。確実に消えない―もとい、消せない煩悩だろうが。
「ハニー?」
背後から聞こえてきた甘ったるい声に、杏は体をびくっと震わせる。
(ふ、振り向いちゃダメだ・・・!)
何も知らない女性であれば確実に落とされそうな甘い声だが、不用意な発言をしてしまった杏にはその甘さが逆に恐ろしい。
「ふにゃぁ!?」
突然後から抱きしめられ、耳に息が吹きかけられる。
予想外のことに変な声が出てしまう。
「さっ、さささささ佐伯さん!」
「ねー、今のどういう意味ー?」

(言葉通りですよ!)

喉まで出かかった言葉を慌てて飲み込む。
「ねぇ聞いてるの?ハニー」
耳元で喋られ、ゾクッとする。反応すれば喜ばれるのは分かっている。
無心で耐えようと思った瞬間に腰に添えられる手。
「――っ!?」
半分涙目になりながら、恐る恐る振り返る。
「耳と腰、弱いんだよねー♪」
「あああああ、あのですね佐伯さん」
「煩悩は消せないでしょー。だって愛しのハニーと一緒に居るんだよ?」
楽しそうな佐伯の声が耳元で聞こえる。はしゃいだ子供のような笑顔に、一瞬だけ絆されそうになる。
けれどそれも一瞬の事で、軽々と抱き上げられて現実に帰ってくる。
「さ・・・佐伯さん・・・?」
続きを聞くのは怖い。しかし、聞かなくてはならない。
「杏?」
「は・・・はい」
「俺たち夫婦だよね?」
「そ・・・うですね?」
思わず疑問系になる。
「だったら問題無いよねー」
「何がですか!!」
佐伯が口元に笑みを浮かべる。

「逃がさないよ?」



消せないものは
(あああ、放してくださいいいい)(ハニーってば照れ屋さんだなぁ♪)



―――
ツイッターで「除夜の鐘で佐伯さんの煩悩消せればいいのに」というツイートから出来た話です。
佐伯さんの煩悩が消えるわけがない←
オープンひy流石です。
この呟きのせいで某mknさんとこにも煩悩ネタ出させてしまって申し訳ないと思っている。反省はしてないけど。




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