(そろそろ帰ってくるかな)
マンションのリビングでわたしはそわそわしながら勇太の帰りを待っていた。
勇太が沖縄にロケに行って今日で3日目。
今朝メールがあって夕方には帰れると言っていたのでわたしは1人そわそわと時計を見たり玄関を気にしたりしている。
(喜んでもらえるかな)
21日は勇太の誕生日だったんだけれど、勇太は沖縄でわたしは東京。
せめて直接言いたくて電話はしたけれど、プレゼントも渡せていないし、やっぱり面と向かって言いたい。

ガチャガチャ

「あっ」
玄関から響く開錠音にパッと立ち上がる。
「ただいま、杏」
慌てて玄関に向かうといつもの笑顔を浮かべた勇太が立っていて。
何だかほんわかした気持ちになってくる。
「勇太、おかえり」
そう返すのとほとんど同時に勇太の腕が伸びてきてわたしの体を目一杯抱きしめる。
「杏だ」
ポツリと呟くように勇太が言うのに、ぎゅっと胸が締め付けられる。
3日って、短いような気がしたけど・・・寂しいと思っているととても長いものに感じる。
勇太はぱっとわたしの体を離すと靴を脱いで体を伸ばしながら家に上がる。
「あ、先に洗濯物分けちゃうね」
勇太の手からスーツケースを取ろうとしたけれど、ダメと言って渡してくれない。
「自分でやるから大丈夫だよ」
「え、でも今帰ってきて疲れてるでしょ?休んでて大丈夫だよ」
か、仮にもわたし、勇太のお嫁さんだもの。
これから先も忙しくなっていく勇太を支えたいし、出来る限りのことをしたい。
勇太は困ったように笑っていたけれどスーツケースを渡してくれる。
「あ、後ね。勇太の誕生日お祝いできなかったでしょ?過ぎちゃったけどお祝いできればと思って・・・」
「ほんと!?」
それを聞いた勇太の顔がパッと輝く。何だか子供みたいで可愛い。
勇太の方が年上なのは分かっているし、頼れる旦那様なのも分かってる。
でも、時々勇太が可愛く見えるのはこの人がいい笑顔があるからなのかもしれない。
「うん!電話だけじゃなくて直接伝えたかったから・・・勇太、誕生日おめでとう!」
ありがとうと言う勇太が本当に嬉しそうに笑ってくれるのを見て、わたしも嬉しくなってくる。
「そうだ。ね、杏。今日が何の日だか知ってる?」
「・・・今日?」
5月23日。
・・・・・・誰か誕生日だっけ?
ふるふると首を横に振る。
勇太は廊下を戻ってくるとわたしの手を取って手の甲に唇を寄せる。
いきなりの行動に一瞬硬直して、顔に熱が集中する。
「え・・・え!?」
「今日ってキスの日なんだって」
「へ・・・へぇー」
話を聞くと60年前の今日、日本で初めてキスシーンが登場した映画の公開日だったそうで。
佐伯さん、そういう話は詳しいよね。
「・・・何で手の甲なの?」
何だか王子様みたい。
勇太はわたしの王子様だよ、何て言うとなんていうか・・・うん、少女漫画だなぁ。
すると勇太が照れたように笑って、秘密だと人差し指を立てる。
「えー!なんで!?」
「何でも!」
照れたような笑みが、悪戯に成功した子供のような無邪気な笑みに変わる。
わたしは勇太の唇が触れた部分にそっと指を寄せる。
何度も何度もキスをしても、ドキドキするのは変わらない。
「杏」
「どうしたの?」

「ありがとう」

今度こそ唇が重なって、また抱きしめられる。
勇太が帰ってきたなって実感して、嬉しくなってくる。
「勇太が好きなもの、たくさん作ったよ」
「ほんと?杏の作る料理は全部美味しいから楽しみ」
「そう言ってもらえると嬉しいな」




キスに酔う
(君を尊敬してる、心から)





―――
遅刻ですが勇太君バースデーと、キスの日ネタ。
手の甲へのキスは「敬愛」を意味するそうですよ



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -