「メル。わたし、人間になりたい」
ナギさんに会った(というか見ただけだけど)翌日、わたしはいつものようにメルの家に来ていた。
わたしの言葉を聞いたメルは鬼の形相で振り返り、肩を掴む。
「サクヤ!アンタね・・・止めなさいって言ったでしょう!?」
「本気だよ!?わたし・・・ナギさんと話したい。足が欲しいの。メルだったら出来るんだよね・・・?」
この尾びれが人間の足だったら。
ナギさんと並んで立てるのに。
数秒、数十秒。
メルと見つめ合う。
けれど、先に視線を外したのはメルだった。
「止めてよ。アタシ、友達を殺したくなんてないの」
はき出すような言葉。
「・・・この尾びれを足にするとしたら、何を犠牲にすればいいの?」
「声と時間ね。アンタの声と、時間を使えば魔法は使えるけど・・・」
でも、とメルが唇を噛んで俯く。
「メル・・・お願い」
「魔法、途中で解除は出来ないよ。覚悟は・・・」
出来てる、と間髪入れずに言う。
「・・・・・・分かった。分かったわよ。だからそんな目で見ないでちょうだい」
すっと軽く泳ぐとメルは杖で海底に魔方陣を描き始める。
「何の因果だっていうのよ・・・」
ぽつりと呟くメル。
それからその魔方陣の上に立つように言う。
「・・・最初に言っておく。サクヤが自由に使える時間は1ヶ月。その間にアンタの思い人と両思いにならなければ・・・死ぬわ」
一つ頷く。
メルはため息を吐くと頑固ねぇ、と頭に手を当てる。
「1ヶ月後の満月の夜。・・・月が一番高く昇る時。それがタイムリミット。・・・しっかりやりなさいよ?」
「有り難うメル。大丈夫だよ」
メルが呪文を呟くと同時に、わたしの意識はぶつりと途切れた。













「・・・?」
目を開けると、木目が見えた。
ここどこ?と呟こうとして、喉が掠れた空気をはき出す。
首を傾げる。
「!!」
そうだ。メルの魔法!!
慌てて起き上がって尾びれを見る。
足だ。人間の足がある。
おそるおそる足に触れる。
人間の寝具から体を起こすと、ゆっくりと立ち上がってみる。
「・・・!」
人間ってこういう風に歩くんだ・・・。バランスを取るのが難しくて、座り込む。
「あ、目が覚めた?」
頭上から声がかかってきて、上を向くと黒い髪の男の人がこちらを見下ろしている。
「大丈夫?君、海で溺れてたんだよ」
「・・・?」
溺れてた・・・。もしかしてメルかな?
「私はソウシ。君は?」
「・・・!・・・・・・!!」
サクヤです、と言おうとして喉から出されたのはやっぱり掠れた空気。
「もしかして、しゃべれないの?」
一つ頷くとソウシさんの顔色が曇る。
「そっか。それは困ったな・・・」
しゃべれないってコミュニケーションが取れないんだもんね・・・。
どうしよう。
・・・そうだ!
わたしはソウシさんの手を取ると掌に文字を書く。
「・・・『サクヤ』?」
頷くと、ソウシさんが微笑む。
「サクヤちゃんって言うんだね。・・・とりあえず、みんなに会ってもらった方がいいかな」
部屋を出るソウシさんの後を追って歩く。

1ヶ月のタイムリミット・・・。それまでにわたしは・・・。




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