勘違い。
メルにはそう言われたが、どうしても忘れられなくてわたしは1人大海原を泳いでいた。
あの海賊船、どこに居るのかな。
ナギさん・・・一目でいいからもう一回・・・見たいな。
「あ、海軍だ」
すーっと近づくと、立派な海軍船は猛スピードで東の方向へと向かっていく。
何かあるのかな・・・。
軍船が向かう方向を見るとそこには一隻の大きな船。
「あっ・・・」
あの帆!あの時の海賊船だ。
もしかして・・・海軍はあの海賊船を捕らえるつもりなんじゃ・・・。
海の中に潜ると、海流に乗って泳ぐ。
上を見ると軍船の船底が見えて、わたしは更に尾びれを強く動かす。
海流も相まってあっという間に軍船を追い抜かし海賊船の脇で頭を出して、考えを巡らせる。
どうしよう・・・。
軍船はその間にも近づいてくる。
「よしっ・・・」
すぅっと大きく息を吸い込む。
「海軍が来てますよー!逃げてくださーい!!」
大声で叫ぶと、船の上がざわついたのが分かった。
大きな音が聞こえてきて、誰かが船の上から海面をのぞき込もうと顔を突き出す。
「あっ・・・」
慌てて海の中に潜り込む。
その直前に見えた黒いバンダナと色素の薄い目。
「ナギさんだ・・・」
ドキドキと心臓が鳴る。
海賊船が動き出したのを確認して、わたしは海の底へとさらに潜っていく。
「無事に逃げてくださいね」
高鳴った心臓を押さえ、一つぽつりと呟いた。








「人魚?」
「そう、人魚」
伝説か、子供向けの話くらいでしか聞いたことのない単語を、ドクターは繰り返す。
「この辺りの海域には人魚が住んでるっていう話があるからね。もしかしたらその人魚が海軍のことを教えてくれたのかもしれないよ」
そう言っていつもの笑みを浮かべるドクターに生返事を返す。
そんな胡散臭い物が居てたまるか。
・・・確かに、女の「海軍が来ている」という声は事実だった。
その声が海から聞こえてきたことも事実だ。
「そのせいでこの辺りは海難事故が多いらしいよ」
「胡散臭すぎますよ、ドクター。この辺りは嵐が多い。そのせいだろう」
シンの言うとおり胡散臭い。
「ま、相手が何にしろ海軍共を相手にせずに済んだんだ。結果オーライだろ」
船長が豪快に笑う。
確かにその通りだ。



だから、俺は忘れていた。そんな人魚の話なんて。




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