「サクヤ、どうしたの?」
「メル・・・」
いつもの日課で友人のメルの所で寛いでいると、彼女が心配そうな表情を浮かべてこちらを見ていた。
「うーん・・・最近なんだか変なの」
変って?とメルに尋ねられて首を傾げる。

「胸が痛い」
「成長期じゃないの?」

メルがじっとわたしの胸元を見る。
無いわけじゃないけれど、大きいとも言えないわたしの胸。
思わずメルの胸を見る。
・・・大きい。
一体何を食べたらそんな風に成長するんだろう。
「って、もうサクヤは成長期なんてとっくに終わってるよねー」
ケラケラと笑いながらメルは失礼な事を言う。
わたしが頬を膨らませているのを見てメルは肩をすくめる。
「大丈夫よ、サクヤの控えめな胸、アタシは可愛いと思うもの」
・・・それ褒めてないよね、完全に褒めてないよね。
「で、話を戻してっと。胸が痛いのと後なんかあるの?」
話逸らしたのメルじゃない・・・。
「後・・・息苦しいのと、何て言うのかな・・・思い出すとこう・・・心臓が早くなるの」
その瞬間メルにきつく抱きしめられる。
「メ・・・ル・・・!苦しい・・・!」
「サクヤ!アタシ許さないよおおおお!サクヤが恋とか!相手は!相手は何処のどいつなの!?まともなヤツじゃなかったらシィに喰わせてやるわ!!」
ぎゅうぎゅうと締め付けられる。
あ、後ね・・・胸がね・・・胸がね・・・!
ぺちぺちと腕を叩くとようやくメルがわたしを解放する。
「げほっ・・・。シィだって変な物は食べないよ・・・」
メルが言うシィというのは彼女のペット(メルが言うには家族とのことだが、みんなはペットだと言っている)の鯨だ。
シィに捕まって悠々と大海原を泳ぐメルは何というか・・・格好いい。
いかに人魚と言えど鯨を従わせるのは骨が折れる作業で、誰も好んでやろうとはしない。
せいぜいみんな大きくても鮪ぐらいが関の山だ。
「・・・って、恋?」
恋ってあの?人を好きになるっていう?

目が合った瞬間を思い出す。

「ああああ!やっぱり!?やっぱりそうなの!?赤くなったりして!」
「ええ!?赤い?」
メルが忌々しいと言わんばかりの表情になる。
「誰よ、誰なの?」
「・・・・・・人間」
「はぁ!?」
メルがわたしの肩を掴む。
「サクヤ・・・アンタ海の上に出たの!?」
「ご・・・ごめん。嵐の日に上に出たらさ、海に投げ出された人が居て・・・それで・・・」
メルの顔からどんどん表情が消えていく。

「ね、アタシが魔女なんて呼ばれてこのクソ不便な町外れの森に追いやられてる理由、分かってるでしょう?」

大昔の人魚姫の話。
人間に恋した人魚姫が、泡になって死んだという逸話。

「アタシのご先祖様はね、すっごい嫌なヤツだったの。人魚姫から声を奪って、最後は見殺しにしたの。・・・人間なんかに恋したって報われないし、住む世界が違うの。やめなさい」
小さな子供に言い聞かせるように、メルが言う。
その表情は真剣そのものだ。
「分かってる。分かってるよ・・・」
「それならいいの。きっと大変な状況だったから勘違いしただけなのよ。さー、ご飯にしましょ!」




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