嵐の夜に出会ったのは、とても綺麗な人でした。










「わー、今日は海が大荒れだなー」
大荒れになった海流に逆らいながらわたしは呟く。
思い切って海面に顔を出すと、高い波が一隻の船を大きく揺らしているのが見えた。
その船の帆を見ると、どうやらその船は海賊船のようだった。
この海域は人魚が住んでいるという噂(事実だけれど)が流れているから、人魚を捕獲しようとする海賊が多く見える。
もしかしたらその類かもしれない。見られたら面倒くさそう。
海の中に引っ込もうとして、大きく揺れた船から人が落ちるのを見る。
慌てて海に潜ると、男の人が沈んでいくのが見えて、そこまで泳ぐと男の人の腕を掴んで浮かび上がる。
「・・・どうしよう」
条件反射で引っ張り上げてしまった。
仕方なしに近くの岩場に引き上げて、頬をぺちぺちと叩く。
「大丈夫ですかー?」
黒いバンダナに白いシャツ・・・後、これって黒い・・・エプロン?
明るい髪の毛の色。
一瞬、綺麗だと思って、首を傾げる。
体制を整えて背中を叩くと、男の人が咽せて海水をはき出す。
そうだそうだ。人間はわたしたち人魚みたいに水の中じゃ呼吸が出来ないんだった。
どおりで何か動きが鈍いわけだ。
姿を見られるわけにはいかないけれど、このまま放っておいて溺れ死んでしまうのを見るのも何か嫌だ・・・。
岩場に肘をついて男の人の顔を見る。
ようやく海は荒れていたのが終わりかけていて、穏やかさを取り戻そうとし始めている。
きっと、この人の仲間が探しに来てくれるに違いない。

ふと、虚ろに開いた目が、一瞬だけ合ったような気がした。

その瞬間、心臓の奥が痛む。

髪の毛と同じ色の目が、わたしの目を捕らえる。
その時、海賊船の方から男の人を呼ぶ声が聞こえてくる。
そこで我に返って慌てて海の中に潜る。

(ナギさん、っていうんだ。あの人)

体中が熱を持ったような気がして、それを振り払うためにわたしは家まで全速力で泳いだ。



(もう一度会いたい。今度は話してみたい)





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