気付いたときには、トワを腕に抱いたサクヤが海に向かって落ちていった。
あっという間に波に攫われて2人の姿は見えなくなる。
ドクターの2人を呼ぶ叫び声が聞こえるが、反応はない。

「ハヤテ、ロープを持っていてくれ。私が行く」
「あ・・・あぁ」

こんな時ばかりは泳げないことが悔やまれる。
その時だった。


ぱしゃん


という音が聞こえた。
あまりにも小さく、風と雨音に消されそうな程の音だったが妙に耳につく。

「ドクター!あれを見ろ!」

波間に何かが見える。
それが海に飛び込んだサクヤと、アイツに抱かれているトワだと気付くのはすぐだ。
ドクターが慌ててロープを投げようとするが、サクヤの様子がおかしい。

ただ波にもまれているというよりも、きちんと【泳いで】いるような気すらする。

自分よりも身長が高い男を片腕に抱いているくせにその顔は妙に自信ありげだ。
ドクターによって投げ込まれたロープを掴んで2人が船の上に引き上げられてほっとする。

(・・・ん?)

思わず考え込むが、それも直ぐに消える。
空の端はようやく嵐の切れ目が見え始めていた。

やがて激しかった嵐も去り、海は数刻前まで荒れていたとは思えないほど穏やかになっている。

「おい」

ドクターにかぶせられたタオルから顔を出したサクヤが首を傾げる。

「海に飛び込むなんてお前は何を考えてるんだ」

それでもサクヤのぽかんとした表情は変わらない。
しゃべれるなら問題ない。
けれどこいつはしゃべれない。何処に居るのか分からなくなる可能性だってあった。

「・・・大丈夫、だから?」

サクヤがゆっくりと頷く。

「海は・・・得意、だから・・・溺れない、自信があるんです」

はぁ、とため息を吐く。
「サクヤちゃん。ナギは心配してるんだよ」
「・・・ドクター、勝手なことを言わないでください」
「確かに結果としてサクヤちゃんはトワを助けたけれど、もしかしたら2人とも溺れてたかもしれない」
もう二度としちゃダメだよ、というドクターの言葉に、サクヤはこくりと頷く。
「ナギ、サクヤちゃんをよろしくね。私はトワを看てくるから」
ぽんぽんとサクヤの頭を撫でてからドクターが医務室に戻っていく。

「ま、よく仲間を守ったな」

そう言うと、サクヤは嬉しそうに1つ頷いて見せた。




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