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「お前・・・」
(ごめんなさい)
消毒液が滲みる指先を見ながら肩を落とす。
ああ、そうだ。わたし、料理なんて出来ないんだ。
傷だらけの指先が憎らしい。
「はい、これで大丈夫だよ。サクヤちゃん」
(ありがとうございます)
「いいのいいの。女の子の体に傷が残ったら大変だからね」
そう言うソウシさんの笑顔はキラキラしていて。
きっと女の子はこういうのに弱いんだろうなぁ、なんてぼんやりする。
「ドクターは甘すぎます」
「そんなこと言わないの。サクヤちゃんは帰るところも、何も分からないんだよ」
あ、そっか・・・。そういうことになってるんだよね。
「おい」
「・・・」
ゆっくりと顔を上げる。
「サクヤ。お前料理はどのくらいできるんだ」
ふるふると首を横に振る。
ごめんなさい、出来ないんです。
はぁ、とナギさんがため息を吐く。
「出来ないんだったら最初からそう言え」
(はい)
「やれることでいいから手伝え」
こくっと頷いて立ち上がる。
ソウシさんにもう一度お礼を言ってからナギさんの後ろを着いて歩く。
包丁はもう握らせてもらえないから、食材を洗ったり簡単なことをする。
「・・・・・・」
当たり前だけど、ナギさんの手つきは器用で素早い。
「・・・何だ」
わたしが見ていることに気付いたナギさんの手が止まる。
(魔法みたい)
自分が出来ないから余計にそう思うのかもしれない。
ナギさんは苦笑を浮かべて
「お前、面白いヤツだな」
と言った。
面白い・・・。
凄く反応に困る言葉。
だけど。
ナギさんが笑ってるからまあいいかな。