■ブラック本丸にて:へし切長谷部の場合

オッス、オラ木村!
・・・やっべえのに絡まれた。
何だっけ、名前、何か面白いっていうか変な名前だったような・・・あー・・・もう焼きナスでいいや。
焼きナスはにっこにこ笑いながらこっちを見ている。しかし口元笑ってるけど目ェ笑ってない。こっわ。マジこっわ。
「主、何かご用命はありますか?」
「主じゃないんでいいです」
これはアカン。関わったらダメなタイプの人種だ。
そりゃあ死にたいし殺されたいけどこれはアカン(二回目)。
いいや、とりあえず部屋帰ろうと思って振り向いたら焼きナス。

お前背後に居なかったっけ?

「いえ、貴女が新しい主「違う」・・・・・・」
何なんだよ、デカい図体して捨てられた犬みたいな顔するなよ。
「好きにしてていいって言ったよね、ほっといてくれる?」
「主命とあらば」

こいつやべぇ。

何が、とはうまく言えないけどとにかくやばい。
とりあえずそそくさと部屋に帰って寝た。
目を覚ますと時計は7時。いい時間だ。
あくびを一つして着替えて障子を開けたら焼きナスが居た。
無言で障子を閉めた。勢いが良すぎたのかスッパーンと音がした。

なにあれこわい。

「主、おはようございます」
「あ、はい。おはようございます」
挨拶には挨拶を返してしまう元社畜、否現在も社畜。
「何かご用命はございますか?家臣の手打ち?それとも寺社の焼き討ち?」
「会社は滅ぼしてほしいけどいらないです。自力でやります」
じしゃ・・・自社?
え?会社焼き討ちしてくれるの?
・・・と一瞬舞い上がりかけたものの相手は人型だぞ。慢心ダメゼッタイ。
人は嘘を吐いて他者を欺く。笑顔の裏で平気で相手を貶す。
「・・・そうですか。何か用があればお呼びください」
SAN値削れるからいらねえ。言わなかったけど。
何で朝から疲れなきゃならんのだ。

後で薬研に少し聞いてみたら主命命の主厨で織田信長に捨てられた・・・というと誤解があるが本人はそう思っているらしいので色々拗らせているとかなんとか。
なんだ人間関係拗らせてるのは私だけじゃないのか。
別に優しくしようとは思わないが。
何故なら人型の生物は等しく滅ぶべき存在だからである。

―――

■ブラック本丸にて:江雪左文字の場合(二回目)

縁側に座ってぬぼっと桜を眺める。
はよ死にたい。
「まだそのようなことを考えているのですか」
「・・・・・・よし、その距離を保ってくれ。それ以上来られると私は爆発するから」
無表情が同じようにぬぼっと現れた。
小夜の兄刀らしい無表情は・・・確かに・・・にて・・・る・・・のか?
よく分からんが今の所私の無表情に対する感覚は特になし。
焼きナスみたいに要注意ってわけでもなければ、眼帯みたいに何か世話焼こうとしてくるわけでもなく雪玉のように訳分からんこと言ってくるでもない。
お互いがお互いを空気認識だよねー。ありがたいっちゃありがたいが。
私は口を開かない、無表情も口を開かない。
空気なので別段居心地も悪くはない。
人間が皆空気のような存在になれば住みやすくなるのだろうか。
ガリッ、ガリッ。
「止めた方がいいですよ」
「そりゃどうも」
思考の海に潜ったときの癖だ。ついつい爪で手を引っ掻いてしまう。
また無言の時間が訪れる。
「・・・貴女方人間は、何故争うのでしょうか」
「存在してるから」
間髪入れずに答えてやると無表情の無表情が崩れた。
「人だけじゃない、犬猫みたいな動物だって子孫残すために争うし、虫だって縄張り争いする。生物が存在してる時点で争いはなくならない、以上」
淡々と持論を展開すれば「こいつやべぇ」みたいな視線を向けてくる無表情。

「難儀ですね」
「生物が滅べばオールオッケー」

結論:無表情はそこまで悪い奴ではない・・・かもしれない。空気みたいな感じだった

―――

■ブラック本丸にて:歌仙兼定の場合

草を抜いて、放って。草を抜いて放って。
ひたすら雑草をプチプチと抜いていくだけの簡単なお仕事・・・の最中何か紫色の頭した兄ちゃんと鉢合わせる。
やっべ、名前なんだっけ。何か前にもこんなこと考えたなぁ。
名前・・・なま・・・
「あ、何かマルチーズっぽい」
「は?」
何言ってんだこいつ、って顔になった。
紫頭の兄ちゃんは畑仕事用の作業着を着ていて、前髪をリボンでまとめている。
何かそれがすごくマルチーズみたいに見える。
「何やってんの?畑?」
「あ・・・ああ。まったく、文系の僕にさせるようなことじゃないね」

知らんがな。

じゃあ止めれば?と言ったら厨房仕切ってるのがしょく・・・何とかさんにアウト食らうとご飯もらえなくなるから仕方ないらしい。
しょく何とかさんが厨房の頂点らしいよ。・・・ん?しょく何とかさんはあの眼帯の事か?
まあいいや。
マルチーズは夕飯用らしい野菜の収穫をしている。私は雑草をひたすらプチプチと抜き続ける。
「・・・・・・それ、楽しいのかい?」
「草取り?楽しいよ?雑草を人間に見立てて抜いて踏みにじって最後に燃やすの」
何でそこで目が死ぬのかなぁ?世界は不思議に満ち溢れている。
「もしかしてこの前庭で火をくべてたのも・・・」
「多分私」
横の方からマルチーズの「ああ、そう」という呆れたような声が聞こえた。ついでに「雅じゃない」という何かよくわからん愚痴みたいなのも。
「君は変な人間だ」
「ああ、よく言われる」
うん、やっぱり見た目マルチーズっぽいわ。あの焼きナスは雰囲気犬だけどなんかアレは違う。たぶん近寄ったらアウト判定食らうやつ。
「まあ、僕の元主も36人手打ちにしてるからねぇ」
「え?前任者が?」
「・・・刀だったころの主だよ」
「へー、そうなんだ。・・・で、君名前何?」
「・・・・・・」

そう聞いたら「うわぁ」って顔された。お前のその顔MIYABIじゃないよ、って言いたかった。
「カセンカネサダ」だって。たぶん部屋戻るころには忘れてると思う。
すまねえマルチーズ。私の人物に対する記憶能力はこの程度だ。

―――

■ブラック本丸にて:彼女と一緒にご飯が食べたい

「・・・なにこれ」
女は死んだ目で自分にまとわりつく短刀と、ジャージにエプロンの燭台切を見る。
「えっと、短刀達が君とご飯を食べたいって言ってて・・・」
「ああ・・・そういや前にんなこと言ってたわ」
舌打ちを一つしたかと思うと「お腹空いてない」とぴしゃりと返す。
「でも君、朝から何も食べてないよね」
「何で知ってんだ眼帯」
女はめったに食事をとらない。摂っている姿を見かけたことがない。
厨で見かけることもなくなった女は一体どうしているのか。
「お願いします。一緒に食べましょう」
ぎゅっと五虎退が女の服の裾を掴んで見上げる。
女の口元がひくっと歪む。

この女は、子供に弱い。

稚児趣味があるなどという訳ではない。
ただ単に自身の幼少期を思い出して発狂するらしく、短刀や蛍丸にはある程度の優しさを見せている。
前任の審神者のように悪い人間ではない。目が死んでいるだけだ。
「あーあー、分かった!わかったから!食べるからその顔止めて!」
イラついたようにがりがりと頭を引っ掻く女。
「怪我しちゃいますよ!ダメです!」
この女に手入れをしてもらってから五虎退は大分明るくなったように思う。
大広間は嫌だと言うので短刀達の部屋に机を用意し、女の目の前に膳を置く。
いただきます!という短刀達の元気な声の後に小さな、不機嫌そうな声で女のいただきますという声が続く。
厚や秋田の「この野菜俺、僕が収穫したんだ!」という声や乱の「燭台切さんのご飯美味しいよね」という声に感情はあまり乗ってはいないが返事は戻ってくる。
「ご馳走様でした」
「・・・味は、どうだった?」
燭台切が尋ねると、女は相変わらず死んだような目を彼に向ける。
「美味しかった。ありがとう。でも、もういいから」
はっきりとした拒絶に燭台切は膝の上で拳を握る。
「なんっ・・・」
「人間が嫌いだから」
何で、そう口にするよりも早く女はそう言う。
違う、僕たちは人間じゃない。男は反論する。
しかし女は返す。二足歩行で立って人語を解せばそれは人間だと。
「それに、アンタ言ったよね。人間嫌いだって」
今度こそ燭台切は返す言葉を無くす。
あの日、厨で女と会った日。確かに彼はそう言った。
『人間が嫌いなんでしょ?』という女の問いに頷いたのだ。

「私は人間が嫌い。人間は笑いながら貶しめる、嘘を吐く、暴力を振るう、見て見ぬふりをする。アンタたちだってそうでしょ?アンタたちだってそれを受けたでしょ?・・・人間が嫌いなら、私に構わないで」

片づけは自分でする、と女は膳を持って立ち上がる。
彼女の傷は、もしかしたら自分たちのものよりも深かったのかもしれない。

―――

■おまけ:演練します(審神者の態度が奇跡的に軟化した場合の話)

「めんどくせえ」
「ダメですよ、主君。これも仕事の一つです」
前田の言葉に私はため息を零す。
演練と言うのも仕事の一つ。しかしこちとらなりたくてなってんじゃねえんだぞ政府。
ハンカチ送り付けようと思ったら五虎退に泣かれたので止めた。
隊長は五虎退。そして前田、薬研、乱、厚、一期という短刀メインの部隊。
理由?私が未だに人間アレルギー発症してるからだよ。短刀と蛍丸はともかく脇差以上はアレルギー出るんだよ。
人間滅ぼすという野望は未だに持ってるぞごるぁ。
相手の審神者はおっさんだった。うわ、メタボや。
「相手の方に挨拶に行かないといけませんね」
「ああ、五虎退。ちょっと待って」
はい?と五虎退が私を見上げる。私はというと頬をぐりぐりと動かしてマッサージをする。
行くよ、と彼を連れて相手の審神者の元へ向かう。
「こんにちは。本日は宜しくお願い致します」
声をワントーン上げて営業スマイル。相手はそれに気をよくしたのかにやにやとした笑みを浮かべる。
「ははは、こちらこそよろしく頼むよ。君は初めて見る顔だねぇ」
「ええ、本日が初めての演練ですので・・・お手柔らかにお願いします」
冗談めかして言う。視界の端で五虎退がびっくりした顔になった。
そりゃあ普段死んだ魚の目をしてる女がニコニコ笑顔浮かべたら怖いよな、びっくりするよな。
しかしおっさんの次の一言で私の笑顔は引きつることになる。

「ああ、君の部隊は短刀ばかりか。ははは、運が悪いねぇ」

貴様の頭に乗ってる少しばかりの髪の毛ひきちぎったろか、くそが。
心の暴言は秘めておいてメンバーの所へ戻るなり私は一言。

「殺れ」

とサムズアップ。久しぶりに作り笑顔じゃない笑顔になったぞ。
「何言われたんだ大将」
「短刀ばかりかプークスクス。と言う訳でお前らが殺れることを示せ。容赦なく叩き潰せ。ついでに刀装付替えるぞ」
と投石兵と銃兵の刀装を短刀達に渡す。
「先手必勝。容赦なく叩き潰せ。相手はただのメタボだ。気にすることはない」
五虎退がビクビクしているので背を叩いてやる。
「アンタは部隊長なんだからしっかりする。アンタは強いんだから自信持ちなさい」
この子は昔の私に似ているからついつい気をかけてしまう。
「は、はい!」

結果、快・勝!

投石と銃兵の金玉ナメんじゃねえぞ!弟バカにされた一期の殺る気もナメんじゃねえぞ。
相手のおっさんのぽかん顔が面白かったからこっそり写メっておいた。
そんでもって誉は五虎退。
「お疲れ。頑張ったじゃない」

今日のおやつは五虎退の希望でホットケーキになりました。
現世で暮らしてた頃よりは平和だわ。



(こんな日がいつか来るのだろうか。無理ですね)




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