■ブラック本丸にて:お兄さんトリオの場合

オッス、オラ木村!
・・・やっぱりふざけてないとやってられないこの状況。
机を挟んで水色マント、無表情、色気ピンクと向かい合っている。
死ぬ。人型生物と向い合せになるとかマジで死ぬ。何なのこの地獄の四者面談。
「この度は手入れをしていただきありがとうございました」
水色マントが頭を下げる。
おいやめろ、頭下げるな。何か私善人みたいじゃん。
無表情と色気ピンクは別段変わらないしもう部屋戻りたいって言うか殺せよ。
水色マントと五虎退たち、無表情と色気ピンクと小夜は兄弟刀らしく、五虎退に涙目で「手入れしてください!」とか言われてしまえば・・・やるよね、やっちゃうよね。
人型生物は嫌いだ。滅べばいい。しかし子供のお願いは無下にできない。
自分が辛かったのを思い出して辛くなる。だからこの三人を手入れした。後一人今剣に頼まれたでっかい人を手入れせねばならん。
「別に頼まれただけだから。あ、お礼と言うなら首落として?」
しかしその言葉に水色マントは苦笑しか浮かべないし、無表情は「和睦とは程遠いです」とかほざいてるし、色気ピンクは相変わらず何かよくわからん笑み浮かべてるし。
胃がきりきりしてきた。
「燭台切殿から話は聞きました。・・・貴女は本当に死にたいのですか?」
「神様ってくどいんだなぁ。死にたいって言ってるじゃん。人型生物滅ぼしたいんだってば。無宗教か、私が無宗教だからいけないのか?あ?」
水色マントはやっぱり苦笑しか浮かべない。
「審神者様。申し訳ありませんが、私は貴女を殺すことは出来ませぬ」
「は・・・?」
水色マントの言葉に私は口をポカンと開ける。
・・・神様マジ横暴だわー。ないわー。
「貴女は自分の為だと言いながら弟たちの手入れをしてくださり、それ所か弟たちの為に遊具や茶菓子等も仕入れてくれると」
「やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」
頭を抱える。どこ情報だ、弟情報か!そのまま机に額を叩きつける。
だから子供は嫌なんだ・・・思い出すんだよ・・・自分の幼少期思い出してあああああああああってなるんだよ。
ついつい甘やかしてしまうんだよ・・・。
「別にアンタたちが好きとかじゃない、子供の頼みは無下にできない、それだけだから」
子供に自分の過去を重ねるのは勝手だ。しかしそれとこれとは別だ。
6歳の頃に知った世間の不条理は今では私の常識である。
人は信じるな。
こいつら神様だって?二本足で立って歩いて人語を解してる時点で人間じゃボケェ。
「江雪殿、宗三殿がどうされるかはお二人の判断にお任せします」
スッと頭を下げて去っていく水色マント。おいこら殺せや。

沈黙が部屋に満ちる。

やっべ、超こええ、無表情と色気ピンク超こええ。
そこでハッとする。この二人なら殺しt
「殺しませんよ」
無表情ううううううううううううううううううう!きっさまああああああああああああああああああ!!
何故考えてること分かったんだくそっ!
「兄上がそういうのであれば、僕もそうしましょうか」
色気ピンクもダメだった。
無表情もお辞儀をして出ていく。
「・・・何で殺さないんですか?」
「何故でしょうね。殺してほしいと言われると殺したくなくなるからでしょうか?」
「わぁ・・・すっげえむかつく」

神様はいねえ、この世に神様なんて存在しねえ。
クソみたいに性格が悪い付喪神なら居たけどな!!

後でっかい人も何かがははは笑うだけで殺してくれなかった。神は死んだ!!

―――

■ブラック本丸にて:和泉守兼定の場合(再戦)

どっかの本丸が襲撃を受けたらしい。
それだけなら別にこっちは関係ないのだが、もしかしたら君の所の本丸の住所も漏れたかもてへぺろ★とか政府から連絡が来たのでカッターで腕切って流血させた。それを拭いたハンカチをピンク色のファンシーな便箋に「月夜ばかりと思うなよ」というオシャンティなメッセージ付きで政府に送り付けておいた。
そのあと土下座謝罪で資材渡された。いらねえ。殺せ。
五虎退他短刀と蛍丸に「お願い、襲撃されたら怖いからみんなを治して!」と涙目で言われて膝から崩れ落ちる私。
資材はたんまりある。くっそ、何が楽しくて人型生物の怪我を進んで治さなきゃならんのか。
しかしまぁ五虎退に泣かれるとなんか辛い。最初に治したからなのか妙に愛着?みたいなのが沸いているのは確かだ。

けっして虎に惹かれてるわけではない。だがショタコンというわけでもない。

五虎退が涙目になってる後ろで新世界の神みたいな顔してた薬研は絶対にアレ分かってやってる。くそ、奴の手のひらの上で転がされてるぞ私。
死んだ目で資材ぶっこんでは手伝い札を使い、資材ぶっこんでは手伝い札を使い全員の傷を治す(途中で黒い塊改め眼帯と初日の青いのも居た)。
わぁ、みんなけががなおってよかったね こんちくしょう。
・・・まて、怪我が治ったってことは元気になったってことだ、痛みなくころしてくr・・・ちくしょう!何でお前らそんな和気あいあいとしてんだ!ブラックだろ!?元ブラックなんだろ!?!?
人間なんてゴミだぜ!ヒャッハー汚物は消毒だ!とかやらんの?
そんな私の心なんて察しもせず(だから私は神様が嫌いだ)きゃっきゃとはしゃぐ付喪神、死んだ目をする私。
「次は刀装を作りましょう!」
五虎退に手を引かれて歩き出す。もうやだおうちかえりたい。
「主様は凄いですね。出来る刀装が全て特上です」
黄金に輝く玉、略して金玉の山を前にして五虎退が目を輝かせる。
「これ、そんなに凄いんだ」
「はい!前の主はこんなに作れませんでした!」
なるほど、前任の審神者は玉もロクに作れない玉無し野郎だった、と。
あれ?そういや元々の審神者の性別聞いてねえわ。・・・いや、今更やめておこう。
こいつらの時代で男同士が普通だったとしても私の今のSAN値でそれを聞いたら完全に耐えられる気がしない。
そもそもそういうことはお互いの了承を取ってでの出来事だ。無理やりは昔も今もアウトだ。
とりあえず五虎退と薬研に頼んで刀装をみんなに配ってもらう。
「・・・金玉二つ、か」
片手に一つずつむんずと掴んで私はキューティクルの元へと向かう。
顔は分かるんだが名前が出てこない。・・・なんだっけ。まあいいや、キューティクルで。
「キューティクル」
「あ?きゅ・・・何?」
相変わらず上から目線のキューティクルだこと。何でそんなにサラッサラなんだよ!何使ったらそうなるんだよ!!くそ!!
「お前はタマがなさそうだったから見繕ってきたぞ、喜べ」
前に狐と話した時にも思ったがここの男共は股に玉つけてるのか?ああ?という奴が多すぎる。
「はあ!?」
「だから金玉」
向こうで眼帯が「女の子がそんな事言っちゃいけません!」とか言ってるがスルーだ。しらん。
キューティクルはショックを受けたような顔をしていたが「お、おう・・・」と言って金玉を受け取る。
そんなことも何もこれは金玉じゃないか。それ以外のなんだ。
向こうから「かねさん!」という声が聞こえてきた。どうやらキューティクルの名前は「かねさん」らしい。
・・・面倒だからキューティクルでいいや。

―――

■ブラック本丸にて:薬研藤四郎の場合

私はこの薬研藤四郎が苦手だ。
理由?子供みたいなナリしてるくせに中身はキューティクルなんかよりももっと大人びているから。
私が子供相手に強く出られないことをすぐさま察して五虎退や秋田藤四郎を使って(と言うと言い方は悪いが)私を手のひらの上で操っている。
調べたら第六天魔王事織田信長の愛刀だったそうだ。魔王の刀こええよ。
しかも魔王の刀になる前の逸話更に怖い。自害しようとしたのにできないとかマジ何なのコイツ。

「よ、たーいしょ」
「・・・・・・」

相変わらず私の目は濁っている。死んだ魚とか言われるし。後目付きが悪いせいで怒っていると勘違いされる事も多い。
怒ってない。ただ、何も感じてないだけだ。
「何だ、そんな顔するなって」
「黙れ新世界の神」
うぐぐぐぐ、そうやって首を傾げる姿は子供らしいっていうのによお。何なんだよ外見詐欺かよ。
「で、何」
「大将は瞬間移動が出来るのか?」
薬研が隣に座った瞬間、私は一人分をすっと空けた。やめて真横に座られるとか私のSAN値が直葬される。
「で、用件は?」
「いや、大将がここに居たから声かけたんだが・・・邪魔だったか?」
おいやめろ、首傾げて子供アピールすんな。お前それ分かってやってるだろ?な?
「邪魔では、ない。流石に子供を無下にするほど性格は悪くない」
「初日全員が集まった大広間で三日月の旦那に掴みかかった女と同一人物とは思えないな」
カラカラと軽い笑い声を上げる少年は美しい。
そして私のテンションはダダ下がる。とりあえずやることやったからもう死んでもいいかなぁ、桜の花もきれいだしあそこでちょっと首つってくるわ。
用意していた縄を持った瞬間に輪の部分がすっぱり切られた。
「君さ、人の事大将とか言う割に切るね」
「そりゃあ俺っちは自刃させない刀だからな」
軽い口調で言ってニヤリと笑う。

だから、私はこの薬研藤四郎が苦手なのだ。

―――

■ブラック本丸にて:鶴丸国永の場合

「雪玉」
そう呼んだ瞬間真っ白い塊がぶはっと噴出した。
「いや、お前さん面白いな」
「あ、そっすか。面白いついでに首いっときません?」
しかし雪玉は「そんなことしたら俺が殺される」と笑うだけで抜刀する気配すら見せない。
「解せない・・・だってここはブラックだって・・・死ねると思ったから来たのに・・・」
「ふーむ、人間っていうのはつくづく面白い生き物だな」
驚きだ!とかどうでもいいからさぁ、一発スパッとやってくれよ。
それに関してはもう半分あきらめているので薬研が見ていない間にでも桜の樹で首つりを実行しようと思っているひゃっほう。
「いやはや、それにしても君の霊力は清らかでいいな。見ていて清々しい」
「あ?」
何を言ってるんだこの雪玉野郎は。雪原に埋めたろか。
「見目と魂は比例しないという事さ」
話を合わせるという事も出来ないのか雪玉。
最近じゃあ見張られているのか自殺しようとしても止められる始末。やっぱり夜間にやるべきかもしれん。
「おっと、夜間警護を忘れるなよ?驚かせても良いなら俺が買って出るんだけどなぁ」
「お前ら何?心読む機能でもついてるの?」
そういえば無表情も心読んできたし。
「そんな訳ないだろう。お、でもそんなことが出来たら面白いな!」
無意識なのか?逆にこええよ。
「はあ、じゃあもういい」
殺してくれぬ神様に用はない。

「お前さんは、何をそんなに急いでいるんだ?」

ぎしっと足元で板が音を立てた。
「・・・別に」

ああ、嫌だ。何でこいつらは。

―――

■ブラック本丸にて:短刀達が彼女を尾行してみた

彼らの新しい主は、完全に目が死んでいる女だった。
今までの後任の審神者は来るなり「人間を信用してほしい」「せめて手入れだけでもさせてほしい」と言ってきたが彼女の第一声は

「何で殺さないの?」

だった。
その時も完全に目は濁りきり何を見ているのかなんなのか。
あの三日月宗近も困惑するほどの錯乱っぷりを見せた女はふらりと部屋に戻り、また本丸内をうろつき、刀剣男士に出会う度に

「あ、殺す気になった?」

と尋ねる。
本人曰くとっとと死んで呪いになりたいらしいがこんな人間に出会ったことがない彼らは困惑した。
この人間は何故死というものに恐怖を抱かないのか。
何故死にたいのか。話をすれど濁った眼で睨まれ凄まれる。
しかしある日を境に短刀たちが手入れをされた。
「子供の怪我は見てられないんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
という絶叫が手入れ部屋から響いた。
短刀たちの泣き落としにより短刀達の兄弟刀や親しい友人である一期、江雪、宗三、岩融は手入れをされた。
女の目は完全に死んでいたが。
更に数日が過ぎ、どこかの本丸が歴史修正主義者に落とされたという知らせが入った時、刀剣たちは顔を見合わせた。
現在手入れをされているのは短刀と蛍丸(は外見が幼かったので彼女の良心を揺さぶったらしかった)と先日の4人のみ。
この本丸もバレてるかもしれない、そう政府から告げられた女の目は鋭くなった。でもやっぱり濁っていた。
何を思ったかカッターナイフを取り出し腕をざっくりと切りつけたかと思うとハンカチでそれを拭き取る。
桃色の紙になにかしら書きつけてハンカチとともにこんのすけを送り出した。
一時間後には政府職員が資材を大量に持って土下座謝罪をしに来た。一体あの女は何をしたんだろうか。
「いや、資材とか良いから殺してよ・・・」
やっぱり目は死んでいた。
「五虎退」
「え?何、薬研兄」
「審神者にみんなの手入れをするように頼め。・・・出来る限り涙目で」
薬研は知っていた。
【子供】というのが女の良心を揺さぶるものなのだと。
膝から崩れ落ちた女は死んだ目で全員の手入れをした。

「だから神様は嫌いだ」

という言葉を残して。


「あの、主様ってきちんとご飯食べてるんでしょうか」
ある夜の事、五虎退がポツリと言葉を漏らす。
「そういえば主って大広間でご飯食べてないもんね」
乱の言葉にそういえば誰も女の生活を知らないことを思い出す。
彼女はふらりと現れてはふらりと消える。もう死んでるんじゃないのか?とたまに思うこともある。
いつだったかは小狐丸と和泉守が廊下の掃除をしている女に会ったらしい。
その後燭台切が厨で自分用の食事を用意しているのにばったり出会ったがそれ以降厨で会うことはなくなったとのことだ。
殺してもらえないと察したのか女は「出陣も遠征もアンタらに任せる。私は分からないから口出さない。食事もアンタらとは別に取るし、用意しなくていい。殺す気がないなら居ないものだと思って」とだけ言ってまたふらりと出て行った。
一度気になってしまえば、新しい主(になる予定の女)が気になる。
「そうだ、明日は俺たち出陣も遠征もないし、大将の後をつけてみようぜ」
厚の一言で、短刀達の明日の予定は決まった。
朝一番に起きたのは小夜。
前田と平野を起こしてそっと審神者の執務室の方へ向かう。足音を立てないように慎重に進んで中の様子をうかがう。
人の気配はするが動いている様子はない。
「まだ寝ているのでしょうか?」
「かもしれません」
「出直す・・・?」
こそこそしていたらバレてしまう。廊下を戻り曲がり角からそっと確認する。
「出てきた・・・」
小夜の言葉に前田と平野は身を固くする。
女は部屋着で部屋の外へ出たかと思うと徐に縁側に座り、動かなくなった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
どのくらい時間が経ったか、微動だにしない。
一切動きがない。何を見ているのか、何処を見ているのか、そもそもアレ生きてる?
一度戻りましょう、平野の口の動きに二人は頷き音を立てずに部屋へ戻った。
「動かなかった」
「微動だにしませんでした」
「そもそも主君は何を見ていたのでしょうか」

なにそれこわい。

起きてきたと思ったら座り込んで動かない女。
人間って何だっけ?哲学的なことにまで発展しそうだ。
「つ、次は僕が行きます!」
「俺も行く!」
次に名乗りを上げたのは五虎退と厚だ。
三人が最後に見た審神者の部屋の前まで行くが、既に居ない。
「どこに行ったんでしょう・・・」
「探してみようぜ」
二人は並んで女を探し始める。
「あ、いました」
「どこだ?・・・って何してるんだ」
「草取り・・・?」
庭の端の方で何かが動いていると思ったら女だった。しゃがみ込んで雑草を抜いているようだ。
抜いて、放って。抜いて、放って。
ただひたすらにそれだけを続けている。
「一度戻って知らせましょうか・・・」
「だな」
未だかつてこんな人間を見たことがない。一度戻ろうとした時五匹の虎たちが女に向かって走って行った。
「あ!虎さん!」
「バカ!」
慌てて厚が五虎退の口を塞ぐ。
どうやら女には聞こえていなかったようだ。
「ん?ああ、お前たちまた来たの。どうした、お腹空いたの?」

笑った。

死んだ魚だとか光がなく濁った目をしていた女が微笑んだ。
「そして、何やってんのお前ら」
初めて生きている目を見る。

見目と魂は比例しないと鶴丸は言った。
「五虎退と手合せするのに鍛練場に向かう途中だったんだ」
「は、はい。あの、虎さんがごめんなさい」
見つかった時の言い訳を考えておいてよかった。
女は別にいい、と言いながら子虎を撫でる。
「・・・厚、五虎退」
「なんだ?」
「まあ、無理しない程度にやりな」
目線は足元にじゃれつく虎に向いているが、その声は他の刀剣たちに向ける声と違って優しさがにじんでいる。

悪い人ではない。ただ、壊滅的に目が死んでいるだけで。
「あの・・・今度僕たちと一緒にご飯食べませんか?」
「・・・・・・」
女の虎を撫でる手が止まる。
「それは、短刀達とってこと?それとも全員とってこと?」
「大将が全員とがいやなら俺たちだけでもいい。・・・・・・大将が飯食ってる所を見ないから少し心配だったんだ」
フッと女が顔を上げて二人を見る。
その目はいつものように濁ってはいないが、笑ってもいない。純粋に疑問に思っているようだった。
「・・・・・・まあ、少人数なら考えておく」
しかしそれも一瞬でいつもの死んだ顔に戻る。
「はい!」
それでも何だかうれしくて、五虎退は笑顔で返事をした。




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