「お母さん、具合はどう?」
病室の中、ベッドに横たわる千里に声をかける。
「わざわざお見舞い有り難うね。今日は大分調子いいのよ」
そう言って千里は笑うが、その顔色の悪さで『調子がいい』と言われても中々信じることが出来ない。
心の中の言葉を飲み込み、咲は笑顔を浮かべ良かったと返す。
「お父さんもお母さんのこと心配してたよ。あ、後お見舞い来られなくてごめんって」
「もう、あの人も忙しいんだからそんなこと考えなくてもいいのに」

(そんなこと)

大声を上げそうになる。
(そんなことって、何。お母さんは自分の体のことはどうでもいいの?)
先ほどと同じように言葉を飲み込む。心臓が痛い。
気持ちの悪い苦しさが喉元に広がる。
「新しいSPさん、いい人みたいね」
千里に言われ、慌てて意識を戻す。
「桂木さんのこと?・・・うん、いい人だよ」
今までのSPとは、少し違う気がする。だが、それが言葉に出来なくて上手く表現できないことに余計気持ち悪さが増す。
「ふふ、良かったわ」
「・・・?何が?」
咲は首を傾げて微笑む母親を見るが、千里は楽しそうに笑顔を浮かべるだけだ。
「ね、勉強はどう?はかどってる?」
問いただす前に質問されてしまい、聞く機会を逃してしまう。
特になんでもない話を思い出すままに口にしていく。
千里は頷きながら聞いてくれるのを見て、何処かほっとするような感覚を覚える。
「そうだ。お母さんも桂木さんに挨拶したいから、いいかな?」
「分かった。今呼んでくるね」
立ち上がり病室を出ると、咲は桂木を呼ぶ。
「咲は少し出ててもらっても大丈夫?」
「・・・うん、いいけど」
咲はちらりと桂木を見上げる。
「病室のすぐ外に居てくだされば大丈夫ですよ」
分かりました、と頷いて咲は病室から出て行く。
娘が完全に出たのを確認すると、千里はゆっくりと体を起こす。
桂木が慌てて制止しようとするのを手で止め、穏やかな微笑を浮かべる。
「初めまして、星水 千里です。旦那と娘の警護をしてくださって有り難うございます」
「星水総理とお嬢様の安全は私たちが必ずお守りいたします」
丁寧に頭を下げる桂木に、千里は

「あの子、少し扱いにくいでしょう?」

と困ったように笑いながら言う。
「いえ、そんなことは・・・」
「いいのよ。あの子、言いたいこととか全部飲み込んじゃう子だから・・・」
そう言って千里は息を吐く。
「私はずっと入院してるし、浩樹さんはお仕事が忙しいから・・・2人とも、あの子のことを考えてあげられる時間が少なかったから」
それから何かを考えていたが、暫くして口を開く。
「久しぶりに咲が笑うのを見たわ。・・・あの子、本当は素直な子だから・・・。咲のことを、どうか守ってあげてください」
逆に丁寧に頭を下げられ、少し困惑する。
「って、ふふ。少し話過ぎちゃったかしら。よろしくお願いしますね、桂木さん」
「必ずお守りいたしますので、安心してください」
それから、咲がまた病室に入るのと入れ替わりで外に出る。
「桂木さん」
「何でしょうか、お嬢様」
「・・・有り難うございます」
何に対しての礼なのかが分からない。
尋ねる間もなく病室の戸が閉められ、桂木は1つ息を吐いた。




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