沈黙。
こつこつという靴音だけが廊下に響く。
咲はそっと窓の外を見る。
(雪、強くなってきたな)
このまま行くと、明日には積もっていそうだ。
(・・・学校、休んじゃおうかな)
時々遠くに行きたいと思うことがある。どこか遠く、誰も自分を知らない場所に。
そこまで考えて無理に決まってると俯く。
何処に行っても『星水総理の娘』でしかありえない。
「お嬢様」
「・・・あ、はい」
呼ばれ、咲は立ち止まる。
まだここは家ではない。ぼんやりと考え事をするには、早い。
「この後どこかに行く予定はありますか?」
「いえ。お父さんにも会えましたし・・・後は帰るつもりです」
正直な所早く1人になりたかった。
父に会えるのは嬉しいが、総理官邸に居ると息苦しさを感じる。
咲という人間が消えていく感覚が、肌に刺さる。
「分かりました。では行きましょうか」
「・・・はい」
自分を車へと案内する桂木をぼーっと眺める。
(この人はどんな人なんだろう)
車に乗り、咲は運転をする桂木の背を見つめる。
ラジオもオーディオも流れない車内には会話は一切無い。
けれど沈黙は嫌いではない。むしろ、好きだ。
1人で思考に浸れるし、沈黙が流れる間は誰かにその思考を邪魔されることもない。
ぼんやりと考え事をする。

今日の晩ご飯はどうしようか、明日までの課題はなんだったか、受験に向けてもっと追い込まなくては。

ふと思い立って咲は桂木に声をかける。
「会合が終わるまで・・・ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします」
「それが私の仕事ですから」
桂木の返事に、そうですねと小さな声で返して窓ガラスに頭を預ける。
「・・・わたしは、守られるような人じゃないのに」
呟いてから咲は溜息を吐く。
「どうかしましたか?」
「何でもないです。・・・雪、積もってきましたね」
うっすらと積もり始めた雪を見ると、沈んでいた心が少しだけ浮かび上がる。
「えぇ、そうですね。風邪を引かないようにお気をつけてください」
一瞬言葉が飲み込めず、咲は瞬きをする。
今までだったら聞こえないふりをされたであろう言葉に、返答があった。
何故だかそれが嬉しくて、咲はクスクスと笑う。
「・・・お嬢様?」
「桂木さんも風邪には気をつけてくださいね」
口元に笑みを浮かべたまま、咲は窓の外の景色を眺め続けた。


―――
最後の頃に行くまで糖度少ないです。むしろ皆無です




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