雪が降り始めた。
まだ12月だというのに雪が降るなんて珍しい。
咲は傘をたたむと灰色の空を見上げる。
「お嬢様」
「あ・・・ごめんなさい」
自分を呼ぶ声に、咲は慌てて車に乗り込む。
「・・・今日は、このままお父さんの所に、ですか?」
「はい。本日はお嬢様に新しい警護の者がつきますのでその顔合わせです」
車を運転しながら言う郷田の背中に、咲はそうですか、と興味が無さそうに返事をする。
郷田に聞こえないよう小さく溜息を吐くと、雪のちらつく外の景色を眺める。
(どんな人なんだろう)
新しい警護の人。
(・・・きっと、今までと同じだよね)
俯き、スカートの裾を握る。

自分が心配されなければならない立場なのも、こうして警護がつかなくてはならない立場なのも分かっている。

現総理大臣、星水 浩樹の一人娘ともあれば、脅迫の材料として狙われることも多い。
特に、今は大きな会合を控えているためか父親を含め周囲の人間が神経質になるのは分かる。
分かってはいても、こうして友人と一緒に居る機会を奪われることや普通の生活を送れないということに対しての苛立ちのようなものは募っていく一方だ。
(雪になりたい)
ぼんやりと、そう思う。
しばらく車を走らせていると、やがて咲の視界には父親の居る総理官邸が映る。
「お嬢様、総理がお待ちです」
「・・・はい」
車を降りて慣れた足取りで執務室へ向かう。
「咲、来てくれたのか。・・・途中、危ないことはなかったか?」
「大丈夫だよ、お父さんは心配性だなぁ。あ、そうだ・・・新しい警護の人が来るんだよね?」
それでも、心配してもらえるのは嬉しい。けれど、これ以上その話が続くのは心苦しくもありわざとらしさはあるものの話題を変える。
「あぁ。桂木君、入ってくれるか?」
はい、と聞こえてきた低い声に咲は声の主を見る。
背の高い、黒い髪の男が執務室に入ってくる。
「桂木です。本日からお嬢様の警護の方を担当させていただくことになりました」
そう言って頭を下げる彼に対し、咲は慌てて
「あっ・・・あの!わたしの方が全然年下ですし・・・頭とか・・・下げないでもらえると・・・」
と尻つぼみになりながらも言う。
「わ・・・わたし、星水 咲です。よろしくお願いします、桂木・・・さん」
ペコリと咲は頭を下げる。
「はい、よろしくお願いいたします。貴女のことは私が必ずお守りします」
優しい笑みを浮かべながら、彼は言う。
「星水総理、お嬢様は必ずお守りいたしますので、安心してください」

(やっぱり変わらないな)

何処に行っても自分は所詮星水総理の娘でしかない。
胸に手を当てて、自分の心音を感じようとする。


(・・・明日は、何か良いことあるといいな)




―――
やらかした、やらかしちゃったよ!
おっさん(推定30前半)と女子高生!管理人が萌える!!←
何となく察してもらえると思いますが、この連載のイメージソングは蝶々Pの「心拍数#0822」です




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