「夜桜って綺麗ですねー」
月明かりの下でひらひらと舞う薄紅色の花びらを見つめながらわたしは後ろを歩く石神さんにそう言う。
月光に照らされた桜は太陽の下で見るのとは違う風情があるような気がする。
「あの、ほんとに明日のお仕事大丈夫ですか?」
散ってしまう前にこうして一緒に桜を見られたのは嬉しい。
・・・嬉しいけれど、それよりも石神さんの体の方が大事だ。
「ああ、これでも頑丈に出来てるからな」
「・・・充電式で?」
冗談めいた口調で言うと、石神さんが軽く頭を叩く。
「冗談ですよ!・・・でも最初に部屋を見たときに充電器がいっぱいあって一瞬・・・ほんとにびっくりしました」
石神さんが暖かい人間だとは分かってるけど、あの大量の充電器は・・・本気でびっくりした。
「・・・あの時固まってたのは」
「・・・・・・ごめんなさい」
素直に謝っておく。
石神さんは苦笑を口元に浮かべると、呆れたような口調でいつもの言葉を口にする。
「まったく、貴女は」
何も変わらないその口調に何だか嬉しくなって、思わず笑みが浮かぶ。
「咲?」
そのままの勢いで石神さんに抱きつくと、石神さんは少しためらった後にわたしの体を抱きしめる。

「前に」

石神さんが静かに口を開く。
「桜が見たいと言っていただろう」
「あ・・・覚えててくれたんですか?」
バッと石神さんの胸から顔を上げる。

・・・どうしよう、凄く嬉しい。

嬉しすぎて騒ぎ出した心臓が少し痛いくらいで。
石神さんはわたしを見下ろして、優しい笑みを向けてくれる。
当たり前だと言うようなその目。
前に風花を一緒に見た日。暖かくなったらお花を見に行きたいと言ったこと。
何気ない会話だったはずなのに石神さんは覚えていてくれた。
覚えていてくれて、それをこうして守ってくれた。
そのことがどうしようもなく嬉しくて、子供のように飛び跳ねて喜びたい気持ちでいっぱいになる。
・・・そんなことしたら石神さんにまた呆れられちゃうからやらないけれど。
「有り難うございます」
嬉しくて嬉しくて。上手く言葉にならない。
「次に行きたいところがあったら言ってくれ。・・・そういうのは疎いんだ」
「前にも言いましたけど、石神さんと一緒だったら何処でも楽しいですから」
そんなことを言いながら何処がいいかな、なんて考え出してしまう。
「あ、そうだ。お出かけもいいですけど・・・また今度ご飯を作りに行ってもいいですか?」
ディスカスにも会いたいです、と付け加える。
付け足したそれは、照れくささを隠すため。
「・・・ああ」

風が吹いて花びらが舞う。
嬉しさとか照れくささとか、色んなものがこみ上げてきて、わたしはもっと強く石神さんに抱きついた。



春風がくれたもの
(全部全部大事にしなきゃ)


―――
レアンドラ様からの160000番のキリリクです。二度目の獲得おめでとうございます
職場の近所にある学校の桜が綺麗に咲いてたのでお花見の話がいいなーなんて思ってたら同棲編のスパエンで夜桜見に行ったので「これだ!」と←

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