俺にとって、印象に残ったあの事件から3年の月日が経っていた。
「桂木君、今日はとてもいい日だよ」
総理の機嫌がいいように見える。
・・・いや、とても機嫌がいい。
「本日は何かご予定でも?」
「あぁ、咲が帰ってくるんだ」
嬉しそうに笑いながら総理が言う。
その名前を聞いた瞬間に、心臓が跳ねたのが分かった。
彼女は今、イギリスに行っていると噂程度の話だが聞いていた。
あの日、彼女から好きだと言われた日以来彼女とは会っていない。
大学での話やイギリスへの留学などの『ちょっとした』噂は耳に入ってくるが、出来るだけ聞かないようにしていた。
俺に出来ることは、彼女の幸せを願うことでしかない。

「桂木君」
「はい」

振り向いた総理はとても楽しそうな笑みを浮かべている、
「咲のことをどう思っている?」
思わず言葉に詰まったがどうにか口を開く。
「努力家で、」
ふと、最後に見た笑顔を思い出す。
「物事をしっかりとよく見ることの出来る、とても聡明な方だと思います」
そういうと何故か総理がため息を吐く。
「桂木君・・・君・・・本当にアレだね」
「は・・・はぁ・・・」
一体何の話なのかが分からない。
「あの子は変わったよ」
そう言って笑みを浮かべる総理の顔は、彼女の父親の顔になっている。
・・・別の人生を歩んでいれば、俺も父とわかり合えていたのかもしれない。
そんな無意味な想像が一瞬だけ浮かんで消えていく。
「それはきっと桂木君のおかげだ」
「・・・私は、何も」
出来ていない。彼女が変わったのは、彼女の努力だ。
「はは、まぁいいさ。咲に会ったら少し話をしてあげてくれ」
総理の言葉に曖昧に返しながら、日本に帰ってくる彼女の事を思った。







「うわぁ、久しぶりだなぁ・・・」
半年以上ぶりに見る官邸は何一つ変わりがないように見える。
「こんにちは、お疲れ様です」
「こんにちは。・・・あれ、初めて見る方ですけど」
玄関警備をしていた警官さんがわたしをじっと見る。
「父に会いに来たんです。まだ公務に出てないはずなので・・・」
そういうとそうだったんですか、と警官さんが笑う。
「・・・って、あれ。もしかして・・・咲さん、ですか?」
「はい。星水 咲と申します」
そういうと警官さんも名前を名乗ってくれる。
警官さん・・・真壁さんっていい人そうだなぁ。
頭を下げて官邸の中に入る。
懐かしさを覚えて思わず立ち止まる。
最後にここに来たのは3年前・・・最後に桂木さんに会ったあの日。
(SPさんの部屋に居るかな)
スーツケースを引っ張りながら廊下を歩く。
あの頃わたしは、何も出来ない子供だった。・・・それは今も変わらないし、自分を好きになれたわけじゃない。
それでも、少しは成長できたと思っている。
ノックをすると、中から声が返ってくる。
「失礼します」
ドアを開けると、茶色い髪の男の人と目が合う。
「此処に何か用か?」
じろりと睨まれて一瞬たじろぐ。・・・ちょっと怖い人?
「あの、桂木さんは居ますか?」
「班長に何か用なの?」
その声に応えたのは、明るい茶色の髪をした男の人。にこにこと笑っていて何だか優しそう。
「・・・班長?」
あぁ、そうか。桂木さん・・・自分のSPチームを持てたんだ。
3年の月日がどれだけ長かったのかがよく分かる。
「はい、桂木さんに少し話があって・・・」
ふぅん、と少し怖い男の人が呟くように言う。
「桂木さんなら総理に呼ばれてるからもう少しで戻ってくると思うぜ」
「そうですか・・・どうしよう、先にお父さんに挨拶しちゃった方がいいかな・・・」
でもそうすると桂木さんと鉢合わせしちゃうだろうし・・・。
ふと、ちょっと怖い人と笑顔の人が驚いたような表情でこっちを見ている。
「もしかして・・・星水総理の娘さん・・・?」
「はい。咲と申します」
頭を下げる。
「俺は一柳 昴」
「広末 そら。よろしくね」
よろしくお願いします、と笑みを浮かべる。一柳さん、思ったより怖くない人なのかな。
「班長だったら待ってればここに来るし、よかったら此処で待ってなよ」
広末さんの言葉に甘えることにして、わたしは椅子に座った。




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