きっと、これでよかったんだと思う。

あの事件から2ヶ月が経って、わたしはようやく進学する大学が決まった。
お父さんに会いに官邸にやってきたわたしは、桂木さんの後ろを歩いていた。
「そういえば、大学が決まったそうですね」
「はい、何とかギリギリって感じでしたけど」
苦笑を浮かべると、桂木さんはいつもの笑顔で貴女が頑張ったからですよ、と言ってくれる。
この2ヶ月、必死に努力した。
まだまだ始まったばかりで、出来ることは少ないけれど・・・

友達だって出来た。
人と話すことが出来るようになった。

全部全部、桂木さんのおかげだ。
桂木さんに相応しい人になりたかった。
何も出来ない、って自分の殻にこもるんじゃなくて、踏み出さなきゃって思った。

ピタリと足を止めて一度深呼吸をする。

「桂木さん」

きっと、言わなかったら進めない。

「どうしました?」

振り返ってどこか不思議そうな顔をする桂木さんを見て、何故かじわりと涙が浮かびそうになってくる。




「好きです」




必死に、それだけを口にする。
桂木さんが驚いたような顔をしたのが見える。
「お嬢様、私は」
「分かってます。桂木さんとわたしは・・・SPと警護対象です」
そんなことは分かっている。
分かっていても、好きで、どうしようもなくて。
「立場に差があるのも、年齢に差があるのも、全部分かってます」
それでも、わたしは。
「・・・お嬢様」
「名前」
俯いて、ポツリと呟く。
「一度だけでいいです、名前、呼んでください」
顔を上げると、桂木さんが戸惑ったような表情をこちらに向けていた。
何を考えてるのか、心の内を覗きたいと思う。
「・・・咲、さん」
温かい物が胸に広がって、口元に笑みを浮かべる。
「答え、今はいりません。我が儘で自分勝手だって分かってますけど・・・でも、大人になってから・・・もう一度好きだって言わせてください」
広がった温かい感情が逃げないように、私は手を握る。

「桂木さんに好きな人が出来たら諦めます。想いが遂げられなくても、いいんです。ただわたしは・・・桂木さんのことが好きです」

桂木さんが、何かを言おうとしては口を閉ざす。

「それまで・・・桂木さんを想っていることだけは・・・許してください」

我が儘だ、自分勝手な子供。そんなことは分かってる。

「咲さん」
「・・・はい」
「咲さんが・・・もう一度私の所に来てくれたなら・・・その時にお答えします」
その言葉に一つ頷いて、わたしは1人執務室へ向かう。




それから、桂木さんには一度も会っていない。




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