神様なんて居ない。

世の中は不公平で、理不尽で、本当に欲しい物はどれだけ手を伸ばしたって届かない。
ただ、普通に生きていたかった。
友達と笑ったり、遊んだり、時にはケンカして泣いたり。
そんなくだらないことがしたかった。

みんなは、お父さんが偉い人でいいね、と言った。

(そんなの、わたしには何の関係もないよ)

自分は何も悪くないのに狙われて、怖い思いをして。
みんなが当たり前に手に入る普通が、わたしには普通じゃなかった。
そんなわたしが手に入れた、普通は、人を恋う気持ち。

病院のベッドの上でわたしはぎゅっと手を握って目を閉じる。
わたしを庇って撃たれた桂木さんは今手術室にいる。
大丈夫だと言われても、不安はどんどん積もっていって、その不安が心を押しつぶしていく。
(桂木さん)
心の中で名前を呟く。
仕事だからなんて分かってる。それでもよかった。一緒にいられるなら、なんでもよかった。
その時、看護師さんが焦ったような表情を浮かべながら病室に入ってくる。
その表情に心臓が凍り付く。

「星水さん」
「あ、の・・・桂木さんは・・・」
看護師さんは口元だけで笑う。
「桂木さんの手術は無事に終わりました」
特に後遺症も残らないという言葉にほっとする。

(じゃあ、なんで?)

緩みかけた感情が、再び凍り付くのが分かる。
「・・・落ち着いて聞いてください、お母様・・・千里さんが・・・」





あぁ、ほらね。神様なんていない




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