体に走る鈍い痛みを感じながら、咲はゆっくりと目を開ける。
(・・・気絶してたんだ)
気を失う前と状況は変わっていない。
窓のない暗い部屋に、背中で両手を縛られて閉じ込められている。
何とか起き上がろうとするものの痛みで上手く体が動いてくれない。
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか。
「お父さん・・・大丈夫かな・・・」
殺されるかもしれない、ということよりも自分のせいで父が脅されていることが怖い。
「逃げなきゃ・・・」
ポツリと呟くが、冷静な自分が『どうやって?』と聞き返す。
血が抜けたせいか少しフラフラする。痛みを我慢して咲は起き上がると壁に体重をかけながらゆっくりと立ち上がる。
ズキリと脇腹が痛む。
(・・・頭殴られて、後は・・・蹴られた)
された暴力を思い出すと足に震えが走る。けれど、今はこうやって震えている場合でない。
足下が崩れそうになるのを必死に耐え、咲は部屋を見て回る。
殺風景な―というよりも出入り口のドア以外は何もない部屋だ。
ドアノブに手をかけ回すがガチャガチャという空しい音が響くだけで、咲は唇を噛む。
何でもいい。何か、脱出に使えそうなものはないだろうか。

いっそ、死んでやろうか。

ふとそんなことを思う。生きているから人質として扱われるのであれば、死んでしまえばいい。
けれど、涙が浮かんできて咲は床に蹲る。
「いやだ・・・」
のどの奥から言葉が漏れる。
「しにたく、ないよ・・・」
ガチガチと歯が鳴って体が震える。耐えようとしてきた恐怖に、ゆっくりと浸食されていく。

怖くない怖くない怖くない怖くない怖くないこわく・・・


――怖い!


首謀者の男は自分を人間扱いしていない。彼らにとって自分は『モノ』と同じなのだ。
人は、物を平気で壊せる。
彼らも同じだ。役に立たなくなった物は捨てられる。
人質として役に立たないと分かれば、見せしめに殺される。
「たす、けて」
息が上手く吸えず、口の中が乾く。

だれかたすけて。

小さな声で叫ぶ。
時間の感覚の分からない密室に、確実に心が軋んでいく。

「・・・?」

その時だった。遠くが騒がしい。
怒鳴り声と、大きな音がかすかに聞こえる。
それから靴音。
無意識に体が震え、ドアから離れようと慌てて立ち上がろうとして床に倒れ込む。

大きな音を立てて開いたドアに、咲は強く目を閉じた。




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