窓のない部屋に入れられてからどれくらい時間が経ったのかが分からない。
背中で手を縛られていては何も出来ず、咲は何も考えないようにと目を閉じていた。
それでも、最後に見えた桂木の驚いた顔が目に焼きついて離れない。

「ごめんなさい」

こんなことになってしまった。
信じると言ったのは自分だったのに、結局は信じきれずに今こうして自分は捕らわれている。
(死ぬのかな)
きっと、殺される。
(お父さん・・・わたしのせいで脅されちゃうのかな)
じわり、と涙が浮かんでくる。
あの時自ら郷田についていかなければ、千里は殺されていた。
けれどこうしてついてくれば脅迫の材料にされる。
(わたし・・・なんでいるんだろう)
「ごめんなさい」
声に出してもう一度謝る。息が苦しくて、泣きそうになる。
何も出来ないくせにこうして迷惑をかけるだけしか出来ない自分がいやになる。
その時だった。
ガチャリと音がして暗い部屋に光が差し込む。眩しさに目を細めるとそこには郷田ともう1人男が立っている。
「郷田、コレがか?」
『コレ』という言葉に、咲は自分が人間扱いされていないことを察して体を硬くする。
「はい。星水総理の一人娘です」
男は部屋に入るなり咲の米神の辺りを殴る。
いきなりのことに声も出せず、頭に走った痛みを理解したのは少し立ってからだった。
頬を何かが伝っていく感覚がする。どうやら殴られたせいで少し傷が出来たようだ。
「泣け。泣き叫んで父親に助けを求めろ。そうすれば強情なあの男も動くだろう?」
そう言ったかと思うと今度は腹の辺りに蹴りを入れる。
衝撃に息が詰まり、恐怖で思考が止まる。

怖い、どうしよう、痛い。

最初に浮かんだのは『何故自分がこんな目に合わなくてはならないのか』だった。
(わたしが、総理大臣の娘だから)
それでなければ星水 咲に価値なんてない。
男が郷田に顎で指示をする。
受話器を見て、咲は1つ息を吐く。
自分に出来ることは、1つだけだ。

「こんな人たちに屈しないで!」

声を張り上げる。
「わたしは大丈夫だから!だからお父さんはこんな人たちに負けないで!」
「てめぇ、ふざけんな!」
鈍い音がして、また殴られる。
電話口の向こうから咲を心配する声が聞こえる。
「お父さんは、何も悪くないよ。お願いします、どんな結果になっても・・・お父さんを責めないで」
それだけを言うと咲は口を閉じる。
「使えない人質だな」
腹いせとばかりに再度蹴られ、むせる。
「聞こえているか?星水総理。・・・大事な娘をこれ以上傷つけたくなかったら、さっさと仕事を降りるんだな」
ゲラゲラという笑い声が遠くなっていく。
(お父さん・・・辞めちゃ、ダメ・・・)
叫びたいのに鈍い痛みがそれをさせてくれない。
ゆっくりと、意識が闇に沈んでいった。




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