「この前は大丈夫だったか?」
「うん。桂木さんが居てくれたから大丈夫だったよ」
頷きながら言うと、浩樹は安心したように笑う。
この前の、というと先日官邸へ向かう途中に襲撃されたことを言っているのだろう。
まだ思い出すと震えはくるものの、こうしてたいした怪我もなく生きているというのはほっとする。
「桂木君、娘を守ってくれて本当に有り難う。会合が終わるまではまだ気が抜けないが・・・これからもよろしく頼むよ」
「はい。・・・総理、少しお話したいことがあるのですが」
桂木にしては珍しくとまどいの見える声に、咲は
「大事なお話なんですよね?わたし、客室の方に行ってます」
そう言ってきびすを返す。
「申し訳ありません、お嬢様」
「いえ。お仕事の邪魔したら悪いですし、気にしないでください」
それから浩樹にお仕事頑張ってね、と声をかけて執務室を後にする。
(とりあえず勉強しよう)
いつも使っている客室へ向かう足が無意識に速くなる。

「お嬢様」

ふと後から声をかけられ、立ち止まる。
「郷田さん?」
首を傾げる。
今彼は千里の警護の方へ回っていたはずだ。それを尋ねると今は別の人と交代していると返事が返ってくる。
「お嬢様もこの前は大変でしたね・・・。相手は銃を持っていたとか」
「え・・・えぇ」
何で知っているんだろう、とぼんやりと思う。
それからSPなのだから話を聞いていて当たり前だ、と思い直す。
「お気を付けてくださいね」
「有り難うございます」
少し居心地が悪くなり、咲は頭を下げてからまた歩き出す。
以前こちらの警護をしていたのだが、咲は郷田が少し苦手であった。
(目が怖いんだよな)
彼のこちらを見るときの笑っていない目は何度見ても、慣れることが出来ない。
(何て言うかこう・・・・・・)
立ち止まる。
それから、振り返って郷田の姿を探そうとするが彼はもう居なくなってしまったらしく廊下を見渡しても見つけることが出来ない。

「まさか、ね」

自分に言い聞かせるように呟く。
推論で勝手に人を決めつけてはいけない。
それでも、ぞっとする。あの笑っていない、こちらを見下すような目。
(怖い)
それを振り払うように足早に歩く。

気のせい。全部気のせいだ。

そう思い込もうとする。
その時、咲のケータイに着信が入る。
(非通知・・・?)
一瞬迷ったが、通話ボタンを押す。
「・・・もしもし?」


『お嬢さんこんにちは。お母様を殺されたくなければ1人で病院にいらっしゃい』


電話の向こうから聞こえる無機質な声が、冷たく聞こえる。
「・・・病院ですね」
無機質な声が、愉しそうに笑った。




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