わたしの中で何かが変わった。
その『何か』はまだ良く分からないけど、最近は1人で居ても変な考えにふけらないで済んでいる。
(――さん)
ふっと頭に浮かんだ名前を、首を振って否定する。
それから、宝物を仕舞うようにその名前を心の中に閉じ込める。
持ってはいけない感情だ。
・・・だから、『宝物』。
死ぬのは怖い。傷付くのも怖い。
でも、――さんが傷付く方がもっと怖い。
ズキリと胸の奥が痛んだような気がして溜息を吐く。

わたしはただの警護対象。

総理大臣の娘であって、それ以上でも以下でもない。
むしろ、大事なときに弱音ばかりの情けない子供。
ココアの入ったカップをぎゅっと握る。
じんわりとぬるい温度が掌に伝わって、目を閉じる。
もっと違う立場だったら。

例えば、わたしが総理大臣の娘じゃなかったら。

でもダメだ。それじゃあ出会えなかった。
わたしが総理大臣の娘で、彼がSPだったから。だから、出会えた。
立場も年齢も、大きな溝。わたしと彼は何もかもが違う。
そしてその溝は埋めることが出来ない。
埋めようと努力しても、きっと出来ない。
だから『宝物』にしておきたい。
汚い感情で宝物が汚れないようにしよう。
キラキラと輝く宝石と同じくらいの価値があるものにしよう。

(雪になりたい)

降って消える。
冬の寒さが厳しいから、春を嬉しく思える。

(どうしよう)

そっと、目を開ける。

「わたしは、貴方が―――」

口の中でそっと呟く。
誰にも言えないこの言葉は、わたしだけの『宝物』。


―――
閑話休題。
ヒロインの心情とか色々。
若干桂木さんの心情も変わってきたっぽい今日この頃・・・




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