ある日の事。
「SPの仕事って大変なんですね・・・」
咲と桂木の【お茶会】は3度目を迎えていた。
2度目はお茶だけだったが、今回に至っては何故かクッキーまで用意されている。
「お嬢様?」
「はい、何でしょうか」
ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべたまま咲は返す。
「その・・・あまりこういったことをされるのは」
「息抜きです」
けれどきっぱりとそう返され口をつぐむ。
「桂木さんは」
カップをテーブルに置くと、咲は彼から視線を外す。
「まるっきり他人だから・・・、逆に安心できるんです」
それから苛立たしげに筆箱に付いているキーホルダーを弄る。
昔友達だった人から貰ったそれを見ていると、胸が焼けるような怒りを覚えるのと同時に泣き出しそうになる。
それでもそれを未だ目に見える所に付けている自分が腹立たしい。

「わたしは、わたしが嫌いなんです」

桂木が息を呑んだのがわかり、咲は微笑む。
「守られてる自分も、何も出来ない自分もだいっきらい」
彼女の顔に浮かんだ自嘲の含まれた笑みは今まで見てきたどれにも当てはまらなかった。
その目はとても暗い。
「自分が守られてなければいけない立場なのは分かってます。でも、それを受け入れられないんです。そして、それを受け入れられない自分が更に嫌い」
「お嬢様」
クスクスと、喉で笑う。
「・・・私が、それを総理に言わないとでも」
「言いませんよ、桂木さんは」
そう言ってカップに口を付ける。
「何ででしょうね。でも、何となくそう言い切れるんです」
ふわりとどこか嬉しそうに笑う。
「だってそれに、お茶に付き合ってくれるじゃないですか。これ・・・とっても嬉しいんです」
年相応の笑顔に目の前の少女の苦労が少しだけ垣間見える。
「私で良ければ、お付き合いしますよ」
「本当ですか?有り難うござます」
その本当に嬉しそうな様子に一瞬そう答えて良かったものかと迷いが生じる。

警護対象と親密になってしまってはいけない。

けれど、咲の口から流れた次の言葉でそれが揺らぐ。
「総理の娘だから誰も誘ってくれないし、誘ってもらえても総理の娘だからって勝手に遠慮されちゃうんですよね」
困ったように眉を下げ咲は言う。
「それに・・・こっちから誘っても、やっぱり総理の娘だからって断られちゃう」
初めて彼女の口から『総理の娘であること』への不満が流れる。
すぐに自分が何を言ったのかを理解したらしい。
咲は口をつぐむ。
「あ・・・この後はお父さんの所に行くんですよね?急ぎましょう!」
彼女にしては珍しく慌てた様子で桂木を促した。




何かが壊れたような気がした。




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