どうも、三十路超平均審神者です。
最近どうも刀剣たちの様子が可笑しい。とにかく可笑しい。
話しかければ避けられるし、ご飯の時も妙に静かだし。
山切君すらなんか目を合わせてくれない(これは元からか)。

ああ、とうとう謀反かな。

ふふふ、と遠い目をして笑う。
この本丸が稼働して6年。レア太刀などと呼ばれる高尚な存在は演練でしか見ることが出来ず、とはいえみんなこんな平均女を主と慕ってくれていた。
・・・どこかできっと対応が間違っていたのかもしれない。
ぼけっと縁側に座り空を見上げる。
現世では何月になるのだろうかと考える。春の庭では桜が美しいがそろそろ夏に変えてもいいかもしれない。
ああ、そういえば。
先日検非違使に重傷を負わされた山伏さんと話をしたのもここだった。
その後二人で畑仕事をしていたら山切君に二人そろって正座で怒られる羽目になった。
山伏さんは正座に慣れていたからいつもみたいにカカカって笑っていたけれど私は慣れていないのでその後足がしびれて死にかけた。
立ち上がろうとしてもつれて山伏さんの方に倒れこんだ、二度死んだ。
「ぎゃああああああああすいません!」って謝って慌てて離れようと思ったら私が山伏さんを押し倒すような形になってしかも山切君に見られた、三度死んだ。
ふふ、あの時は恥ずかしかった。あの時に切腹でもしておけばよかった。

「そうだ、切腹しよう」

私は皆に人間を恨んでほしくないし、私程度の能力者じゃなくてもっと強い人はたくさんいるんだよ!ごめんね!こんな平均値BBAで!!
ゆらりと立ち上がって鍛刀部屋へ向かう。
「妖精さん、自刃用の刀を作ってくれないかな」
そういうと鍛冶妖精さんたちが目に見えて慌て始めた。
「ふふ、いいんだよ。私程度の人間が君たちに頼みごとをしてごめんね・・・。人間は腐ってるやつばかりじゃないんだ・・・私の命で済むなら安いもんだよ・・・」
しかしまあ6年一緒だった人に謀反起こされるのは悲しいかな。人間社会はやっぱり能力がないとやってけない。
知ってる。知ってた。
だから
「切腹なんて怖くないいいいいいいいいいいいいいい!!」
「主殿!?」
なんかもう切れれば何でもいいやって感じで置いてあったカッターナイフを手に取ったら羽交い絞めにされた。
「山伏さん!止めないでください!」
しかし刀剣男士・・・しかも鍛えていて体力ばっちりな男の人とHPすら平均値のババアじゃあもちろん分が悪く俵担ぎをされる。
「主殿は目を離すとすぐに姿を消してしまうので困るなぁ」
カッカッカと笑われて穴があったら入りたい気分になる。いっそ埋めてほしい。
「人をまるですぐ迷子になる子供みたいに・・・」
「我々からすれば主殿は幼子同然であるぞ」
「30過ぎたババアですけどね」
ああもう諦めよう。山伏さんが歩を進めるたびにゆっさゆっさ上下に揺れるから腹が押しつぶされる。きもちわる・・・。
「兄弟、もう準備はいいか?」
「ああ、大丈夫だ」
What?
え?何?何なの?こっこここここ、殺される・・・!?
山伏さんに降ろされて覚悟を決める。
緊張で口の中がカラカラになったがギュッと目を閉じて襖を開ける。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何やってんだ、大将」
薬研君の声にそっと目を開けると、何かテーブルの上にはめったに見ない豪華な料理が並んでいた。
何ぞこれ。何だこれ。
今の私の顔はさぞ愉快なことになってるんだろう。薬研君は喉の奥でくつくつと笑っている。
「えーと、これは、なに?」
「いつも僕たちの事を考えてくれている主様に感謝を示す宴です!」
五虎退君の言葉に、私はお、おう・・・という反応しか返せない。
「山切君」
「何だ」
「最近皆なんか私の事避けてたじゃない?」
「ああ、準備で忙しかったからな」
「む、謀反とかじゃなく!?」
「何でそんな事する必要があるんだ・・・」
ああ、山切君の「こいつバカじゃないのか?」という視線すら懐かしい。
この子たち本当にいい子だ。何でこんないい子たちを疑ってしまったんだろうか。
そう思うとボロボロ涙が出てくる。
「だ、大丈夫ですか!?主様!」
「五虎退君んんん!ありがとうううううう!みんなの様子が可笑しいからとうとう愛想尽かされたと思ったんだよおおおお」
思わず廊下に座り込んで泣き出してしまう。ああ、やっぱり、私は泣き虫だ。
「そ、そんなことしませんよ!ね!薬研兄!」
「そうだぜ。大将。とりあえずそんなところで泣いてないで食おうぜ。飯が冷めちまう」

男前・・・!イケメンがここにいるぞ・・・!

五虎退君に手を引かれて上座に座る。
私は上座に座れるような身分じゃないけれど、皆は「主だから」って座らせてくれる。
先日胸を張れるようになんて思ったのにこれじゃあダメじゃないか。
「主殿、これをお使いくだされ」
「ありがとうございます」
いつのまにやら居なくなっていた山伏さんは手拭いを冷やしに行ってくれていたようで、受け取ってありがたく使わせてもらう。
五虎退君を始めとして短刀達が頑張って作った料理は少し形が崩れているがとても美味しくてそれでも涙が出てくる。
うちの刀剣たちがこんなにもかわいい。一期一振さんを呼び出せない私にも優しい。
ちなみに謝罪4回目くらいで薬研君に「こればかりは縁だから大将が悪いんじゃない」って言ってくれた。力なくてごめんよ!!
ごちそうさまでした、と両手を合わせたら今度は短刀達が「食後のおやつです」と大福やら羊羹やら色々持ってきてくれる。
え、もしかしてこれも作ったの?
少しいびつな形をしているそれがとても嬉しいしありがたい。
そんなこんなで食事が終わり、片づけはするから休んでて!と広間を出される私・・・と山切君。
「山切君、ほんっとうにありがと・・・げふっ」
いつもの癖で山切君に抱き着こうと思ったらなんか首・・・首の辺り掴まれ・・・待って、意識遠のくから・・・。
「何してるんだ兄弟」
あ、山伏さんが掴んでるんだ・・・止めろよ。
「む・・・すまない、主殿」
「いえいえ、大丈夫ですよ。首しまったくらいで死ぬほど軟じゃないです」
襟元を直して山伏さんを見上げると、何だか困った表情をしている。
「どうしましたか?あ、どこか痛むとか?」
いつもとは違う表情にハッとなる。
どこか苦しそうと言うか痛そうと言うか。
「むう、何故だろうな。心ノ臓が痛む」
「え!?何だろう、何の病気!?心臓・・・心臓の病気・・・」
心筋梗塞とか!?
あ、あとは何だろう。心臓の病気ってかなりまずいよね!?
「や、山切君!手入れ部屋!手入れ部屋用意しよう!っていうか刀剣男士ってそういう病気になるのかな!?そして手入れで治るのかな!?」
「落ち着け」
山切君の冷ややかなツッコみと共に頭に手刀が入る。
「別に兄弟のそれは手入れが必要な奴じゃないだろう」
しかしまあ、何故か山伏さんの表情は固い。
「兄弟、俺は片づけに戻るからコイツと茶でも飲んで来い」
「え?山切君も一緒に飲もうよ」
「俺はいい」
6年間一緒の初期刀が私に冷たいです。
「山伏さんは大丈夫ですか?具合悪いのであれば部屋に戻って休んでた方が・・・」
「いや、問題ない。兄弟もああ言っていることだ。主殿が良ければ茶に付き合おう」
「はい。じゃあお茶を用意してきますね」
ああ、穏やかでなんて幸せな時間なんだろうか。



「大丈夫か?兄弟」
審神者が厨に向かって行った頃合を見計らって山姥切は広間から顔を出す。
「うむ。しかしまだ痛むままだ」
ここの主も、彼の兄弟も、どっちも厄介な人物だ。
彼はそっとため息を吐く。
「・・・アイツと一緒に居ればそのうち治まるだろう」

主とその刀は、恋を知らない。



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