多分これって修羅場っていうやつだと思う。
受け入れた見習いちゃんはぐすぐす泣いていて、刀剣達は私に殺気を向けている。
掲示板なんかで時たま見たけど、本当に見習いによる本丸乗っ取り事件ってあるんだね。現在進行形で起きている出来事だから目をそむけるわけにはいかない。
「・・・私が、何をしたって?」
「俺、アンタは優しい人間だって思ってた。それなのに見習いちゃんの方が優秀だから殴るなんて酷いよ」
清光の言葉に私ははて、と首を傾げる。
確かに見習いちゃんの頬には殴られたような赤い痕が残っている。
更に首を傾げる。私はチビだ。150センチあるかないかというレベルでのチビだ。
対して向こうは160以上ある。いいね、身長。殴るの難しいと思うんだよね。
でも誰も気づかないね。仕方ないね。

8年間の絆なんて長い時を生きた彼らにとっては一瞬の事だったんだろう。

私は12歳の時に政府に拉致されてブラック本丸に放り込まれた。
何でも私の霊力は浄化に特化していたから堕ちかけている刀剣達を鎮める為の人柱として売られたらしい。
まあ一本刀を持たせてもらっただけマシだと思うけど。
そんな私の初期刀である堀川はハラハラとした表情で私と清光を交互に見ている。
アレはどういう表情なのかな?清光、さすがに切ったらまずいよ!かな?それともあの女余計なこと言わないだろね?かな?
なんかもうどうでもいいや。
「確かに、審神者と言うにはお主は力が足りないなぁ」
三日月がそう言って妖艶に笑った。
そうだね、私は刀は鍛刀できても顕現させられない審神者だからね。
厳密に言うと、浄化に特化しすぎて顕現させると体力をごっそり持って行かれる体質だ。
太刀を顕現させると3日は寝込む。
そのせいでこの本丸は刀の数が少ない。
そうかそうか。見習いちゃんはそう言って彼らを取り込んだか。兄弟刀が居ないっていうのも問題だったか。
後は言霊使えるタイプだなぁ、あの子。
三日月の言葉で一気に彼らは見習いちゃんに傾いた。
誰かに、お前は要らないって言われた。
うーん、流石にその言葉は堪えるなぁ。

「何で表情変わらないの?気持ち悪い」

清光の罵倒を受けても、私の表情は変わらない。
8年前、拉致されて、両親に売られて、殺気と怨念渦巻く場所に放り込まれて・・・私の顔からは表情が消えた。
偶に笑えることはあれど表情筋は死んでしまったのか初期刀の堀川が気付く程度のものだ。
「分かった。こんのすけ、役人呼んで。ここの本丸と刀剣男士を彼女に譲る。・・・何かもうどうでもよくなったし」
こんのすけはずっと私の味方だった。悔しそうな表情を浮かべたがかしこまりました、と広間から出ていく。
「じゃあ役人来るまで待ってて。書類一枚で引き渡し完了するんだから楽だよね」
よっこいしょ、と親父臭い掛け声を上げながら立ち上がる。
何処に行くの?と言って清光が刀を抜いた。
「部屋に行く。出ていくんだから荷物まとめないと。・・・まぁ、8年経ってもほとんど増えてないからすぐ終わるよ」
私の8年って何だったんだろう。

「いいよ、もう、何も要らない」

「主さん!」
「国広!?」

ポツリと本音が漏れた。その瞬間聞こえてきた堀川の悲鳴、と和泉守の声。
振り向いたら血が飛び散っていた。
「国広君!!」
血塗れの刀を持って呆然とする清光。
「主さん・・・大丈夫ですか・・・?」
「あ・・・あ・・・」
慌てて私は上着を脱ぐと堀川の背中の傷口を押さえつける。
「加州、てめぇ・・・よくも仲間に刀向けられたな・・・」
和泉守も完全にキレているのか抜刀しかけている。
「兼定君。そんなことより国広君を手入れ部屋に連れて行くの手伝って。・・・・・・ごめんね、国広君。私もまさか斬りかかってくるとは思わなかった」

あーあ。本当に8年間って何なんだろう。
清光は「初期刀貰ってないの!?じゃあ俺が主の初期刀!」とか言ってくれてたし、三日月だって慣れてきたころから一緒にお茶したり仲は良かったはずなんだけどなぁ。
思わずもうやめたはずの最初の頃の呼び方に戻ってしまった。
昔は皆を「君付け」で呼んでたな。今じゃなくなったけど。
和泉守が堀川に肩を貸して手入れ部屋へ向かっていく。
私は残った面々を睨んだ。
息を呑むような悲鳴は誰の声だろう。・・・もう、興味がないからどうでもいいけれど。

「アンタたちなんて、もう要らない。勝手に見習いの刀にでも何でもなってて」

そう言って怒りに身を任せて襖を閉じる。追ってこられると面倒なので札で封じておく。
我に返ったらしい清光の主?主?っていう声が聞こえてきた。
「私はもうアンタの主じゃない。私なんかより見習いちゃんの方が力あるしね。でもクソチビが身長差ある人間を殴ったりすることが出来ないっていうのは気付いて欲しかったなー。もうどうでもいいけど。アンタたちなんて要らないし」
そう言った瞬間清光が悲鳴を上げた。
気付いたのかな?見習いちゃんが言った「私がしたこと」の矛盾。
でももう今更だよね。
清光が抜刀した時私を庇ってくれたのは堀川で、それに対して怒ったのは和泉守。
その他は動こうともしなかった。
とりあえずうるさいから防音仕様にしておいた。
途中でこんのすけが役人を連れて来てくれたので経緯を説明して受渡し書にサインをする。
「あ、煩いから札で封じてあるんで気を付けてくださいね」
それだけ言って手入れ部屋へ向かう。後ろで私の担当さん(拉致った人じゃなくて後任さん。いい人)と見習いちゃんの担当さんが困惑したような気配がしたがもういい。
「国広君、今手入れするからね」
「すいません、主さん・・・」
謝らなくていいよ、こっちこそごめんね、と言うと堀川は苦笑を浮かべる。
「皆気付かなかったんですね」
「・・・だな」
和泉守も沈痛な声を出す。
「いいよ、もう。私はここから出ていくし。・・・この後どうなるんだろう。私もう審神者やりたくないんだけどなぁ」
二人はどうする?と一応聞いておく。
清光が堀川を切っちゃってるし、堀川は残るの嫌だろうなぁ。そうしたらきちんと手順踏んで刀解しないと。

「主さんについていきます」「アンタについていく」

間髪入れずに返された言葉に、喉がひりついた。
嬉しいけれど、それが表情に出ない。
「あ、主さん笑ってる」
けれど、堀川は気付いてくれた。和泉守もお、本当だとか言ってくれてる。

・・・ちょっとだけ、8年間は無駄じゃなかったんだなって思った。

手伝い札を使って堀川の手入れを終わらせて二人と一緒に広間に戻る。
地獄ってこんな感じかな?
清光は泣き叫んでるし、三日月は呆然と私を見てるし。
でも三日月が言ったのは本音なんじゃね?と思う私も居る。
阿鼻叫喚なこの場所を見ても私の心は動かない。
「審神者様。引き渡しの書類に向こうがサインをくださいました」
「ああ、ありがとう。国広君と兼定君は私と一緒に来てくれるっていうから連れて行くね」
「かしこまりました」
その言葉に何で!?という悲鳴が上がる。
「だって二人は即答で私と来てくれるって言ったし。私としても国広君は初期刀だから来てくれるって言ってくれたの嬉しいし、兼定君も良い子だから怒ってくれたの嬉しいし。っていうか仲間を切るような人は怖いからやだよ」
珍しく死んでる表情筋が仕事をしている。
「見習いちゃんの方がいいからこうやって謀反を起こしたんでしょ?三日月だって「力が足りない」って言うのが私に対する本音なんでしょ?だったら私は素直に身を引く、アンタたちは見習いちゃんの刀になる。それでどっちもハッピーでしょ」
堀川と和泉守が私の両脇を固める。


「アンタたちなんかだいっきらい。もう二度と会いたくない」


久しぶりの表情が人を睨むのだなんて嫌だったけど、仕方ないよね。
悲鳴が上がり続ける広間を私たちは後にした。

―――

某審神者専用スレッドにて

541:名無しの審神者
誰かこれもらって
【床に並べられた三日月宗近の本体が三本並んだ写真】

542:名無しの審神者
>>541 は?何これ釣り?

543:名無しの審神者
>>541 三日月・・・だよな?もらってって何?どういうこと?

544:名無しの審神者
悪趣味な釣りやめろよ

545:名無しの審神者
三日月だよ。釣りでも何でもない。こいつには二度と会いたくないから欲しい人にあげたい。
何でオール50で三日月出てくるの?向こうが要らないって言ったからこっちも二度と会いたくないって言ったのに意味わからない

546:名無しの審神者
釣り乙wwwww
・・・って言いたいんだがうちの石切丸が写真をみて三日月が泣いてるって言ってる。お前何したんだよ。

547:名無しの審神者
545大丈夫か?何かお前SAN値削れてね?
っていうかオール50で三日月て
とりあえず経緯kwsk

548:名無しの審神者
そこはかとなくブラックのかおり

549:名無しの審神者
詳しくと言われても
子供のころに政府に拉致されてブラック本丸に初期刀(堀川)と一緒に放り込まれて何とか再建したけど見習いちゃんに乗っ取られただけだよ。
もう色々なことが面倒くさくなったから見習いちゃんに堀川と和泉守以外は全部渡してこっちの捨て台詞として「もう二度と会いたくない」って言い捨てた。
それで三人+こんのすけで新しい本丸に移って、とりあえず鍛刀したらオール三日月。
折りたい。

>>546 石切丸ってあの三条の緑の服着た人だよね?念とか飛ばせないかな?「泣きたいのはこっちだ」って伝えてほしい。

550:名無しの審神者
え?拉致されてブラック本丸?
とりあえずコテつけて詳しく話なさい

551:名無しの審神者
マジかよ・・・政府クソだな・・・

552:チビ審神者
150あるかないかだからコテハンはこれで。
後はスペック?でいいんだよね。
・20歳女
・12歳の時に政府に拉致→そのまま両親が政府に売る→ブラック本丸にブチ込まれる
・上記の事情のせいで表情筋がほぼ死滅。滅多なことじゃ表情が変わらない
・初期刀は奇跡的にもらえた。脇差の堀川国広
・浄化に特化した能力で、刀剣男士を顕現させようとすると体力をごっそり持って行かれる。そのせいでブラックから抜けた後も刀剣の数が中々増えてない

こんな感じでいいのかな。
じゃあ経緯について書いてくる。







621:名無しの審神者
チビ・・・本当にごめんな・・・
刀剣たちの手のひら返しがすげえムカつく・・・

622:名無しの審神者
おいやめろ清光。向こうの清光切ろうとするんじゃない、いけないから!

623:チビ審神者
大丈夫。辛いって感覚も大分マヒしてるし。
国広君と兼定君が一緒に来てくれるって言ってくれなかったら発狂したかもしれないけど。
と言う訳で誰か三日月貰って。
私あの人嫌いだし二度と会いたくないし。

624:名無しの審神者
その話を聞いて、チビの所に出てきた三日月を欲しいとは思えない・・・難民だけど・・・

625:名無しの審神者
っていうか向こうから要らないだのなんだの言ったくせにチビから大嫌い、二度と会いたくないって言われてガタガタ言うとかなんなんだあいつら。

626:チビ審神者
顕現させてくれー、させてくれーってガタガタ震えまくっててうっさい。仕方ないから縛って防音札くっ付けておいた。
私が三日月顕現させたら2週間は寝込むっつーの

627:名無しの審神者
落ち着けチビ。とりあえず三日月を顕現させる気がないなら政府にでも送り付けちまえ。
向こうだって三日月宗近相手なら文句言わないだろ?

628:名無しの審神者
それだ!

629:名無しの審神者
それだ!!

630:名無しの審神者
それだな!!!

631:チビ審神者
その手があったか。

あ、ty

632:名無しの審神者
おい、チビどうした?

633:名無しの審神者
まさか三日月が自力で顕現、とか

634:名無しの審神者
ホラーやめろ!

635:チビ審神者
いや、叫んだせいで兼定君が慌てて走ってきた。
掲示板に書き込んだのは初めてだったけど、みんな真摯に聞いてくれてありがとう。
これから荷造りして政府に着払いで三日月宗近三本パックを送ってくるよ

636:名無しの審神者
おお、かっこいい兼定がさらにかっこいいことになってるな。
っていうか三本パックwwwスーパーかよwww

637:名無しの審神者
ヌクモリティ溢れる場所だからな、ここは。
チビが審神者続けるにしても何にしても、堀川と和泉守の事は頼れよ!

(以下チビ審神者のコテが掲示板に上がることはなかった)

―――

「主さん、兼さん。夕餉の支度が・・・あ」
彼が二人を呼びに主の部屋へ向かったところ見えたのは和泉守の膝で眠る審神者の姿だった。
「疲れてる、よね」
心も、体もだ。
審神者が立て直した本丸の刀剣達に口汚く罵られ、可愛がっていた見習いには居場所を奪い取られた。
「何か叫び声が聞こえたと思って来たら「三本パックを郵送する!」って言いだしてな」
ほれ、と部屋の隅っこにある細長い箱を示す。
堀川がそれを見ると政府あての荷物(着払い)が置いてある。中身の記述は「三日月宗近(三本パック)」。
「主さんは、もう審神者をやりたくないって言ってたよね。それなら僕は、主さんを解放してあげたいんだ」
堀川はそう言って審神者の頭を撫でる。
8年だ。
目の前の審神者が幼い少女だったころ、堀川は審神者と出会った。

『私は使い捨てなんだってさ』

『お父さんとお母さんにも捨てられちゃった』

『私よりお金の方がいいんだって』

『ブラック本丸って怖いところなんだって。死んじゃうのかな』

涙目で下手くそな笑みを浮かべた少女を見て、守らなくてはと思った。
築いたはずの絆は2週間ちょっとの見習いによって崩され、彼女はまた感情を失った。
彼女が審神者をやりたくないというのであれば、自分の存在は不必要なものだ。しかるべき手順を踏んで刀解されるべきだ。
「そうだな」
和泉守も相棒の言葉に賛同するように頷く。
彼は審神者の手で顕現された数少ない刀剣だ。

『約束?』
『そう。約束するよ。僕が折れるその日まで、僕は主さんを守り続ける。だから主さんは僕を信じていてくれないかな』
『・・・分かった。約束する。・・・本当は名前教えたらダメって言われたんだけど、国広君には教えてあげるね。私の名前は―』


『そういえば初対面の時に国広君に名前教えたんだよね』
『はぁ?お前バカなのか?』
『今思うとバカな行動だと思うよ。でも別に国広君ならいいかなーって。あ、兼定君にも教えてあげようか』
『いらねえ』
『即答酷い』
『別に名前握ってまでアンタを操りたいとも思わねえよ。アンタは立派に主をやってるだろ』

人間にとっての8年間は長い。
彼女にとって刀剣男士と過ごした8年間はきっと『無駄』な物だ。
堀川はふうっと息を吐いて、主さん、と肩を揺らす。
「起きて下さい。夕餉の時間ですよ」
「・・・ご、はん?」
呟いて審神者が体を起こす。
その仕草に堀川は少女だったころの審神者を思い出す。
「起きる」
いつもの無表情でのそのそと起き上がる。
「ごめん、膝使っちゃってた」
「別にそんくらい気にしてねえよ」
3人での夕食。数日前までは大人数だったのが減ってしまうと少しもの悲しさが出てくる。

「国広君、兼定君」

夕食を終え、広間を出ようとする二人の背に審神者の声がかかる。
「私ね、多分審神者を続けられないと思う。知ってると思うけど顕現が出来ないからここから仲間を増やしていくのも難しいし。二人の練度がいくら高いからって二人だけに重荷を背負わせるわけにもいかない」
振り向こうとした堀川を見て審神者は振り向かないで、と言う。
「多分今の顔酷いから、見られたくない」
「主さん・・・」
「例え今から顕現できるようになっても、前の本丸に居た刀剣達は顕現させずに刀解か政府に送るかしちゃうと思うし。だから、選んで欲しい。手順を踏んで本霊に戻るか、他の審神者の刀剣になるか」
おやすみ、と二人の背に声をかける審神者に何も言えずに縁側へ出た。
嫌に静かだ。
大所帯から急に3人になればそれもそうだ。
「兼さん、僕は」
「あー、分かってる分かってる」
怠そうな仕草で和泉守は手をひらひらと振る。
「行って来いよ。俺の事は気にするな」
「ありがとう、兼さん」
相棒が部屋に戻って行くのを見届けて、堀川は部屋へ戻る。
「・・・どうしたの。決心ついたの?」
「ちがうよ、『   』」
審神者は「ああ、そうか」とつぶやく。少し微笑んだのが堀川には分かった。
「そういえば初めて会った日に名前教えたね。それで約束した」
「うん。だからかな、僕はあの女には騙されなかった」
「兼定君も騙されてなかったね。なんでだろう」
声色は不思議そうなのに、表情は全くの無表情。

付喪神を虐げたのは人間だった。目の前の審神者は女で、人間で、同じ人間に虐げられた。

一体何の違いがあるんだろう。どうして彼女はこうならざるを得なかったのだろう。
考えても答えは出ない。
「主さんが審神者を止めるなら、僕の事は刀解してほしい。僕は土方さんの脇差で・・・今は『   』さんの刀だから。他の人に仕える気はないんだ」
分かった、と審神者が答えるよりも早く堀川が言葉を続ける。
「でも、出来るならもっと『   』さんと一緒に居たいかな。審神者じゃなくて別の仕事が出来ればいいんだけどね」
堀川の言葉に、審神者の目から涙が溢れてきた。
「何で私なのかな?」
「理不尽だよね」
「私頑張ったよね?」
「『   』さんはすっごく頑張ってたよ。それなのに皆はそれを踏みにじった」
無表情のまま、ボロボロと涙を零す審神者の頭を抱きしめて堀川は言い聞かせるように言った。

「だから、国広君」

堀川の腕の中で審神者が続ける。

「もうちょっとだけ私と一緒に頑張ってくれないかな?」
「勿論」
審神者のぎこちない笑顔に、彼は満面の笑みで返した。

―――

「あー、この本丸の審神者に告ぎます。今すぐ抵抗を止めて大人しく投降してくださーい」
メガホン片手に女が言う。淡々としたその声に機械のノイズが混じる。
「その方が互いの為だぞー」
浅黄色の羽織を着た髪の長い男もメガホン片手にそう言う。
ここはブラック本丸。現在は審神者が結界を張って部屋に籠城してしまっている。
「聞こえてますかー?上から言われてるんですよー。貴方が抵抗し続ける場合は首切っちゃって構わないって」
「ちなみに比喩じゃなくて本当に首が切れるからなー」
反応なし。
女はため息を吐くとインカムの電源を入れる。
「あーあー、こちら審神者。反応ないですねー。切っちゃってくださーい」
『わかりました。結界はそのまま壊しちゃいますね』
「それで大丈夫。私たちはこのまま怪我人の救出に入ります」
了解、という声に二人は本丸に足を踏み入れる。
「誰だ・・・」
青い髪の男が女を睨む。
女は一瞬顔を歪ませた、ようだが直ぐに無表情に戻る。
「あの審神者を捕縛とここの浄化に来た者です。大人しく手入れされてください」
「人間の手など、もう借りぬ」
「はいはい勝手に言っててください。穢れた状態じゃ刀解も出来ないしにっちもさっちもいかないんです、大人しく手入れと浄化されてくださいねー。信用しろとは言ってませーん。本霊に戻りたいなら私を利用して穢れを払えって言ってるんですー」
淡々と言いながら手伝い札を使って手入れをしていく。
『あ、主さん。こちらの仕事終わりました』
「お疲れ様です。手筈通りゲートにブチ込んでおいてください。後は向こうが勝手に処理します」
ここの主からの霊力の供給が途切れたからだろうか、刀剣達の表情から険しさが抜けていく。
「アンタは・・・ここの審神者になるんじゃないのか?」
菫色の瞳をした少年の問いに女は首を横に振る。
「申し訳ないけどそれはない。私はもう二度と本丸は持ちたくないから」
どういうことかと尋ねるより先に主さん!という明るい声が女を呼んだ。
「向こうから連絡です。浄化が終わるまでここに滞在だそうです」
「かしこまりー。と言う訳で浄化が終わるまで私たち三人はそこらの一室を借りてますので皆さんは好き勝手過ごしててください」

困惑する刀剣達を置いて女は立ち上がった。
女は自分の本丸を持つことをやめ、ブラック本丸対策部に所属することにした。

「まあ、こんな生き方も良いかも知れないよね」
「主さんが嬉しいなら僕も嬉しいな」

彼の言葉に、女は嬉しそうな笑みを浮かべた。




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