「壊したいんだよね」

私がこのブラックにまみれた本丸にやってきて1週間。
皆心を開いてくれたとまではいかないが手入れはきちんとしたので(一部抵抗したので服は剥いだ)、出会いがしらに首ヒュンとかは今の所心配はない。
しかしまあ私のこの発言でピシッと固まった空気。お?どうしたお前ら?刀だからって固くならなくてもいいんだよ??
この本丸に残っている刀はそこまで多くない。
三日月宗近・・・が一番練度?とやらが高い(つまりは強いってことか)。
そして一期一振と弟刀の薬研藤四郎、厚藤四郎、秋田藤四郎。このほかにも兄弟が居たらしいがブラック運営していたクソ野郎が破壊してしまったという。死ね。あ、もう死んでるか。
それから加州清光に大和守安定。そして今剣に岩融。
残り9口しかいないという現状。
美しき刃物の手入れをしないどころか壊すなどと愚の骨頂にもほどがある。魂すら死ね。

「壊すとは一体何をだ?」

むねちかが私に尋ねる。なんだよー、固くなるなってぇ。
「いや、元々の審神者の部屋をさぁ、ぶっ壊したいなーって。審神者死ね!って思ってるし、あ、私も審神者か」
あっはっはっはと笑えば何がおかしいんだお前という視線が返ってきた。
「マイブラザー、刀剣たちの視線が冷たいよ。お姉ちゃん悲しい」
そう弟に声をかけてすりすりと頬ずりをする。
ああ、冷たくて何て気持ちいい。
「・・・以前の審神者の部屋を、ですか?」
「うん、何かあの部屋きもちわりーんだもん。ストレス発散も兼ねてぶち壊したい」
動かないとストレスたまるよね。害虫駆除も最近まともにできてないんだよ?
お姉さん悲しくて悲しくて何か壊したい!
でもおうち壊したらダメだよね!そうだ、審神者の部屋壊そう!
元の審神者の部屋は離れらしいので壊しても本丸には影響ない。やだ、私ってば頭いい!
一応大きな音も立つだろうしみんなに伝えたらこれだよ!

「じゃあ大きな音しても気にしないでね!」

返事も聞かずに弟片手に外に飛び出す。やっほー!外の世界!外の空気!
手入れのおかげかは分からないが2日ほど前からようやく太陽が見え始めた!イエス太陽ノーライフ!
助走をつけて遠心力のまま弟を振り回して離れの障子を破壊する。
ああ、この手に響く破壊の感触よ・・・!
本当は害虫駆除の時の肉を断つ感覚の方が好きなんだけれど背に腹は変えられないのだよ。
ぶんぶんと振り回し柱を破壊し、アダルティグッズを靴で踏みつけ破壊する。
途中で弟からハンマーに持ち替えてぶんぶんと回る。
スマ●ラでもハンマーさん最強だしね!!!
あ、そうだ。いっそ燃やしてしまおう。
燃える物はたくさんあるぞー!
うっきうき気分でサポート式神のこんのすけにチャッカマンを用意してもらう。
「おっひるやーすみはうっきうきウォッチン!」
200年も前に終わったお昼の定番番組のテーマ曲を歌いながら今まさに!聖火を!灯すのです!
そんな時だった。
「・・・俺らも加わっていいか?」
「おおう、やげんとあつじゃないか。いいぞいいぞ、加わるがいい。ハンマー・・・槌は持てるか?」
「ああ、これくらい軽いもんだ」
やげんは笑うとかわいいじゃないか。一応見た目は年下だしね。
「あつには特別に弟を貸してあげよう。この子は切れ味抜群だ。いい子なので仲よくしてくれると嬉しい」
そう言って弟を手渡すとあつはちょっと戸惑ったような顔をしてから、弟によろしくな、と言ってくれる。
そうこうやって破壊を続けていたところ、何か全員そろってた。
楽しそうなのでそのまま破壊させておこう。
「粗方片付いたところで、燃やしましょう」
ドヤ顔のまんま私はガビガビの布団(何でこうなったのかは言いたくない。察せはするけど)に聖火を灯す!
「ファイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!ふっははははははは!!汚物は全て消毒するのだよ!!」
火を見つめて高笑いを上げる私はさながら悪役だ。あ、そういや私殺人鬼だったね。
「よく燃えるものだ」
「だよねー。火はいいね、浄化してくれる」
主に呪いの中心地がこの離れだったためか曇り空が少し晴れた気がした。
「なぁ、最初に来ておいてなんだが、戻ってもいいか?」
「お?」
振り返るといちごが青い顔をしていた。やげんがその背を摩っている。
「・・・どうした?大丈夫?」
「・・・ええ、すいません」
いやいや、そんな真っ青で今すぐ吐きそうな顔で大丈夫言われても。
「部屋戻って休んでな。残りの片づけは私やっとくから」
ひらひらと手を振れば申し訳ありません、と頭をさげてやげんとあつに両脇を抱えられて本丸に帰っていく。
「・・・大丈夫かな」
「いち兄ね、焼失しちゃってるんです」
あきたの言葉に私は思わず弟を取り落とす。
「え・・・」
「僕たち刀剣男士の中には、本体と呼べる元々の刀自体が消失してしまっているものもあるんです」
その言葉に私は膝から崩れ落ちる。
「な・・・なん・・・だって・・・」
私の尋常ではない取り乱しっぷりに流石に残った刀剣達が心配・・・してくれたようだ。
「落ち着け。・・・一期一振は焼けたのはお主のせいではあるまいて」
「むねちかよ・・・そう言う問題じゃないんだ・・・私は・・・私は・・・!」
拳を握って地面を殴る。
「私の無知のせいでいちごのような美しい刀の傷に触れたんだ・・・いっそ殺してくれ・・・」
燃えさかる炎と地面に膝をつく女。ある意味素晴らしいコントラストだ。
「あ、ダメだ!まずいちごに謝らないと。でも今行っても具合悪そうだし・・・ええい、とりあえず全て浄化してやるわ!!」
更に火種を投下して燃やして燃やしてひたすら燃やす。
元の主の魂よ消滅しろ!呪われろ!そんな愛らしいお願いも込めてみた。とりあえず言いたいのは死ねってことだ。何度でも死ね。クソ野郎。
ある程度火の勢いが治まった所で水をぶっかけて鎮火。
ここにお花畑でも作ろうか、畑でも耕そうか。それとも私の首を切り落として貰って埋めて貰おうか。
プランはいくらでも浮かんでくる。死体っていうのは良い肥料になるからね。キレイな桜の下に死体が埋まっているのはよく聞く話だ。
「みんな!ご苦労様!とりあえず大暴れした上に放火までしたので疲れてると思う!各自ゆっくり休んで・・・明日にでも私はいちごに土下座しに行くから・・・」
いちごのような美しい刀に殺されるなら本望だ。むしろ殺してくれ。首と胴体キレイに切断してくれ。私はそれだけで有り難いんだふへへ。
「・・・・・・死ぬつもりなの?」
きよみつの言葉に「いちごが私を殺す事を望むならね」と返す。
殺したくない!って言ってる人間、じゃないや神様に殺させるほど私もトチ狂ってねえぜ!
「あ、それともきよみつが殺したい?きよみつもすっごくキレイだからなー。迷っちゃうよー」
「・・・キレイ?」
ぴくりときよみつが反応する。
「うん、すっごくキレイ。確かに使い手の腕によっちゃう所もあるけれど刃の美しさも性能も素晴らしいでしょ」
何かきよみつ嬉しそうだな。まぁ本体褒められたら嬉しいか。

「お主は、何故審神者になろうと思ったのだ?」

むねちかが急に話に割ってくる。じいさんはマイペースっつーかフリーダムだな。
「別になりたくてなったわけじゃないよ。たんにそれしか道がなかっただーけ。言ったでしょ?私は現世じゃキチガイ殺人鬼なんだって」
害虫駆除はただの殺人行為だったんだってさ。
頭が可笑しい私は人と虫の区別が付かない。
「それに刃物大好きなの、私。向こうに居たって死刑確実なんだもの。死ぬなら美しい刃物に殺されたいの」
ここの刀剣達は皆美しい。
あの刃の煌めき、鋭さ、性能。何をとっても「すばらしい」の一言に尽きる。
アレを使って害虫駆除出来たら凄く楽しいんだろうって思う。・・・思うだけ。彼らの本体を無理に借りるつもりはないし。
それを聞いたむねちかは何故か喉の奥で笑う。
えー、何そんなに面白い事言ったかなあ。

「お前は俺たちが今まで見てきた人の中でも特に変わっている。・・・殺すのは惜しいな」

「やっだキチガイ認められた上に面白いって言われたー。何一つ間違ってないから反論できなーい」

しかしむねちかは「それは一期一振が殺さぬと言ったらだがな」と付け加える。
そりゃそうでしょうよ、私は彼の心に傷を付けた。つまりここの元審神者のクソ野郎と同等になったということだ。

翌日大広間にやってきたいちごの目の前にスライディング土下座。
「あ、ええと、どうしましたか?」
「知らなかったとは言えいちごの辛い事を思い出させるような事をして本当にごめんなさい。いちごが私を許せないっていうならすっぱり殺してくれて構わない」
頭上でいちごが戸惑ったのが気配で分かった。
「・・・それは、昨日の火の件ですか」
「そう。ほんっとあのクソ男と一緒だなこのアマ許すわけねえだろ!っていうならどうぞ首と胴体切断していいから」
私の視界は畳一色。頭上ではいちごの動く気配。
・・・しかし、彼は土下座する私の目の前に片膝を付いただけだ。
「頭を上げてください。貴女は・・・あの男とはちがいま「違わない!!」・・・あの」
がばっと顔を上げていちごの肩を掴む。
「いちご・・・だけじゃないけど!こんな美しくて性能が良い刀たちに辛い事思い出させるなんてゲスの極み!クソ野郎と同等!ああああ、本当にごめんなさい!」
半狂乱状態で謝罪を続ける私の首根っこを誰かが掴んだ。・・・いわとおしだった。
「落ち着け、娘」
「一期一振はお主を殺さぬ、と言っているのだ。・・・まだその命を大事にするがいい」
クスクスとむねちかは美しく笑う。
「・・・らじゃった。君たち素晴らしき刃物のために働くから・・・気にくわなくなったら一刀両断してね」
語尾にハートマークをつける勢いで言う。

まだまだ天国の刃物生活は続けられるようだ。やったねたえちゃん!はものがふえるよ!
え?フラグ?




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