気が付くと虫がたくさんいたんだ。
自分の身長より大きい虫、自分と同じくらいの虫、自分よりも小さな虫。
ああ、気持ち悪いな。
そう思ったのが最初だった気がする。
害虫は駆除していいんだって。私より大きい虫は害虫だよね?そうだよね?
だから、


ぐちゃりって


害虫を「駆除」したの。




「こーんにっちはー!今日からここで審神者やりまーす!」
十人ほどの視線を受ける。おお、虫じゃない、人だ。人がいる。
ヒュンという音がして刀が私の頬を掠めて柱に突き刺さった。
青い人が殺意マックスでこちらを睨んでいるがそんなんどうでもいい。
「うっわ。何これめっちゃ綺麗な刃物!あー、でも何でこんな傷んでるの!綺麗なのにざんねーん!」
人が何言おうとどうでもいい。そんなことより刃物だ刃物。
さっき私のもみあげ部分切りとっていったのもあって非常に切れ味が良いんだろう。
これを使って害虫駆除できたらいいのに。そう思うと思わずよだれが出る。
「あれか、お偉いさんが言ってたのはこれをきちんと手入れしろってことか!そりゃあそうだよね。こんなきれいな刃物に傷がつくなんて許せないもの。刃物は美しさと切れ味兼ね備えてこそだもんね。ね、そこの青い人!」
まくしたてるように言うと青い人は理解ができないと言った顔になる。失敬な。
「出ていけ。ここは貴様ら人間が来ていい場所ではない」
「えー、そんな事言われても帰ったら私殺されちゃうしぃ。どうせ死ぬんだったら美しい刃物に一刀両断されて死にたいじゃない?殺してくれても構わないからせめて美しい刃物で殺してよお」
うふふふふふ、思わず笑い声が漏れる。
この青い人だけじゃない。他の男が持っている刀も非常に美しく、そして性能の良さが滲んでいる。
「ね、お前もそう思うでしょ?」
私がそう弟に声をかければ青い人だけじゃなく他の男たちも困惑した表情を浮かばせる。
「あ、紹介が遅れたね。この子は私の弟です」
そう言って大鉈を見せる。
「・・・弟?」
こっちも青っぽい髪の毛だが最初の青い人よりも色は薄い。空色の人と呼ぼう。
「うん、弟!切れ味抜群でね、昔からずーっと一緒に害虫を倒してたの」
大鉈の表面を撫でる。今日も私の顔が映るくらいに綺麗な色をしている。この子を見ているだけで一日潰せるくらいには美しい。

えー、現在地は今も昔もブラック本丸。外の天気は厚い曇り空。太陽が恋しくなりますね。寒いし。
ここの元々の主は非常に好色家な男で口に出すのもおぞましいことをこの刀剣男士たちにしていたらしい。
口に出したらテレビだったらピー音が延々流れ続けちゃうね。おお、こわいこわい。
その悪事も長くは続かないぜ!と政府は男を逮捕したけれども呪いはそのまま。霊力の高い次の審神者がやってきたけれども天国へとシューッ!超エキサイティン!!
人、っつーか神様らしいけれど、生き物の恨みは恐ろしいね!ってわけでやってきたのは私。
どうやら私は殺人犯らしい。解せない。
私はただ弟と一緒に害虫駆除してただけであって、褒められることはあれど罵倒されるいわれはなかったはずなんだけどなぁ。
でもお医者さんが言うには、私は動いてるものが虫に見えるらしいよ!頭トチ狂ってるんだって!
そんでお医者さんに関しては人間と虫が融合したような姿で駆除したくなったけどやめておいた。一応人間の姿も見えてたから。
もちろんはた目から見たら私はただのキチガイ連続殺人犯(しかも幼少期からだしね!もう何匹駆除したとか覚えてないよ!)。
死刑確実だったんだけれどそれくらいなら霊力もあるしブラック本丸にブチ込んでみようぜ!もしかしたら何とかなるかもよ!っていう軽いノリの元やってきた。
私は刃物見られるならそれでよかったからいいんだ、ふひひ。

経緯を話したら化け物見る目で見られたぷんすこ。
「よーし、とりあえず重傷?だっけ?酷い人から治そう!刃物が折れるなんて絶対に許せない!!」
そこかよ!というツッコみが入ったが気にしなーい。

私にとっては刃物>>>(越えられない壁)>>>人だ。

「人間が死のうがどうなろうがどうだっていいが刃物を折ることは許さん。そして刀剣男士とやらがその刃物に宿る神様なのであれが死なせるわけにもいかなかろうて」
刃物天国ひゃっはああああああ!と大昔の某梨の妖精のようなテンションで大広間に入り、手ひどそうな子供と彼が持っていた短刀を回収する。
「んじゃあ!ちょっくら手入れしてくるわ!この短刀も磨いたら綺麗になるだろうなぁ、ああ楽しみ!」
「はなしてください!いわとおし!いわとおし!!」
何か向こうでいわとおし?とか呼ばれた男が立ち上がったけど知ったこっちゃねえ!
手入れ部屋直行して何か白いポンポンが付いた棒で子供の怪我を叩く。
粉かけて叩いてー粉かけて叩いてー粉かけて叩いてー。
それを続けると子供の怪我が消えていく。
「わ、本当に刀剣男士?とこの刀って連動してるんだ」
子供の怪我が消えたと同時に彼の短刀もピカピカに磨きあがっていた。
「今剣!大丈夫か!!」

それからちょっと遅れていわとおし?という男が手入れ部屋にやってきた。
そんでポカンとした顔になる。
怪我が消えて「?」を浮かべたいまのつるぎ・・・っていうのかこの子、と彼の本体の短刀をよだれ流しながら見つめる私が居たからだと思う。
「うふふふふふふふ、なるほど、これは懐用の守り刀かぁ。何て綺麗なんだろう」
これで虫退治・・・きっとスパッと切れてその感覚も手に直接来るんだろう、想像するだけでゾクっとした快感が止まらない。
「あ、いわとおしだっけ?アンタも怪我酷いじゃん。治そう治そう」
丁度いいやとポンポンを持っていわとおしに迫る。
刀はきちんといまのつるぎに返しておいた。
「いわとおし・・・このひとは、けが、なおしてくれました・・・」
「刀のピンチとあっちゃあこの――ほっとけんさ!」

いまのつるぎといわとおしがほぼ同じタイミングで私を見る。

「――と言うのはお前の名か?」
「おお、そうだよ。っていうかそんなんどうでもいいから怪我治させろや」
彼が持っているのは薙刀だ。ああ、あの刃も何て美しい。
おっとよだれ流してる場合じゃないや。いまのつるぎよりもいわとおしの方が怪我が酷い。
粉つけて叩いてーを繰り返す。
何か手入れ部屋の外に人の気配を感じるが仕方あるめえ。ほっとけほっとけ、と弟が言っているので放置プレイ。
「・・・我らは末席とは言え神。神に名を教えるというのがどういうことなのか分かっているのか?」
手入れを受けながらいわとおしが言う。
「しらね」
がくっといわとおしの体が崩れる。動かないでくれないかな。手入れ中だよお兄さん!
「別に私の人生はもう終わってるから何でもいいんだよ。私の目と頭は人間を人間と認識しきれない。虫に見える。害虫駆除したくて仕方ない。現世に帰ったら待ってるのは死刑だからね。向こうで死のうがこっちで殺されようが変わらんっしょ」
ポンポンポンポン。リズミカルに粉かけつつ叩く。
さっきよりは時間はかかったものの手入れ終了!薙刀を見せてもらう。
「ひいい、何て美しい刃!あああああ、この子振り回したい!これで切ったらさぞ楽しいんだろうなぁ!」
うずうずするけれどこれはいわとおしの本体。名残惜しいけれど彼に返す。・・・・・・使わせてもらうのは、さすがに無理だよなぁ。
手が覚えている虫を叩き切った時の感触。あれが忘れられない。
全員を治して出陣したら、また虫を駆除していいのかなぁ。
私は立ち上がると手入れ部屋の扉をスッパーンと開ける。ああ、いい音がした。

「さて、次は誰の綺麗な刀を見せてもらおうかな!」

弟はいまのつるぎが見ていてくれるそうなので預けて、私はポンポン片手にニコリと笑う。
「っしゃあああああああああ!刃物天国作ってやんよ!!!」

逃げる刀剣、追う審神者。
「刃物天国万歳!刃物王国建国!」などと叫びながら追いかけてくる女はさぞ怖いことだろう。
仲よくなろうぜ!なんてこともなんにも考えず私は追いかけては治し追いかけては治し。
夜が明けるころには手入れが完了しました!ああ、美しい刃物に囲まれるって天国みたいな生活!




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