「まだ認めないの?」
相棒の安定の言葉に清光は彼を睨む。
「お前は、認めたんだ」
あの女を、とそう続ける。
「だって彼女、急に審神者になったっていうには頑張ってるじゃん。少しくらいは認めてあげたら?」
彼女はいつでも刀剣たちの意見を優先してくれた。
ただ、それが清光には居心地が悪かった。
「そういえば最近出陣してないよね。清光」
安定の言葉に、清光はうっと唸る。
彼女が来たばかりのころ彼女の出陣命令に対し彼は「汚れるからいやだ」と言い放ったのだ。
それは、元主・・・彼女の父に戻ってきてほしいという彼の我儘からだったのだが、彼女はと言うと

「加州清光様は綺麗好きだと聞いております。無理な出陣命令、申し訳ありませんでした」

そう頭を下げて彼を抜いて別の刀剣を第一部隊に入れたのだ。
その時清光は彼女の目を見てぞっとした。
何とも仄暗く濁った瞳。例えば死人のような。
生きている人間のくせにまるで死んでいるかのような女に、彼は恐怖を覚えた。
それ以降彼女が清光に出陣を命ずることはなかった。
それどころか彼が何をしても文句を言わず、彼が文句を言えば即座に謝罪をする始末。
まるで彼がそう言うのを見越しているかのように、彼女は答えを返してくるのだ。
短刀たちや、自分以外の打刀が彼女を主だと認めていくようになるにつれ、彼の中には一つ疑念が生まれ始めた。

彼らは皆、あの女に懐柔されているのではないかと。

何故あの濁った瞳に気付かないのかと思うと不思議で仕方ない。
「アイツって目が怖いよ」
死人みたいだ、言葉には出さずそう続ける。
しかし彼の相棒はそうかなぁ?と首を傾げる。
「確かに前の主・・・彼女の父親みたいな強さはないけど、怖くはないと思うよ」
安定の言葉に、清光は一つ小さく息を吐いた。
誰もかれもそうだ。あの女の濁った瞳に気が付かない。
まるで自分だけが取り残されたような感覚に息苦しくなる。
「あ、話をすれば」
向こうで長谷部と書類を確認しながら歩く新しい主の姿を見つけ、安定が立ち上がる。
主!と安定が彼女に向かって歩いていく。それに気付いた彼女が二コリと微笑んで口を動かした。
ここからは聞こえないがおそらく安定の名を呼んだのだろう。
そこで、目があった。

あの濁った瞳だ。

安定は?そう思って彼を見るが、別段変わった様子は見当たらなかった。
不気味としか言いようがない恐怖に、彼は踵を返した。


「あれ、清光居なくなっちゃった」
安定が振り向いたとき、既に彼の相棒の姿はそこにはなかった。
「主に対して何たる不敬を・・・」
長谷部がボヤくのも深夜は無視する。
目があった瞬間、清光の表情に恐怖が写った。
これでいい、と深夜は内心で笑う。
「どうかした?主」
「いいえ、加州清光様は・・・具合が悪いのでしょうか?」
心配しているフリをして安定に声をかける。
「うーん、そんな感じはしなかったけどなぁ」
「大和守安定様。大変申し訳ありませんが加州清光様を・・・」
「あはは、大丈夫だよ。僕もきちんと見ておくからさ」
安心したフリをして、深夜は微笑む。ありがとうございます、と言う声に嬉しさを交えながら。

何処でこうなったのか。
思い出したくもない出来事が頭の中でループする。
憎い。憎い憎い憎い憎い。

「主、いかがされましたか?」
長谷部の言葉になんでもないですよ、と深夜は笑みを浮かべた。

「少し休憩してお茶にしましょう。へし切長谷部様、大和守安定様」



■とある審神者の日記
[数列塗りつぶされていて文字の判別が不可能]

そのままつぶされちゃえ、おしつぶされてしまえ
何でお前が愛情を受けているの。憎い。あの男が憎たらしい。


違う。私は良い人じゃない。いい子なんかじゃない。
長谷部さん、私を良い主だなんて言わないで。
違うんですごめんなさい。貴方を利用しているだけなんですごめんなさい
安定さんごめんなさい。私に笑いかけないでくださいごめんなさい。

ダメだこんなんじゃ、私が潰れちゃう [以下文字にもならない物が殴り書きされている]




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