「さー、みんなー。ご飯だよー」
日も沈んで暫くした頃、審神者の声で本丸に残っているメンバーがぞろぞろと大広間に集まってくる。
ここでは家事全般は内番同様当番制になっている。
今週の当番は安心安全の燭台切・・・と審神者。
審神者はと言うと自己申告で「料理はそれなりに出来るから!」と当番関係なく炊事場に立っている。
それを聞いた初期のメンバーの心情は「大丈夫か・・・?」だったが料理が出来るのは本当だったようで今では政府への書類が貯まっているとき以外は毎日料理を作っている。
「主、今日の夜戦の部隊は?」
「一応打刀メインで入れてきたよ。やす君ときよ君が張り切ってたから大丈夫だと思う」
食事前に蜻蛉切と本日の夜戦メンバーの確認を行う。
他の面々は既に食事を始めている。
「さって、とりあえずご飯食べちゃおうか」
「ええ、そうですね」

笑顔有り難うございます。

微笑みに心の中でガッツポーズを取りながら食卓へ向かう。
男所帯の食事風景は実家で慣れたものだが刀剣男士たちは基本的に皆良い子なのかおかずの取り合いのような戦争が起きる事もない。
この本丸が本格的に始動したとき、それに感動して審神者が「食卓が平和だ・・・!」と涙目になったことも初期の面々の間では懐かしい記憶である。
内番、非番メンバーが食事を終えるとそれと入れ替わりで昼間に出陣をし手入れを受けていた面々が夕食を取りに来る。
この時間ばかりは忙しさも消え、各々ゆったりとしている。
「主殿、湯殿の準備が出来ました」
「あー。いつも最初で悪いわね」
「いえ、我々が先に入ってしまいますと湯が汚れてしまいますから」
気になさらないで下さい、と蜻蛉切はいつもの微笑み。
後が詰まる前にとっとと入ってしまおう。
体を伸ばしながら審神者は風呂場へと向かう。
女性が審神者を請け負っている他の本丸では審神者専用の風呂を作っているところも多いらしいが、ここでは分けているわけでもない。
その理由が「女私一人なのに作る代金勿体なくない?」なので男所帯は伊達ではない。
温泉のように広い風呂を一人で占領出来るのはありがたい。
「あー・・・」
肩までゆっくりつかって高い天井を仰ぐ。
高校在学中に審神者としての能力を認められ、卒業してからは審神者としての研修や式神を扱う為の霊力の制御の勉強。
そう言えばゆっくりと旅行をする暇もなかった。
彼女の家系は元々霊力が高い人間が多いのか、父方には元審神者も居る。
現在で言えば彼女の家の長男と四男も審神者業をやっている。
その為彼女に審神者としての依頼が来たとき両親は「あ、この子もかー。どうぞどうぞ」程度の認識だったようだ。
「ま、ここならやってけてるしねぇ」
手を使った水鉄砲をしながら独り言を呟く。
短刀たちは弟のようで可愛いし、打刀は・・・若干拗らせている人も多いが気さくだ。
太刀や大太刀も最初は驚いたが今では色々と言い合える仲になっているつもりでもある。
人間の都合で肉の器を与えてしまっていることもあり、出来る限り彼らが暮らしやすい場所を作る事を心がけているつもりでもある。
遠く玄関の方がざわざわとしている。
どうやら夜戦から帰ってきたようだ。今回は大分早く片が付いたようだ。
さて、後が詰まるといけない。
審神者はよーいしょっと、などとかけ声を上げながら立ち上がり脱衣所へ出る。
バスタオルを体に巻いてから髪の毛の水気を拭いているとガラッと言う音がした。

「ん?」
「あれ」

脱衣所の扉が開き、清光と目が合った。
「あ、夜戦おつk」
お疲れ様。その声を遮って悲鳴が上がった。
「えー・・・」
清光は顔を赤くしたり青くしたり。そしてそのまま入り口でへたり込む。
「え、ちょ、だいzy」
大丈夫?と聞こうと思えば悲鳴を聞きつけてきた面々が清光とバスタオル一枚の審神者を見比べ・・・上がった声はと言うと清光を心配するものばかりだった。
「ちょっと待てお前ら」
流石にこの待遇はいただけない。
「主・・・清光に何したの・・・」
「おいおいやす君。何を言うんだよ。この状況を見て私が何かするかと!?」
お前らは私をなんだと思って居るんだと聞いた瞬間皆が目を逸らす。
「おいこら」
前科・・・は思い当たる節がありすぎるけれども、と焦る。
「っていうかアレか、お前ら私を女扱いしてないでしょ」
「いや、そんなことはないけど・・・ねぇ」
燭台切の優しさ、と言う名のフォローがとても痛い。
「普段の行いだろ」
同田貫に言われ言い返せないのか審神者がくっ・・・と唸る。
「それより加州君大丈夫?」

それよりって何だ。
そんなことよりこの状況は何なんだ。

脱衣所にバスタオル一枚巻いた女が一人、入り口でへたり込む男が一人。
・・・悲鳴を聞いて集まった男が数人。
何の集まりなんだこれ。
「あ、主・・・ごめ・・・鍵かかってなかったし・・・誰も居ないと思って・・・」
「鍵・・・?あ、鍵かけ忘れてた。ごめんごめん。びっくりさせちゃったね」
気にすんなー、と清光の方へ歩み寄りしゃがもうとしたところを誰かに止められる。
微妙に目を逸らした蜻蛉切だった。
「主殿、それよりも早く服の方を」
「あ」
そこでその場の全員が審神者がバスタオル一枚だという事実に気付いたらしくバッと目を逸らす。
「いや、ごめん。見てない。見てないから」
「いやいやしょっきりさんよお、思いっきり見てたよなぁ」

ああ、そう言えばこの人女だったわ。という空気が脱衣所に流れる。
そして見た目だけは美人、なうえに着やせするタイプなのかスタイルも良い。
普段の行動が残念なだけに忘れていたがそう言えばそうだったよね、という感じになっている。
しかしまぁ黙っていれば美人。そして風呂上がり。
何だか見てはいけないものを見てしまった気分になってくる。

「風邪引きそうだしさっさと着替えちゃうからきよ君少し待っててね」
何かもうツッコむのも面倒なのでそう言ってから出て行けー、と手をしっしと振る。

審神者が引っ込んだのを確認し、脱衣所の扉をそっと閉める。
空気が微妙な感じになっている。
「清光君は大丈夫だった?何もされてない?」
「あ、それは、まあ。俺がびっくりして叫んじゃっただけだし」
一体何の為に鍵を設置したんだったか。鍵の存在意義に対する議論にまで発展しそうだ。
兎に角ここにいても仕方ない、と脱衣所の前から移動をする。

「・・・はぁ」

一人、その場から動かない男。
「アンタも大変ねぇ」
ケラケラと次郎が笑う。
「あの方はどうしてこう自覚が足りないのか・・・」
あの審神者はそれが良いところでもあり悪いところでもある。
蜻蛉切の深い溜息も彼女の身を思ってこそのものだ。
「何て言うかまあ、あの子も男だらけの場所で生活するって事に麻痺しちゃってるわよねー」
あー、楽しかった。次郎はそう言って笑いながら去っていく。
ガラッと戸が開いて「うわ!」という声が聞こえてきた。
「あれ、蜻蛉切。戻ってなかったの?」
部屋着に着替えた審神者は人が居るとは思わなかったのかびっくりした顔をしている。
「主殿」
「あ、はい」
蜻蛉切の真剣な声にトゥンク///などしている暇もなく含まれた低い声に思わず居住まいを正す。
「貴女はこの本丸において主であり、唯一の女人です。もう少し危機感を持って生活をしてください」
「あ・・・すいません」
そうか、彼らにも悪い事をしてしまった。
反論も出来ずに謝れば蜻蛉切はふっと笑みを浮かべる。
「分かって下さればいいんです。さぁ、戻りましょう」

笑顔可愛いです。ごちそうさまです!

再度心のガッツポーズ。
反省の意味を辞書で引いてよく考えるべき審神者だ。反省の色がない。
蜻蛉切の後をくっついて歩きながら。

「ねー、蜻蛉切ー。結婚しようよー」
「主殿、ご冗談はおやめ下さい」

・・・っち。
やはりたしなめられてしまったが心配してもらったぜひゃっほおおおおおおおおおおう!という気持ちの大きさに心の重傷マークも消え去り桜吹雪が舞い踊る。

「きよ君もやす君もごめんね、これお詫びに二人には少し多めにあげるから」
驚かせてしまった清光・・・とついでに安定には現世土産のお菓子を多めに与えておく審神者だった。


本日の被害者:誰も居ないと思って風呂場に入った清光の心、本丸で唯一の女なのに女扱いされなかった審神者の心(後に反省の色もなく復活)




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