「おーい、妹の処遇決まったぞー」
翌日、初期刀の山姥切と共に本丸にやってきたのは一哉。
相変わらず30歳を過ぎているとは思えない程の軽さだ。
大広間に通された一哉は茶を入れてくれた一期にありがとな、と礼を言ってから第一部隊の面々を見る。

「伯父が何とか対応してくれてな。アイツは一週間現世で謹慎になったが、それを過ぎれば戻って来られるから安心してくれ」

ほっとしたような溜息は誰のものなのか。
一哉は妹がここできちんと刀剣男士と向き合い、愛されていることを実感し笑みを浮かべる。
「ただ、それには一応条件があってな。・・・と、その前にあの本丸がどうなったかを話すべきか」
政府が彼女の本丸に乗り込んだときには酷い有様だったようだ。
まともに手入れをされずに放置されていた刀剣、折れた刀がそのまま放置され、怨念の巣窟になっていた。
刀解を望む刀にはお祓いをしてから刀解を、別の本丸へ引き取られた刀も居るようだ。
「んで、向こうさんに居た刀でここに来たいって言ってるのがいるらしくてな。いつこの刀帳確認したらこの本丸には居ない奴みたいだったし丁度いいかもなぁとは思ったんだ。その刀を引き取って一週間謹慎か、引き取らずに二週間謹慎か選べって言われて引き取るの決めたらしいぞ」
そこで一度区切ってから一哉は楽しそうに笑う。
「二週間もお前らに会えないのは寂しくて死ぬ!ってベッドでのたうち回ってたってお袋情報だ」
それを聞いた燭台切が「主らしいね」と笑う。
「あ、後政府にいる身内の計らいで少しだけなら現世に居るアイツと会話出来るぜ。時間にしたら5分くらいだから1人か2人くらいしか無理だろうけどな」
そう言って自分の携帯端末を見せる。
「だってよ、よかったじゃない蜻蛉切」
流石大太刀。ばしっと背中を叩いた音が大きい。
「・・・自分でいいのでしょうか」
「そういやアイツが正面切って蜻蛉切に告白したという面白情報を手に入れたんだが本当か?」

人様(妹)の恋路は面白いものである。

しかも相手は神様だ。
昨日の事を思い出したのか蜻蛉切の顔が赤い。
「告白って言う訳じゃないけどすっごいことを素で言ったわよね、主」
「まさかあいつがあそこまで真面目だとは思わなかった」
「倶利伽羅君普通に酷いね」
「というかあの様子だと自分が言った事を自覚してないんじゃないか?」
「会場がざわついちょったのう」
上から次郎、倶梨伽羅、燭台切、薬研、陸奥守。まさに言いたい放題。
「あっはっはっはっは。流石俺の妹。三日月ぶん殴ったとか色々面白すぎるだろう。その時の動画見せて貰ったがキレイに決まってたなー」
掲示板でお祭り騒ぎだったところに乱入してきた身としては現在の当事者の顔を見られないのが残念だが仕方ない。
後三日月宗近にアッパーカットするところをぜひ生で拝みたかった。
「・・・で、どうすんだ?電話するのか?しないのか?」
「少しだけ、よろしいでしょうか?」
おー、いいぞー、と言って端末を操作し蜻蛉切に渡してから部屋を出て行く。
空気を読んでぞろぞろと部屋を出て行く。


「・・・ん?」
何もすることもないので部屋でごろごろしていたら政府から支給された端末が着信を告げていた。
画面に表示された名前は「かず兄」。本丸の様子でも報告してくれるのだろうかと審神者は電話を取る。
「もしもし?兄貴どうした?何か用?」
『・・・』
返事がない。
ただのしかばねのようだ、などとレトロなゲームの一文を思い浮かべながらもう一度兄を呼ぼうと口を開いた瞬間聞こえてきたのは兄の声ではなく蜻蛉切の声だった。
『主殿』
「う・・・ええええええええ!?蜻蛉切!?え?ええ!?なん・・・あ、兄貴か!兄貴がやったのか!!」
想定外の出来事に完全にテンパっている。
おおおおおお、落ち着け、落ち着くんだと自分に言い聞かせ耳を押しつける。
「あ、あの・・・みんなは大丈夫?」
『はい、一哉殿と志月殿のおかげで落ち着いております』
「そう・・・それはよかった。・・・私が勝手をしたせいで迷惑かけてごめんね」
自分が彼女を殴らなければ、こんな事にはならなかっただろう。
それでも、見過ごせなかった。見過ごしたら自分の中で何かが死んでしまう。そう思った。
『いえ。あの後皆で話しましたが・・・・・・貴女が主でよかった、皆、そう言っています』
その言葉を、胸の奥で噛みしめる。
審神者になってたかが半年。たった半年しか一緒にいない自分を、こんなにも認めてくれている。
何だかそれが嬉しくて、思わず涙ぐむ。
「有り難う。蜻蛉切、嬉しいよ」
ぐすっと鼻をすする。
良かった。みんな、大好きだー!と脳内で1人小躍りをし始める。


『主殿、自分は・・・貴女をお慕いしております』


だから、一瞬意味が分からなかった。
「ふぁい・・・?」
返事が変な声になって、言葉をかみ砕いて飲み込んでいく。
「え・・・あ・・・はい・・・?」

慕って、ます?
それは臣下としてってことですよね?
だっていつもそうやって言ってたよね?
まさかそんなわけないよね?

『主殿』
「はい!?」
『・・・貴女のご帰還を、心よりお待ちしています。そして・・・もう一度きちんと言わせてください』
「あ、はい・・・」

脳みその許容量を超えた出来事に返事が上の空になる。
後ろの方から「わりー、そろそろ時間切れー」という兄の声が聞こえた。
『それでは、主殿』
「・・・うん。また一週間後に、ね」

通話終了を示す画面を呆然と見つめる。
一週間後、一体何があるのか。
赤くなった顔を隠すように枕に顔を埋め、殴る。
いいのか?
私はこのまま神様に嫁いでいいのか?

審神者はまだ知らない。
一週間後、自分が帰ったときの刀剣達の喜びようを。



「主殿」
「ん?どうした?蜻蛉切」
謹慎が解けてやっと本丸に戻ってくる事が出来た。
短刀たちはわーわー泣きながら審神者に抱き付きそれを受けた審神者も泣いた。顔をぐっしゃぐしゃにして泣いた。
ひでえ顔だなと笑った同田貫は一発殴っておいた。
そのまま次郎が酒宴だー!と飲み始めてしまった為「審神者復帰おめでとう!」という大義名分の元存分に酒を飲んだ。
翌朝見事二日酔いで吐いた。
昼もすぎれば何とか落ち着きも取り戻し、一週間居られなかった分の仕事もこなさなければならない。
ある程度は兄たちが何とかしてくれたが自分の署名が必要なものも多い。
何とか数日かけてまとめなければ、と考えていた時に声をかけられてハッとする。
一週間前の、あの電話。
アレの意味を聞かなければいけない、けれど、喉が詰まって声にならない。
蜻蛉切は審神者の前で膝をつくと彼女の手を取る。

「自分は、貴女をお慕いしております。・・・貴女の、名前を教えていただきたい」

「っ・・・」
握られた手に血液が集まっているかのように熱い。
「自分は貴女とは違います。貴女の臣下であり、武器。・・・いつか、壊れるときがくるやもしれません」
それでも、と蜻蛉切は審神者の手を強く握る。
「自分は貴女と共にありたいのです。この想いをお許しいただけるなら」
「木庭 あかり」
彼の言葉を遮り、涙目になりながら審神者は名を告げる。
「蜻蛉切だけじゃなくて、他のみんなも、絶対折らせたりなんて・・・しないから・・・」
ボロボロと涙がこぼれてとまらない。
「名前だって何だって・・・全部あげてもいいから・・・だから壊れるとか言わないでよお・・・」
蜻蛉切は泣き出した審神者を見ておろおろしていたが指先で涙を拭う。

ゆっくりと顔が近づいて・・・ガタッと言う音がした。

「あ、邪魔したわねー☆ごめんごめん。まぁ、結局ここに落ち着いたわよねー」

次郎だった。
そのままにこっと笑うと・・・ダッシュ。審神者は慌ててその後を追いかける。
「みんなー!祝い事よー!!燭台切ー!赤飯炊いてー!」
「ぎゃああああああああああ!じろちゃああああああああああああん!!!」

いつもの本丸だ。まだたった半年の本丸。
少しだけ変わった事もある。

本丸の主が、主から神様の嫁に昇格しました。
両親の反応は「お前凄い座を射止めたな!」とケラケラ笑っていた。流石この兄弟の両親である。
審神者ではない次男と三男には「相手の神様騙されてるんじゃないか?大丈夫か?」と非常に失礼な発言をされた。
一哉と志月はとても喜んでくれた・・・まではよかったがちょっとした祝いの品(18禁)が届いたのでそっと送り返しておいた。
一線超えたりもしました。

まだまだ先は長い。これからもみんなで乗り越えていこう。


「では、本日からこの本丸で引き取って貰うことになりました、三日月宗近と鶴丸国永です」

だからすっかり忘れていた。
謹慎処分軽減の条件を。以前ぶん殴ったブラック審神者の所の刀剣を引き取るという話。
政府の人間の紹介に、審神者の顔がさーっと青くなっていく。


「何でこの二人なのおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


今日も雄叫びが響く本丸だった。




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