ズラリと並んだ同じ顔をした物たちの前を私は歩く。
眠っているように見えるそれらは壁に固定され、薄暗い廊下を不気味に見せる。
私の妹たちとも言えるそれらは、私が破壊されればまた一つ目覚めるのだろう。
私が過去で得た知識を持って。同じ過ちを繰り返さぬように。

私は、学習するために作られた戦闘用ロボット。

廊下の奥にはぼんやりと光を放つ大きな筒状の水槽がある。
その中には真っ白な薄手のワンピースを着せられた少女が沢山の管をつながれた状態で沈められている。
眠っている、というよりも眠らされている彼女は管から与えられる酸素と栄養素で無理やりに生かされている。


可哀想、可哀想な、私の元になった女の子。


私が目覚めたということは、前の私は壊れてしまったのだろう。
頭の中に前の私が居た本丸と戦の様子が流れてくる。
前の私は大分酷い扱いを受けていたようだ。腕が壊れても戦わされ、戦闘に使えなくなった途端に慰み者。
いくら機械とは言えもう少しまともな扱いをしてくれてもいいものだ。
・・・そんなことを言ったところで今更だが。
何処へ行くのか、どんな審神者の所なのか。
それは行かねば分からない。

「さあ、行きなさい」

私は、製作者の声を背に聞きながら転送装置の上に乗った。
光に包まれ、それが消えると前の私のメモリーにもあった本丸が見える。
しかし、今度はどうやら違う審神者の所のようだ。
「お、居たぜ。大将」
目の前の廊下を歩いてくる男と、審神者らしき女を記録照会する。
「初めまして、薬研藤四郎。審神者 土萌 **」
そう挨拶すると審神者が顔をしかめる。
「止めて。**はアタシの名前じゃないわ」
「そうですか。それは失礼いたしました。このたび皆様のサポートに任命されました Shiki-XXXと申します。兵器を揃えた戦闘用ロボットです」
そう自己紹介をすると薬研藤四郎と審神者が顔を見合わせる。
「政府より話は聞いていなかったでしょうか?」
「いや、パソコンにメールは来てたけどすっごい予想外だったから」
まあ挨拶が先ね、と審神者はついてきてと移動を開始する。
薬研藤四郎がそれに続くような形で歩き始め、私は最後尾について歩く。
本丸の庭もメモリーにあるものと同じだが刀剣男士は少々違うようだ。メモリーに残っている薬研藤四郎はもっと荒々しかったが、ここでは審神者の影響か、それともこの環境下かそこまでには見えない。
審神者に与えられた部屋に到着すると、彼女は薬研藤四郎に人を呼んでくるように頼む。
そのまま彼は部屋を出ていく。
部屋を見れば生活に必要なものは一切ない。
・・・確かに彼女は生者ではないのでそういった類の物は必要ないのだろう。
部屋の片隅にぽつんと置かれている彼女を模して作られた人形(というよりは綿の入ったぬいぐるみに見える)がむしろ異様にすら見える。
そうこうしている内にメンバーが集まってくる。
彼らは第一部隊で戦場への出陣をメインとしているようだ。
陸奥守吉行、薬研藤四郎、山伏国広、和泉守兼定、太郎太刀、鶴丸国永。
それぞれ不気味なものを見る視線を私に向ける。
先ほどと同じ自己紹介を述べ、私も戦場へ行くという話をすると、途端に和泉守兼定からとげのある声が飛んでくる。

「俺はこんなやつを連れて行くのは反対だぜ」

敵意と、警戒心と、そして恐怖心。
前も、その前、その更に前も同じだった。
見知らぬものをみる時の恐怖。
私自身が感じたものではないがいつもの事なのでとくに気にすることもなく上座に座る審神者へ目を向ける。
「主殿、そもそもその・・・ろぼっと、というのは一体どういうものなのですか」
山伏国広もまた見知らぬ者への恐怖があるのかこちらをちらりと見てから審神者に問いかける。
「あー・・・何て説明したらいいのかしら。んー・・・決められた設定に基づいて自動で動く人形、って感じかしらね」
「おお、からくり人形じゃの」
陸奥守吉行がポンと手を鳴らす。それを見た和泉守兼定はのんきなヤツだとぼそりとこぼす。
「サポート送ってくるって言ったのは政府だし。・・・とは言えアンタの能力を見ていない以上はアンタをどう配置するかは決められない」
そう言ってからぐるりと第一部隊の面々を見回し、大きくはないがけして有無を言わせないような声色で宣言する。



「アンタたちがこの子の判断をなさい」



「それは、俺らが出陣する時に一緒に連れて行けってことかい、大将」
「そうね、そうなるわ」
はあ!?と和泉守兼定が不満そうな声を上げるが、審神者は一睨みで黙らせる。
「アタシが戦場にいけない以上はそうするしかないでしょう。それで戦力的に見合わないのであればその他の業務に充てる。これは決定事項よ。文句は言わせないわ」
ここの審神者は随分な暴君だ。
人間でないという自身の属性すらうまく利用し、回している。
和泉守兼定も言いたいことはあるのか、そう言われてしまっては文句の言いどころもないのか小声で悪態をつく。
「それでは準備があるので失礼します」
頭を下げ、審神者の部屋から出る。
今度の私は上手く行くのだろうか。
彼女は一体いつになったら死を許してもらえるのだろうか。


私「は」上手くやればいいだけだ。


戦場に出る準備の為私は廊下を歩きだした。




結果として、審神者の下した決断は正しかったようだ。
私は決められた業務をこなし、戦はこちらの完全勝利で終わる。
何だかんだと文句を言っていた和泉守兼定も最終的にはすまなかった、という謝罪の言葉をくれる。
「いいえ、気にしておりませんので謝罪は不要です」
けれどこちらとしても仕事をしているだけなので謝られても困る。
和泉守兼定は何か言いたそうな顔をしてたものの、ならいい、と言って背を向ける。


そう、私「は」大丈夫。
諦めた「四季」のようにはならない。
製作者たちがどんなに消去しようと消えなかった「四季の記憶」をメモリーの奥底へ沈め、私は本丸の廊下を歩いた。


―――


「なんで、あいつを連れて行かせたんだよ」
合戦から戻ってきた和泉の第一声はそれだった。
「なんで、って・・・そうでもしなきゃ。誰も納得しないでしょ」
それはアタシも同じよ、と付け足す。
「大体パッと出た奴に背中預けて下さいとか怖くてできないでしょ。しかもそれが政府が送り込んできたヤツとかね」
アタシのその言葉に和泉のが顔をしかめたように見えた。
「・・・・・・アンタが、土方歳三の刀だったことは分かってる。新撰組が国を守ってたこともね」
それでも。
アタシは一つため息を吐く。

「はっきり言っちゃえば、2205年の国は腐ってるし傾きかけてる。外からも中からも圧力がかかってね」

くるり。
空中で一回転。和泉はそれを目で追いながらどういうことかと尋ねてくる。


「戦力や資材に余裕があるようなら、アタシみたいな死人の墓暴いたり、人型の戦闘兵器作るわけないでしょ。しかもあの子、元にしてる人間居るわよ」


「・・・アイツ、生きてるのか?」
「あの子が、というよりはあの子が持ってる能力を提供した子、かしらね。あの子に今もくっ付いてるもの。黒髪の女の子」
「うげ・・・」
和泉は・・・刀剣の中でも最年少だ。そのこともあって感情表現は豊かな方だと思う。
最も良いものだけでなく悪いものも出てしまうあたりは、若いと言っても差支えない。
「しかも死んでないの、生霊。相当よ?生霊がくっ付いてるなんて」
楽しいわねぇ、と独り言を呟けばどこがだよ・・・という疲れた声が返ってくる。
「あら楽しいわよ?人間ってバカばっかりねーって」
「アンタはそういうヤツだよな」
「ま、使えるもんはがっつり使うわ。戦闘の能力は良いんでしょ?」
そう和泉に聞けば、ぶすっとした顔で頷く。
「アイツが人間じゃないっていう意味はよく分かった。化けモンみてーなヤツだよ」
その言葉を聞いて思わず爆笑する。
「アンタの現主も立派な化けモンよ!人間になり損なった悪霊だもの!」

ああ、楽しい楽しい。

「まあ、あの子も審神者とは言えここじゃアンタのが先輩なんだからあんまり苛めないであげなさいよ?先輩なら先輩らしく振舞ってやんなさい」



2205年がどうなってるのかは分からないし知りたくもない。
けれどロクでもない状態なのは確かだ。
人手不足と資材不足。
審神者なる者としての資格がある人材が足りないのか、それとも厄介払いの為の人選なのか。

出来れば、調べた方がいいのかしら。

部屋を出る和泉を見送りながら、アタシはそんな事を考えた。



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