「あのムカデ魔物だけ倒せる?行けるよね?エルー!」
「何を言ってるの、エルー。大丈夫、やれる」

同じ声で違うトーン。交互に喋られるとやはり耳は痛い。
白黒二人を追い抜いてエレニアはモンクのまま攻撃姿勢に入る。大倶利伽羅はそれを見切った上でカウンターに転じようとしたのだろう。
エレニアだけをみていたのが悪かった。

「ざーんねん。本命はこっち☆」

いつの間にやら杖から剣に持ち替えたエレンの斬撃がムカデ型の魔物を切りつける。
それと同時に大倶利伽羅の顔も苦痛に歪んでいく。
「倶利伽羅君!」
黒い眼帯男が近づこうとするのをエレニアが肩を掴んで止める。
「・・・彼の友達?」
何を言うのかと思えばそれだ。
相変わらずの無表情で目を見ても考えを読み取ることすらできない。
「おー、俺はあいつの友達だぞ」
眼帯男が答えない代わりに白い服の男が快活に答える。
「何で人間がここにいるのかは今は聞かない・・・が。お前さんたち、大倶利伽羅を助けられるのか?さっきそんなこと言ってたが」
信頼されていない証の目だ。だが不気味な人間がいることよりも大倶利伽羅が心配なのだろう。
「まだ、完全に生体変化しきってない。この状態なら私とエルーの力で元の姿に戻せる」
「って言ってもああも暴れられてちゃ意味がないからねー。乱暴だけど気絶位はしてもらわないと、かな」
分かった、と構えを取ったまま白い服の男が鶴丸国永と名乗る。
「私はエレン」
「私はエレニア」
大倶利伽羅が動き始めようとしたのを察し、魔術を詠唱して足止めする。
「貴方は?」
「・・・・・・燭台切光忠」
「オッケー!二人は足止めしつつ彼を呼んで。まだ・・・まだ飲み込まれてない。大丈夫だから!」
エレンが勢いよく地面を蹴って斬り込んで行く。
「・・・4対1で卑怯、とか言ってる場合じゃない。時間がないから」
別の杖に持ち替え、エレニアはエレンに補助魔法をかける。
「名前を呼んで。名前っていうのは魔力の象徴。呼び戻すためにも必要」
「はっはっは、若いのになかなか言うね」
鶴丸は愉快そうに笑うと大倶利伽羅の名前を叫ぶ。すると彼は一瞬反応を示す。
「ビンゴ!!」
その一瞬のすきを見逃さず、上からエレンが斬りかかり、エレニアは魔術を放つ。
その光景を、燭台切は呆然と見ていた。

助かる?
彼が?

もう、変わり始めているのに?
鶴丸さんは一体何を信じようとしているんだろうか。
散々自分たちを虐げた人間を。信じている?

「危ない」
思考に入っていた燭台切の耳に淡々とした声が聞こえてきたかと思うと、押し倒された。
そのちょうど真上を閃光が通り過ぎ、大倶利伽羅が燭台切の首を狙っていたことがよくわかる。
向こうの方で俺の主がー!や燭台切貴様!という声が聞こえてきたのはとりあえず聞かなかったことにしておく。
「死にたいの?」
「え・・・」
「つるまるはくりからをしんじてるのに、貴方は信じてないんだね」
淡々としたその言葉に、頭を殴られたような感覚がした。
違う、そうじゃない。
反論したいのに喉は言葉を紡いでくれない。
エレニアは立ち上がるとナースを唱え、傷付いたエレンと鶴丸を回復する。
「別に私もエルーも、私たちを信用しろって言ってるわけじゃない。貴方は貴方の友達を信じなきゃダメ。そうじゃないと、助けられるものも助けられない」
それでもなお燭台切が何も言わないのを見て、エレニアの無表情が崩れた。
完全に怒り顔になると燭台切の胸倉をつかんで・・・

頭突きをかました。

身長差もありそれは綺麗に燭台切の顎に入る。
驚きの展開に誰も何も言えない。
「・・・ふざけんな」
そう言い残して戦闘に復帰する。
タイムリミットは迫っていた。鶴丸の呼び声には相変わらず反応はするものの決定的な一打が与えられない。
徐々に変化していく風貌に、二人は内心焦りを見せる。
いざとなったら骨の一本二本覚悟してもらうしかないか。
エレンが拳を握る。

「大倶利伽羅!!」

よく通る声だった。
燭台切の声に大倶利伽羅の動きが止まる。
「はは・・・僕、友達を殺す所だったんだ」
彼は自嘲するように笑うと刀を握る手に力を込める。

「こんなんじゃ、格好悪いよね」

一閃。
真っ二つに切り裂かれたムカデ型の魔物がつんざくような悲鳴を上げる。
「エルー!」
魔物を更に切りつけたエレンが叫ぶ。
動きを止めた大倶利伽羅の元へ走り、手をかざす。
ふわりとした回復術とは違う暖かな光。
それが大倶利伽羅の身に起きた変化を解く・・・とほぼ同時、鎌状の物体がエレニアの体を背から貫いた。
それは魔物の最期の抵抗か。カマキリの腕のように見えるそれは完全に体を貫き、腹部を紅く染めていた。
「・・・!」
痛みに顔をしかめたが、それでもエレニアが大倶利伽羅から離れることはなかった。
彼の体が完全に元通りになったのを確認し、エレニアが倒れる。
「主!」
長谷部がすっ飛んできて傷口を抑える。
「あー、誰でもいいからエルーの傷口押さえておいて。今すぐ治癒術かけるから!」
剣を構えヒールウインドを唱える。
「応急的な治療は出来た。はせべ君、エレニアを離れに運んで。くりから君も一緒に離れに連れて行こう。きちんと治療しなきゃ」
そのあとはてんやわんやだ。
本丸の刀剣たちにバレないよう比較的綺麗な手拭いを集めて血を拭き二人を畳に敷いた布団に寝かせて治癒術をかけ始める。
厚と入れ替わりに医療知識があるという薬研が離れにやってくる。
「ちょっと傷口確認させてもらっても構わないか?」
「ああ、服開けるってこと?いいよいいよ、見られて困るもんもないしね」

羞恥心を持て。

しかしまあ、ツッコんだら負けだ。
「んじゃあ失礼するぜ」
服は血まみれになってしまったので代わりの服を着せている。
ボタンを外し露わになった肌に、息をのんだ。
「え・・・これ・・・」
清光が狼狽えたような声を上げた。
暴走したエレンを止める時、確かに傷は気になっていた。
だがこれはなんだ。
切り傷は数えきれないほど残っている。それどころかエレニアの肌には火傷や凍傷のような痕まで残っている。
「・・・治す側から傷を負ってくからさ、全然消えないんだよね」
仕方ないと言った顔で言うエレンに清光がかみつく。
「妹がこんなになってるのによくそんな涼しい顔してられるね!」
「私が何を言ってもエルーが人を助けるのは止めない。それは私も同じ。だから私たちは二人で一つなんだよ」
その視線をじっと受け止めるエレンにふざけた様子は見られない。
翡翠色の目に見つめられ清光は居心地の悪さに目をそらす。
「いや、みんなから言われてるんだよね。無理はするな!女の子なんだから体に傷残すな!って。でもエルーは止めない」
「それはお前もだろ」
同田貫の言葉にエレンは肩を竦める。
そこでそういえば、と思い出す。
夕方厚の攻撃を受け止めたのも簡易的な処置しかしていないはずだ。

「おい、脱げ」

同田貫の爆弾発言に場が静まり返った。
「・・・はい?」
流石のエレンも思わぬところからの思わぬ発言に目を丸くしている。
「お前も肩やられてたろ!いいから脱げ!」
「ぎゃあああああああ、やめてええええええええええ!」
目の前で広げられる痴態(モドキ)に目を丸くしたままの一行。
流石にそこは男女の力の差もあり、肩が露わになる。
「・・・やっぱりかよ」
エレニアほど酷くはない、がエレンの体にも随分と傷痕がある。
「あはは・・・」
エレンは乾いた笑いを上げて服を直す。
「・・・私もエルーも気にしてないよ。こんなの」
はい、治療完了、と杖をしまう。
もののついでで鶴丸と燭台切の怪我も治療しておいた。
「アンタたちは、どうしてそんな怪我まで負っても戦うんだ?」
薬研に問われ、エレンはんー、と唸りながら首をかしげる。

「ヒトが好きだから、かなぁ、多分」

妙に引っかかる言い方。
「ま、こうやって死にかけてた倶利伽羅を助けてもらったんだ。俺はアンタらを信用してやるよ」
鶴丸がその形のいい口元に笑みを浮かべる。
「本当?ありがとうつるまる君!」
「はっはっは、俺を君付けか!こりゃ驚いたな!」
何が楽しいのか鶴丸は笑いだす。
「改めて、俺は鶴丸国永。ここで伸びてる黒いのはアンタたちが助けてくれた大倶利伽羅」
「僕は燭台切光忠。倶利伽羅君を助けてくれて本当にありがとう」
白黒二人に頭を下げられ、エレンは思わず狼狽える。
「い、いや。私もエルーもただたんに目の前の人を助けたかっただけだから・・・」
きにしないで、という言葉が少しだけ小さくなる。

「そういえばお前、今回は暴走しなかったな」
エレニアが清光に刺されたときはあんなに暴走したというのに、さっきの大倶利伽羅戦ではそんな気配はみじんもなかった。
「え、だって戦ってるんだから怪我くらいするでしょ?」
何を言うんだとエレンは首をかしげる。
とにかく治療も終わったということでもう夜。各々使える部屋で休むことになる。
エレニアはまだ眠ったままだ。
「・・・エルーはずっとそうだよね」

山でカノンノに助けられた時からそう。
後衛メインなのに誰かが怪我しそうになると前に出てきて盾になって怒られて。
その時はきちんとごめんなさいってするのに、でも反省しなくて。
みんな呆れちゃってエルーが任務に出ると医務室そわそわしちゃうんだよ。
帰ってくる時間に合わせて医務室が準備はじめてるの、エルー知らないでしょ。

畳の上でごろごろしながらエレニアに語りかける。
「よー、入ってもいいか?」
「つるまる君?はーい、どうぞー」
起き上がって座りなおすと、寝間着姿の鶴丸が部屋に入ってくる。
「別に取って食いにきたわけじゃないから安心してくれよ」
と、障子は半分開かれたままだ。
「あの場でいうべきことでもないと思ったから言わなかったが」
鶴丸はそこで言葉を区切ると、スッと目を細める。


「お前さんたち、人間じゃないだろ?」


言葉には疑問符がくっ付いているが、それは断定の言葉に聞こえた。
エレンはポカンとした表情で鶴丸を見ていたが、やがて口元に笑みを浮かべる。
「何で?」
「お前さんたちにゃあ人間にはない光が見えててな。それがまぶしいのなんの」
何で。他の刀剣たちは気付かなかったじゃないか。
「ははは、俺はこれでも長生きな方でね。若い奴らと一緒にされちゃ困る」
「なるほど。視る力ってことか」
エレンは脱力してから、外に向かって声をかける。
「話すからさ、たぬき君も入っておいでよ」
「やっぱり同田貫か、入ってこいよ」

鶴丸、同田貫と向かい合ったエレンは、口を開いた。

「私たちは世界樹から生み出されたディセンダーなんだよ」

そうして、彼女はルミナシアに生み出されてからを語り始めた。



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