薄汚れていた離れをあらかた掃除し終えたところでエレンを探しに向かわせていたこんのすけがエレニアの元にやってくる。
「エレニア様、エレン様を発見しました」
「何やってた?」
「和泉守兼定様、同田貫正国様と粟田口の面々の治療を行っていたようでして」
「あわたぐち?」
なぁに、それ。と言った顔で長谷部の方を向くと長谷部が刀匠の名だと教えてくれる。

「なるほど、製造元か」

今ここにいない双子も同じようなことを言っていたことなど誰も知らず、国広のどういうことなのというツッコみが空しく響く。
「粟田口全員を治療できたなら主の仕事も大分先に進んだと思うよ」
内番の衣装だという服に着替えた清光は汗を拭いながらそう言う。
「抱き着かないんだ」
「だって俺今すっごく汚れてるんだよ!?こんな格好で主にくっ付くなんてできないよ!」
清光は潔癖症か、とすごくズレたことを思っているといつの間にやら真横に控えていた長谷部が「姉君をここに呼んだ方がよろしいのでは?」と提案をしてくる。
「それもそうか。私たちは掃除を続けるから、こんのすけ。呼んできて」
かしこまりました、と小さな狐は庭を駆けていく。
「大体片付いたし、とりあえずもう少しだけ頑張ろう。こっちにもお風呂あるし、ある程度終わったら順番に入っちゃおうか」
流石に今日は暴れまくったのもあって汗臭い。普段任務で森やら火山やら洞やらにこもってる間は気にならないが一応ここは人が住める場所だ。
雨風をしのげてシャワーを浴びるだけでもありがたいことだ。
なぜか長谷部と清光がざわっとする。

「これは俺らはどうするべき?やっぱり外で有事に備えて・・・」
「いや、しかし主の入浴を邪魔するべきではない。・・・が、もし万一があれば」
「っていうかやっぱりこれ主が先に入るべきだよね」
「当り前だろう。臣下である俺たちが先に入ってどうする」
「・・・ねえ、それってさ」
「・・・加州清光。それ以上は言うな」

何やらこそこそと会話を始める二人を見て国広に「仲良しだね」と声をかける。
「いや・・・どうなんだろう・・・」
何を目覚めたのか真横にいるエレニア・クロッカスという女性にゾッコン(古い)になった二人。
あらゆる意味で仲が良いというべきかなんなのか。
仕え方は真逆だが、同じ人間に惹かれたところは似ているのかもしれない。たぶん、もしかして、きっと。
「じゃあ私お風呂掃除してくる」
「主!少しお休みください!俺が掃除してきますので!」
「いや、はせべは部屋の掃き掃除続けてて」
それだけを言うと風呂場に向かって歩き始める。

それから少ししてからだった。
「あ、兼さん!!」
国広が泣きそうな、というよりもほぼ半泣き状態で和泉・・・とついでに同田貫、厚、エレンが離れにたどり着いたことを喜ぶ声をあげる。
「あれ、厚藤四郎も居たの?確かにさっきこんのすけが粟田口を治療してたって言ってたけど」
汚いのが嫌だったのか井戸で顔を洗ってさっぱりした清光も戻ってくる。
「ま、こいつもエレンを見極めたいってことだろ」
同田貫がガシガシと厚の頭をなでるというか叩くというか。
「・・・貴女が主の姉君ですか」
「お、貴方は?」
「俺はへし切長谷部。長谷部、とお呼びください。エレニア様の近侍を務めております」

爆弾投下。

和泉、同田貫、厚ははぁ?という顔。国広は青い顔で明後日の方向。清光は嫉妬心。
「ああ、そうなの?近侍ってなんだかよく分からないけどエルーと仲よくしてくれてるってことだよね?」
そっかそっかとエレンは笑う。
「ちーがーうー!エルーの近侍は俺!長谷部は二番目だし!」
「何を言っているんだ加州清光。俺があの方の一番だ」
どういうことかと和泉が国広の方を向けば半泣き状態。ダメだ、これ以上ツッコめば後戻りができない(精神的に)。
ちょうどそこにお風呂出来たよー、とエレニアが戻ってくる。
「あ、エルー!」
「あ、エルー。エビ状態解いてもらえたんだね」
「たぬき君が優しかったからね!」
ね!と同田貫のほうを見れば、彼は顔を赤くしてそんなんじゃねえ!と反論する。
「そっか。ありがとう、どうたぬき」
何というかまあ、人間勘違いであってもお礼を言われてしまうと「違います」と言いづらくなるものだ。
反論をそっと諦め、気にすんなとぶっきらぼうに言う。
「・・・とりあえず、みんなお風呂入ってからあったことを話そうか」
「え、お風呂あるの?やった。前に森入った時は5日位戻れなかったから大変だったよね」
「川に飛び込んだよね。臭いで寄ってくる魔物対策に」
話を聞いていると、思っていた以上に凄い生活を送ってきたのかもしれない。
エレンとエレニアでありがたく一番風呂をいただき、次々入っていく。
最後長谷部が出てきてから8人は円になって座る。
「・・・で、エルー。あの後何があったの?いずみとくにひろの部屋が大変なことになってた」
「あー・・・」
目に見えて落ち込み始めた和泉と国広を気にしつつもエレンはそのあとの事を話し始める。
「・・・で、とりあえずいちご君の兄弟全員の治療をして、厨房に張られてた結界を壊してきた、と」
「そういえば夕方にすごく大きな音が本丸の方から聞こえてきたと思ったら・・・」
「あれ、エレンが結界破壊した音だったんだ」
あの結界は霊力が高い刀剣でも破壊できなかったはずだ。
「ほとんど無理やりだったけどな」
「扉、最後は無くなってたし」
同田貫と厚が遠い目をする。
一体自分の心配とはなんだったんだろうか、という気分と酷い怪我を負わなくてよかったという安堵がごちゃまぜだ。

「何やったの、エルー」
「いやちょっと」

えへえへと照れたように笑うエレン。違う、褒めてない。
「じゃあエルーの方は?はせべ君は治療できたみたいだけど」
「はい、主はとても優しい方です。動けない俺を部屋まで運び、心優しく介抱してくださいました」
そういえば軽く医療知識習ってたね、と隣にいるエレニアに声をかける。
「そして俺が何も食べていないと知るとぴーちぱいなるものを食べさせてくれたんです」

爆弾投下第二弾。

エレン側に居たメンバーがの顔が凍りつく。どういうことなの。何が一体どうなってそうなった。
そして何をどうやって主第一の長谷部を手懐けた。
「あの時の主はまるで天からの使いのようで」
何やらスイッチが入ってしまったのか語り始める長谷部に、俺だって主に食べさせてもらったもんね!と対抗する清光。
「・・・国広」
「兼さん。多分世の中には知らない方がいいことがたくさんあるよ」
相棒の遠い目に和泉は冷や汗をかきながら、そうか・・・と答える。そうとしか言えなかった。
「魔性の女ってやつだね。エルーってば罪作りー☆」
「お前は妹の暴挙を止めろよ!!」
同田貫が思わずツッコみを入れる。ボケしかいない。ツッコみが圧倒的に足りていない。
しかしエレンは同田貫の言葉を笑って流す。
「まあ、エルーに惹かれたってことはそういうことなんだろうしなー」
私にはどうにもできないよ、と相変わらずケラケラと笑う。
「とにかく、今日はもう休もう。疲れたままじゃ明日に響くしね」
「あー、それもそうだな。っていうかこれ今日1日の出来事かよ・・・」
和泉が疲れきった声で天井を仰ぐ。

目の前にいる異端の双子が来て、本丸内の空気は変わった。
それは、多分、いい方向に、だ。
隣の同胞が笑うのを久しぶりに見た、兄弟のうれし泣きを初めて見た。
それを持ってきたのはこの二人だ。
このままいい方向へ向かって行けばいい。
それが茨の道だとは分かっている。
けれど――

瞬間、空気が張りつめた。

「敵襲・・・?」
「まさか!今まで何の気配もなかったのに!?」
国広と清光がそれぞれ刀を持つ。
「と、とにかく行こう。みんな」
8人は慌てて敵意を感じる方向へ走っていく。

「これ・・・は・・・」

全身真っ白な服と着た男と、眼帯をした黒い服の男が刀を抜いて『ナニカ』と対峙していた。
「あれ・・・あれって・・・」
厚の顔色は暗闇の中でもわかるほどに青くなっている。
二人の男が対峙しているのもまた黒い服を着た男だ。
男の手には太刀と呼ばれる種類の刀が握られているが、刀はどす黒く染まり男の体を黒い靄のようなものが覆っている。
それからムカデのような薄気味悪い物体が男の周囲をくるくると踊るように回っている。
男が、白と黒の男に向かって刀を振り上げる。
白い服の男は意を決したように刀を構え、
「ライトニング」
その白と黒を裂くように雷が落ちた。
靄を纏った男はその異常な落雷現象に警戒したのかバックステップをして距離を取って様子をうかがっている。
「ヒールウインド」
白い服の男と眼帯の男のちょうど真下に円形の光が浮かびあがり二人の傷を癒していく。
「いやいや、殺しちゃダメでしょ。それはアウトアウト」
「まだ生体変化しきってない、間に合う」
杖を持ったエレニアは駆け出すと同時に格闘家に転職し、男の手の甲を狙って蹴りを入れる。
エレンは魔法剣士からビショップへと転職するとデルタレイを詠唱し、ムカデ型の魔物を光で穿つ。
突如現れた異物に白黒二人に訝しげな眼を向けられる。
「白い人!前から来る!避けて!」
「うお!・・・こーりゃ驚いたな、大倶利伽羅」

大倶利伽羅。

そう呼ばれた男は何も答えず・・・刀を握りなおした。



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