「居た」
本丸の庭にたたずむエレンを見てこそこそと会話を始める。
「三人はとにかくエルーの気を引き付けて。その間に私が背後から殴る」
「ざっくりしすぎだろ。まぁ、それくらいわかりやすい方がいいか」
和泉は鞘から太刀を抜いて構えをとる。
「!! 彼女が動いた!」
各々が臨戦態勢を取るも、エレンが向いたのは彼女たちとは別方向だった。
黒い影が屋根の上からエレンに切りかかるが彼女はバックステップでそれをよけクナイを投げ放つ。
投げ放たれたそれらは屋根の上から降りてきた人物が刀を振るって全て叩き落としてしまう。

「同田貫・・・!」

和泉が舌打ちをする。
「仲間?」
「ああ、でもあいつ・・・ひでえ怪我してたはずじゃ・・・」
和泉の言葉にエレンと同田貫の戦いに目をやれば、確かに彼の足元はふらついて見える。
「・・・どうたぬき、助けてくる」
エレニアはすっくと立ち上がると清光の静止の言葉も聞かずに駆け出す。
職業を忍者から戦士に変えたエレンが斧を振り上げる。
それを横から入り掌底を横っ腹に食らわせれば、エレンの体がぐらつく。
「いずみ、受け止めて」
「は!?」
何をする気だ、それを尋ねるより早く人が降ってきた。

否、エレニアが同田貫を掴んで和泉に向かって投げた。

もちろん完全に予想外の出来事だ。受け止めることもできず国広も巻き添えを食らって障子を突き破って転がっていく。
「あーあ」
清光は肩を竦めたが、まあこの程度で大きな怪我をすることもないだろう。刃は鞘にしまったままエレニアの加勢に向かう。
「攻撃!・・・に見せかけてっと!」
殴られることを予想したエレンが防御の姿勢を取るとほぼ同時に清光が足払いをかける。
「・・・!」
完全に体制を崩したエレンの側頭部に、

「よーいしょっと」

淡々と掛け声のようなものを呟いたエレニアの容赦ない蹴りが入り、エレンの体は吹っ飛んで池に落ちる。
「・・・・・・容赦ないね」
「あれくらいでくたばらないから大丈夫」
そう言いながらエレンを池から回収する。
「とりあえず目を覚ましたらお説教するからぐるぐる巻きにでもしておこう」
そのまま首根っこをひっつかみズルズルと引きずる。
「一度いずみとくにひろの部屋に行こうか。三人を回収してきて」
「回収って・・・」
清光は苦笑しながら吹っ飛ばされた三人を迎えに行った。

その後血で汚れた布団でエレンを簀巻きにしてから、同田貫の治療に入る。
「え、あの子ほっといていいの・・・?」
結構いい具合に蹴りが入っていたように見えたが。
「大丈夫。エルーは丈夫だから」
「そういう問題か?」
巻き込まれて吹っ飛ばされた割には和泉に怪我はなさそうだ。
同田貫はというと和泉、国広、清光の必死の説得もあり大人しく治療を受けている。
「大丈夫?」
「んなわけねえだろ、いきなり投げ飛ばしやがって」
「軽口叩けるから大丈夫」
治療終わり、と呟いて立ち上がると後回しにしていたエレンの治療に入る。
「うー・・・」
うめき声を上げながらエレンが目を覚ます。
「ねえ、エルー」
「なに、エルー」
「何で私ぐるぐる巻き?」
「何でって暴れたからよ」
えええ、とエレンが身動きを取ろうとする。
「ねえ、どうたぬき」
「あ?なんだよ」
「何か今のエルーの動き、エビみたいで気持ち悪いね」
攻撃もそうだったが身内に対して容赦がなさすぎる。
向こうで和泉が思い切り噴出したのも気にせず、淡々と治療を続ける。
「ねえねえ、エルー。俺すっごい頑張ったよね?」
エレンの治療をしているエレニアにくっ付き清光が褒めてと言わんばかりの声をあげる。
「うん。きよみつは凄く頑張った」
良い子良い子と撫でると清光は嬉しそうに笑う。
「・・・随分ほだされたもんだ」
「だってエルーは俺に酷いことしなかったもん。エレンは怖いけど、エルーだったら俺の主になっても許せるなー」
それを聞いた同田貫が舌打ちをする。
「こんなのを信用しろってのか?」
「俺は信じてもいいって思ってるしー」
清光と同田貫の間で火花が散る。
「いいよ、きよみつ。すぐに信用しろっていう方が無茶」
むう、とうなりながらも清光は視線をそらす。
「どうたぬきも、怪我治したばかりだから無理はしない方がいい」
「そりゃどうも」
同田貫が視線を外したのを見てエレニアは立ち上がる。
「少しこの建物内を歩いてくる」
「お前には警戒心ってもんがねえのか?」
先ほどエレンを止めると言った時もそうだ。
「一人で行動して、それで死にたいのか?」
和泉の射抜くような視線を無表情で受け止める。
「私は死なない。エルーが居るから」
「私も死なないよ。エルーが居るし」
相変わらず訳が分からない双子だ。エビ状態のままエレンがぐねぐねと動く。
「はいはーい、じゃあ俺もエルーについていく。和泉守もそれならいいでしょ?」
「別にこいつを心配してるとかじゃねえよ。さっきだって身内を容赦なく蹴っ飛ばすわ同田貫はぶん投げるわ。俺は仲間を心配してんだ!」
「それこそ俺がついていけばいいじゃん。俺だって仲間が攻撃されるのなんて見たくないし」
そのやりとりを聞いていた国広がクスクスと笑う。
「彼女の心配っていうのが最初に出てくるあたりでもうバレバレだよ、兼さん」
相棒にまで言われ、和泉はけっと吐き捨ててそっぽを向く。・・・少しだけ顔が赤い。
「和泉守までほだされてんじゃねえか」
同田貫がため息を吐く。
「んー・・・分かった。じゃあ生贄・・・間違えた人質に置いてく」
エレニアはそう言って簀巻きのままのエレンを指さす。
「ちょっと待ってえええええ!!え?私このまま?ねえ、エルー。私このままなの!?しかも生贄って言ったよね!?」
「煩いエルー。少し静かにして。暴走されるくらいだったら簀巻きの方がマシだよ。生贄じゃないよ、人質だよ」

少しどころじゃなくとんでもなく厳しい。

それを聞いた同田貫が口元に笑みを浮かべる。
「ほう・・・こんな状態で抵抗も出来ない奴を人質にするわけか」
「私が不審なことをしたならその時は切ればいい」
やめて!考え直して!!今ならまだ間に合うから!!!お願い!!!!等というエレンの悲痛な叫び声をBGMに同田貫とエレニアはにらみ合う。・・・と言ってもエレニアは無表情のままだが。
「・・・よし、それならいいぜ。少しでも不審な行動を取ってみろ。こいつの首と胴体を切り離してやるよ」
「ああああ、たぬき君目が怖い!口元笑ってるのに目が笑ってないよ!エルー助けて!!」
エレンは相変わらずのエビ状態でびったんびったんと跳ね始める。
「誰がたぬきだ!」
「どうたぬき君だと長い!」
今この場にいる人物の心は一つ。

この部屋の中心で簀巻きのまま跳ねている人物は自分が人質扱いだと認識しているのだろうか?

「じゃあ私きよみつと歩いてくる」
「あー、国広。お前もついていっとけ。清光一人だと不安だしな」
どういうことだよ!という清光の言葉を無視して国広は分かったよ、と頷く。

エレニアが清光と国広と共に部屋を出て、重苦しい空気が・・・

「ほどいてよおおおおお!」

見事空気を読まない金髪が重苦しい空気も何もかも吹っ飛ばした。



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