「いやあ、楽しみだね、エルー!神様だって!」
「別に楽しくはないよ、エルー。神様だよ?」

金色の髪に翡翠色の瞳。
同じ風貌を持った少女が二人同じ愛称を呼び合いながら話し合う。違いはと言えば着用している衣服と髪の長さくらいか。
二人の目の前を歩く式神こんのすけは内心で冷や汗すらかいている。

今から行く場所はとてもではないが安全な場所とは言い難い場所だ。

政府の連れてきた審神者の資格があるとは言え、年端もいかない少女たち。
また殺されてしまわなければいいのだが。

「エレン様、エレニア様。こちらになります」

大広間の襖の前に案内を終えたこんのすけはすっと襖の前から退く。

「あはは、凄いよエルー!」
「すごくないよ、エルー。凄い殺気なだけ」

じゃあ開けるよ!とエレンが襖を勢いよく開けた瞬間白い光が二人の目の前を駆け、そして途切れる。
「バリアー」
エレニアの小さな声に反応した半透明の壁が刃を弾く。
ちっ、という舌打ちをしたのは黒い長い髪の男。
「わー、見て見てエルー!凄いイケメンなのに威圧感半端ないね!」
「そうだね、エルー。物凄い勢いで睨まれてるよ」
それを見たエレンはきゃっきゃとはしゃぎ、エレニアは言い捨てるように言葉を紡ぐ。
「こんのすけぇ・・・どういうことだ、これは」
「和泉守兼定様。これも政府の決定なのですよ!」
「うるせえ!審神者なんて信じられるかよ!」
和泉守兼定と呼ばれた男がまた刀を振り上げる。
「よーいしょっと」
エレンは鞘に収めたままの剣でそれを受け止め弾き返す。そのまま鞘から剣を抜き放ち和泉守兼定に向かって駆け出す。
「よーっし!いずみ君だっけ?戦闘は楽しもうじゃないか!!」
爛々とした笑顔を見せ、和泉守兼定を押していく。負けじと和泉守兼定もエレンの持つ剣を押し返す。
実践とも演練とも言えない妙な空気の打ち合い。
エレニアはそれをぼけっと見守っていたが真後ろからの殺気に飛び退く。
「何だ、避けられちゃった」
こちらも黒い髪だが和泉守兼定に比べると幼く、目は澄んだ水のような色をしている。
「誰」
「名乗る必要はないよね。僕らの居るべき場所に不法侵入してきたんだからさ」
振り出された刃を杖で受け止める。
「・・・何それ、ふざけてるの?」
華美な装飾のついた杖に、少年はイラついた表情を見せる。
「ふざけてない。・・・どうみたらふざけてるように見えるのかが分からない」
エレニアは首をかしげると杖を構える。
「あー、エルーいいなぁ、戦ってる!」
「ふざけてないで、エルー。貴女も戦ってる」
杖を構え、エレニアは詠唱に入る。
彼女の足元に浮かんだ奇妙な文様に、少年はぎょっと目を見張り反応が遅れてしまう。
その反応の遅れが命取りだった。
「シャドウエッジ」
呟いた言葉と共に少年を影でできた刃が貫く。
「国広!!」
それに気を取られた和泉守兼定もみぞおちに剣の柄を叩き込まれむせこむ。
「はーい!第一関門突破ぁ!」
「2対2ならこんなもの」
楽しげにぴょんぴょんと飛び跳ねるエレンとゆっくりと首を振るエレニア。
和泉守兼定はげほげほとむせこみ立ち上がろうとする。
国広と呼ばれた少年は気を失っているのか起き上がる気配もない。
「てめえら、国広に何しやがった!」
「落ち着いて。気絶してるだけ。本気は出してない」
杖をひゅっと振り、エレニアはキュア、と呪文を唱える。
それと同時に国広が負っていた傷が全て消えていく。
「なっ・・・」
目の前で起きた奇跡にもにた奇妙な出来事に和泉守兼定は絶句し、同じ顔をした少女を交互に見る。
「大人しく治されて」
「はあ!?何いって・・・」
エレニアは表情がなかった顔をしかめると、和泉守兼定の服を無理やり脱がせる。そうして露わになった上半身には至る所に生々しい刀傷が残っている。
エレンが指先で突くと相当痛いのか悲鳴に似たうめき声を上げる。
「これ相当痛いよね、エルー」
「凄い傷だから痛いよ、エルー」
同じように杖を振りキュアを唱えると刀傷は見る見るうちに消えていく。
「よっしこれでオッケー。ねえいずみ君。この場所には後何人神様がいるの?」
「それだけ教えてくれればもういい」
同じ顔でも表情が違うと印象も大分変る。
「お前ら、ここに何しに来たんだ・・・」
警戒の色はそのままに和泉守兼定が訪ねる。

「それはこちらから説明します」

戦闘が終わったとみたかこんのすけが大広間に入ってくる。
「この本丸にいる刀剣男士の治療と、次に来る審神者の教育。それが彼女たちの務めです」
「最後まで面倒見てあげたい気持ちもあるんだけどね、エルー」
「そうしたいけど、私たちも時間がないんだよね、エルー」
「後こんのすけもいずみ君も、話せる範囲でいいから何があったのか教えてくれないかな?戦闘は楽しいから別にいいんだけど、そう何度も何度もやってたらこっちももたないよね!」
「別に戦うのはいいんだけど下手するとこの建物壊しちゃうし、生活に影響でるからね」
同じ声が左右交互に聞こえてくると頭が痛くなってくる。

「どうもこうも、審神者が最低なヤツだってことだよ」
「・・・以前ここに勤めていた者は、彼らを本当の物のように扱いました」

人の形をとっていても人として扱ってもらえず、機嫌が悪ければ殴られ、手入れもまともにされない。
美しい容姿をとっていれば夜伽へと。
聞いているだけで気分が悪くなるような話をずらずらと並べられる。

「それは酷いね、エルー」
「うん、酷いよね、エルー」

明るかった顔が、無表情だった顔が怒りに染まる。

「・・・怒るんだな」
「「何が?」」
左右交互に響かれるのも痛いが、同時に聞こえてくるのも耳に悪い。
「お前らにとって俺らっていうのはモノなんだろ?その扱いが悪いって、お前らは怒るんだな」

「そりゃあもちろん怒るよ!」
「心があれば痛みは感じる」
「体があれば傷ついちゃう!」
「それに対して怒るのは当然」

二人のその言葉に対して和泉守兼定はポカンとした表情になってから、笑い声を上げる。
「お前ら、面白いな」
「そうかな?エルー、私面白い?」
「そうだね。エルー、貴女は面白い」

芝居がかったやり取りを眺めていると、室内に気配が一つ増える。
「国広!」
「兼・・・さん・・・」
先ほどエレニアが気絶させた少年が目を覚ましたようだ。
「傷は」
「え・・・」
唐突に尋ねられ、国広はあっけにとられた顔になる。
「あ、ごめんね。国広君!エルーってば口数少ないからさ!傷は残ってない?痛いところは?気分悪くない?大丈夫?」
「エルーはうるさい」
怒涛のように尋ねられ国広はたじろいだが、袖をまくって目を見張る。
「傷が・・・消えてる・・・」
「こいつが治したんだとよ」
和泉守兼定はエレニアを指し示す。
「・・・・・・一応、お礼は言った方がいいかな。ありがとう」
「仕事だからいい」
エレニアの淡々とした口調にエレンが無愛想なんだから!と怒る。

「・・・ここにいるのは全部で42人だ」

和泉守兼定がポツリと口を開く。
「兼さん!」
「政府も審神者も信用してねえよ。・・・だが、こいつらが俺らを手入れしてくれたことは違いねえ」
「うん、信用して、なんてそんなこと言えないもん。でも」
「こんなに痛々しいの、見てられないから、物理になっても治す」

矛盾してない?という国広の言葉が大広間に妙に響いた。



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