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ここにやってくるのは随分と久しぶりだ。
仕事が忙しかったのもあるけれど、実を言うとあまり幼馴染み達に会いたくなかったから。
理由はよく分からない。
ただ何となく、みんなに会うと自分の立ち位置が分からなくなってくる。
疲れてるのかもしれない。
確かにここしばらくほとんど休み無しで働いてたし、そのせいで本社命令で暫く休み取らされたし。
だから、LIに向かったのはほんの気まぐれ。
何も考えずに騒ぎたかっただけなのかも。
「・・・・・・こんな時間から勢揃いですか」
「しぃ、久しぶりだな」
よくまぁ集まれますね、とイヤミを言うとみんなしぃに会いたかったんだよと崇生から返ってくる。
「そうですか。それはどうも」
スツールに腰掛け、ずり落ちた眼鏡を直す。
「あれ、お前眼鏡かけてたっけ?」
私の前にウーロン茶を出しながらくにさんが言う。
「いいえ。これは伊達眼鏡です。眼鏡かけてたほうが賢く見えません?」
ただのイメージ戦略。普段はコンタクトだし。
「そう言えば佐伯も眼鏡かけてたよね。しぃが今かけてるような黒縁の・・・」
漣の言葉に私はそっと眼鏡を外して鞄に無造作に放り込む。
「四季」
「佐伯とお揃いって何の罰ゲームですか」
恨めしげに見てくる佐伯の方を見ずにそう言うとみんなが笑う。
別に本気でそう思ってるわけではないので佐伯も気にしている様子はない。
・・・・・・少しだけ本気だったのは言わないでおこう。
「そう言えばお前いつの間に店長になったんだよ。っていうか早くねえ?」
「ああ、名刺見たんですか?今働いてる麻布支店は新しくできた店なので常駐している人では私が一番年上だったんですよ」
もちろん本社の人間は来るけど支店常駐してるわけじゃないから。
「まあ、置物店長ですよ」
実質店を動かしているのはその本社の人間だし。
バリバリのキャリアウーマンが店長をやっている、なんていう名目を得る為だけ。
「そのせいでこっちは仕事が増えに増えて大変でしたけどね。残業つきまくりです」
爪の先でグラスを弾くと高い音が響く。
「だからしばらくここに来なかったの?」
「・・・そんなところです」
崇生が取り分けてくれた料理を口に運びつつ勇太にそう返す。
崇生は相変わらずお兄ちゃんしてるみたい。
「・・・・・・そう言えば」
今度はウーロン茶ではなくビールを飲みながら。
「噂でくにさんが結婚すると聞いたんですけど本当ですか?」
いや、まさかね。ただの噂に決まっている。
「まだ結婚までは行ってないけど、ほれ」
・・・・・・くにさんが、カウンターの女の子の肩を叩く。
「はい?」
その子、バイトさんじゃなくて・・・?
予想外も予想外すぎて、大和たちとくにさんを交互に見る。
「コイツは杏。俺の婚約者」
「東雲 杏です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる女の子は・・・私よりも年下に見える。
くにさんとは10以上は年が離れているだろう。
「あ・・・五条 四季です。よろしくお願いします・・・」
おずおずと頭を下げる。
あのくにさんと結婚しようなんてどんな聖人君子のお嬢さん・・・!
「おめでたいですね。あ、新婚旅行はどうぞ私のお店で」
「商魂たくましいね、四季は」
「佐伯煩いです」
ぐいっとビールを飲み干してお代わりを要求する。
・・・何だかんだと言いつつ、ここはほっとする。
(来て、よかった)
来たくないと思っていたのが嘘みたいにそう思って、私はグラスを煽った。