いつものお客さんがいないLI。
久仁彦さんに店番を頼まれた私は、手持ちぶさたになってしまいしまってあったグラスを拭いていた。

ドアベルの音がして顔を上げる。
入り口には黒縁の眼鏡をかけた女の人が立っていた。

ベージュ色のきちっとしたスーツに肩にかかる程度のショートカット。
見た目からしてまさにキャリアウーマンと言ったようなすっきりとしたキレイな女性。
彼女はぐるりと店内を見回してから、あれ?と小声で呟き「あの」と私に声をかけてくる。

「はい、何でしょう」
「くにさん・・・」

そこまで言ってしまった、という表情になる。

「いえ、藍川 久仁彦さんはいらっしゃいますか?」
久仁彦さんのお客さん・・・?
1時間程前に会社へ行ってしまったことを伝えると彼女は眉を寄せる。

「・・・一体何なんですか、呼び出しておいて」

それから彼女は名刺ケースから1枚取り出し私に差し出す。
そこには旅行代理店の名前と共に店長という肩書きが書かれている。

(この支店って私が上京してきたくらいに出来た所だよね・・・そこの店長さん・・・?)

「これを見せて私が来たと言えば分かるはずなので、戻ってきたら渡してもらっていいですか?」
「はい、お預かりします」

お願いしますね、と彼女は笑みを浮かべてから踵を返して去っていく。

(五条 四季さん)
名刺に書かれた名前を心の中で読み上げる。

「久仁彦さんの知り合いなのかな・・・」

ベージュのスーツを見送り、首を傾げる。
・・・きっと、後30分もすれば久仁彦さんも帰ってくるだろうし。
久仁彦さんを「くにさん」って呼ぶのはLIに集まるみんなくらいだから・・・もしかしたらみんなとも知り合いなのかも。
そんな事を考えながらグラスを拭くのを再開する。

「杏ちゃん、こんにちは」
「くにさんが居ない・・・」

またも鳴ったドアベル。
今度は勇太君と漣君が立っていた。
「あ、2人ともいらっしゃいませ。久仁彦さんは今会社に行っちゃってて」
2人の前に飲み物の入ったグラスを置きながら言うと、漣君がカウンターに置いたままの名刺を手に取る。
「これ・・・」
「あ、それは」
勇太君も名刺をのぞき込んで、それから驚いた顔をする。

「え・・・しぃいつの間に店長になってたの?」
「知らない。前に会ったときは何も言ってなかったし。前って言ってももう半年以上前だけど」

・・・やっぱり知り合いなのかな。
「その、五条さんってみんなの知り合いなの?」
「あ、そっか。杏ちゃんは会った事ないか」

勇太君と漣君は顔を見合わせる。
「彼女は俺たちの幼馴染みだよ。小学生の時は一緒に野球もやってたんだ」
「野球、やってたんですか?」
そんな風には見えない人だったけど・・・。
「今は落ち着いちゃったから」
一体どんな人なんだろう・・・。

「少しキツイ印象はあるかもしれないけど、良い子だよ」
「そ、そっか」

みんなとも仲良しみたいだし、仲良くなれるといいな。
そうこうしているうちにいつものメンバーが集まってくる。
やっぱり話題は今からまたやってくるであろう五条さんの事。

「っつーか前に四季がここに来たのいつだ?」

大和さんの言葉に漣君が「半年以上前」と返す。
「あの時も四季は大分忙しそうだったからね。体を壊してなければいいけど」
・・・・・・あの佐伯さんがまともな事を言っている。
何だかんだで幼馴染みだっていう話だから心配なのかな。

「お、みんな集まってるな」
「久仁彦さんお帰りなさい!」

久仁彦さんが帰ってきたのにみんなが口々に遅いだとか言い出す。
あはは、やっぱり仲良しだなぁ。
「久仁彦さん、五条 四季さんって方が見えて名刺置いていったよ」
久仁彦さんに名刺を渡すと忘れてた、という不穏な呟き。

「アイツ何か言ってたか?」
「うーん・・・特には」

そっか、と言い久仁彦さんは携帯を取り出して五条さんに電話をかけ始めた。



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