「会合?」

ナイトメアさんの休憩に付き合いつつここしばらく塔の中がばたばたと慌ただしい理由を尋ねると、そんな言葉が返ってくる。

「ああ、この世界では定期的に催し物をしなければならないんだが・・・」
「私が治めるこのクローバーの国では会合がその催し物なんだ」

『私が治める』って所で凄くドヤ顔してるけど・・・それならまずグレイさんに迷惑かけるの止めましょう。

「四季はグレイの味方なのか!」
「ナイトメアさんがちゃーんとお仕事してくれればナイトメアさんの味方もしますよ」

グレイさんが淹れてくれたココアを飲みながらそう言うとナイトメアさんはぐぐ、と唸る。
自業自得って言葉を辞書で確認しましょう。

「それで、会合って事は何を話し合うんですか?と言うよりも何を決めるために集まるんですか?」
「いいや、何も決まらない。集まったところで血の気が多い連中だからな」

集まる事が大事なんだ、とグレイさんが言う。
うーん・・・何度聞いてもこの世界の事はよく分からない。
理解しようと思っても中々に難しい。

命が軽視されること、人の顔が見えないこと。
私が生きてきた世界とは全く違う。

「それならこれからまた忙しくなりますね。何か出来る事があったら言って下さい。お手伝いします」
「ああ、それは助かるがあまり無理はしなくていい」

うーん・・・グレイさんって本当にお母さんって感じだなぁ。
私もいい年した大人だし、大丈夫なんだけどな。
でも、心配してもらえるって、久しぶりだし嬉しい。

「あれ?」

久しぶり?
自然にそう思った事に首を傾げる。

「ああ、そうだ四季」

考えに沈みそうになった私を引き戻すようにナイトメアさんが私を呼ぶ。

「君も会合に出席するだろう?」
「え?私も?」

仮にも大事な集まりに余所者が出てもいいの・・・?
助けを求めるようにグレイさんを見ると、グレイさんはグレイさんで頷いている。

「ああ、それでしたら正装用のドレスが必要ですね。表通りの店をいくつか見繕っておきます」
「グレイさんも止まって下さい」

あれ?この人たちってボケるタイプだったっけ?
ナイトメアさんは兎も角グレイさんはそういうイメージがなかったからどうしようかと。

「相変わらず四季は私に酷いな・・・。会合に出るなら正装は必須だからな!」
「出るなんて一言も言って無いじゃないですか」

裏方で充分ですよ、と心の中で言えばナイトメアさんが呆れたような顔をする。

「君はほんっとうに欲がないな。ここで出ると言っておけばドレスだぞ?ドレス!しかも私からのプレゼントだ!」
「うーん・・・でもドレスなんて買っても着る機会がないですし・・・それに私に今必要なのって仕事用のスーツじゃないですか?」

私服だもん。スーツの男の人ばかりの塔の中だと、凄く浮く。
そもそも女っていう時点で浮いているのかもしれない。
欲がないっていうよりも必要性があまり感じられないっていうだけだしな・・・。

「それを欲がないっていうんだ」

ナイトメアさんの声には今度こそ本当に呆れが混じる。

「四季がそれでいいというなら裏方のスタッフをしても構わないが・・・地味だぞ?」
「あはは、大丈夫ですよ。しっかりお仕事しますから安心して下さい」

まずはここしばらくで手に入れたお給料でスーツを買おう。

「グレイ。それなら彼女のスーツを買えそうな店を探しておいてくれ。会合期間中は少し表に出てもらうことにもなりそうだしな」

ナイトメアさんのグレイさんは分かりました、と言ってから私に向き直る。

「それくらいなら俺たちで揃えるから、金額の事は気にしなくていい。それに」

そこで言葉を句切るとグレイさんは笑みを浮かべる。

「君はもう少し俺たちに甘えて構わないんだ」
「あ・・・はい・・・」

まだ少し気を張ってたの、ナイトメアさんもグレイさんも分かってるんだと思う。
ぎゅうっと胸が痛む。



『大丈夫だよ』



「―――っ!」


突然耳元で聞こえた声に、びくりと体が跳ねる。
「四季?どうした」
グレイさんがきょとんとした顔で私を見る。
「あ、何でもないです・・・」

どくん、どくんと心臓の音が耳元で聞こえる。
そうだ、今の声は。


(ユーキ)





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