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「あ、グレイさんおはようございます」
時間がバラバラに変わるこの世界で過ごして少し経った頃。
塔の廊下を歩いていると何だか疲れたような顔をしたグレイさんと会う。
「ああ、四季。おはよう。ナイトメア様は・・・」
「部屋から歩いてくる間には見てない、ですね」
ごめんなさい、と謝ると君は悪くないとグレイさんは疲れた顔で笑う。
「・・・そうだ。グレイさんは休んでいてください。私がナイトメアさんを探してきます」
しばらくナイトメアさんとグレイさんの仕事を見学させてもらっていたが・・・。
グレイさんの仕事はやばい。
とにかくもう、やばいの一言に尽きる。
ナイトメアさんが脱走を謀るせいでそのしわ寄せのほとんどはグレイさんに向かう。
「だが・・・」
「ほら、私にだったら油断して顔見せるかもしれませんし!」
私が捕まえようとしていることを分かってしまうナイトメアさんは、きっと出てこない。
そんなことは分かっていてもそう言ってしまう。
それほどまでに今のグレイさんの顔色は、やばい。
「生意気かもしれないですけど、少し休んだ方が効率もよくなりますよ」
ナイトメアさんは休みすぎですけどね、と茶化すように笑う。
「それなら、探すのを手伝って貰ってもいいか?」
「はい、もちろんです」
それでも休まないグレイさん・・・。一体何がどうなってグレイさんはナイトメアさんの部下をしているんだろう。
いつかもっと仲良くなれたら聞いてみよう。
そんな密かな野望(?)を胸にグレイさんとは別の方向へと歩いて行く。
途中何人もの部下さんとすれ違いながら客室のドアを開けたり、廊下の隅を見たり。
軽く走りながら次々とドアを開けて・・・。
「あれ?」
やがて、人の気配がない廊下にたどり着く。
しんとした冷めた空気。
そこにもドア。
「・・・・・・」
何だかぴりぴりとしたものを肌に感じる。
ドアノブに手をかけて、開けて良い物かと逡巡する。
意を決してドアノブを回そうとした瞬間
「四季さん」
「っ・・・!?」
後ろから声をかけられる。
それまで人の気配なんて感じなかったものだから思わず飛び跳ねる。
「あ・・・」
部下さんが口元に笑みを浮かべながら立っている。
(いつの間に・・・?)
足音も何もなかったのに・・・。
「その部屋は私がもう探したんですけれど」
「あ、ナイトメアさんはここにはいなかったんですね」
それなら探す必要はないかな。
ドアノブから手を離して部下さんに向き直る。
「えぇ、四季さんはそちらの方面を探していただいてよろしいですか?」
「分かりました。早くナイトメアさん、見つかるといいですね」
それだけ言葉を交わし私はナイトメアさんの探索を再開する。
・・・結局、その後3回程時間が変わる頃にようやく、ナイトメアさんを見つける事に(グレイさん曰く捕獲)成功した。
「ナイトメアさん」
「ナイトメア様」
私とグレイさん、2人から冷たい目を向けられたナイトメアさんは不満そうだが大人しく椅子に座っている。
「もう、逃げちゃダメじゃないですか。逃げるから余計にお仕事溜まっちゃうんですよ」
典型的なダメループだと思う。
「ダメ!?四季・・・君、結構酷いな・・・」
「そう思われても仕方ありません!書類の整理くらいならお手伝いしますから、頑張りましょう?」
散らばった書類をまとめ始めると、ナイトメアさんはまるで天の助けとばかりの顔を、グレイさんは渋い顔をする。
「だが、君は仮にも客人で・・・」
「大丈夫ですよ。むしろここに住まわせてもらってるのに何も出来なくて心苦しかったくらいですし・・・」
ナイトメアさんは花でもまき散らしそうな笑顔を見せて嬉しそう。
「その代わり!きっちりお仕事してもらいますからね?」
まとめた書類をナイトメアさんの胸に押しつける。
手の中でくしゃりと紙が潰れた感触。
「うう・・・四季まで私を苛めるというのか」
「苛めではないでしょう。彼女が言っているのはごくごく普通の事です」
グレイさんがばっさり切り捨てる。
書類の山に埋もれて、唸るナイトメアさんをに、私とグレイさんは顔を見合わせて苦笑した。