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こつこつと廊下を歩く。
ここはクローバーの国の中央に存在するクローバーの塔・・・らしい。
クローバーの国はこの国の名前で、ここは私が元々住んでいた世界とは別の世界・・・らしい。
そしてこの国では必ずゲームをしなければならなくて、それぞれ領地が土地の取り合いをしている・・・らしい。
らしいらしいと連呼していると何がなんだか分からなくなってくる。
でも一番分かっていないのは私だ。
説明を聞いても正直さっぱり分からない。
とりあえず分かった事は、ここは異世界で、外の世界からやってきた私は【余所者】と呼ばれているということ。
このクローバーの国には【役持ち】と【役無し】という二種類の人間が居て、役無しと呼ばれる【カード】(ナイトメアさんはそう言っていた)は顔が見えないということ。
・・・確かにナイトメアさんとグレイさんの顔ははっきりと見えるのに、先ほどから廊下をすれ違うスーツの男の人は顔がよく分からない。
そこに居るのに、顔が無い。
まるで私みたい。
ここに確かに【居る】のに、居ない。
私の前を歩くグレイさんに必死について行きながらこの世界について考えを巡らせる。
「わ・・・」
どうやら目的地にたどり着いたようで、立ち止まったグレイさんの背中に突っ込みそうになる。
「とりあえず今日はこの部屋を使ってくれ」
「あ・・・はい」
示された客室のドアをグレイさんが開けてくれるけれど、グレイさんの顔が直視できない。
ナイフを向けた事は謝ってくれたし、私も許した・・・つもり。
でも、怖い。
ナイトメアさんが言っていた、この世界では命の価値が軽いということを身を以て体験したようで。
グレイさんが怖い人じゃないのは分かった。
分かっても、心の何処かで怖がっている。
・・・そして、グレイさんも私がそう思っているのを分かっているから、ぎこちない。
「四季」
「・・・はい」
グレイさんが更に口を開こうとしたところでナイトメアさんの部下さんがこちらに走り寄ってくる。
「グレイ様・・・その、ナイトメア様が・・・」
「またか」
グレイさんが疲れたようにため息を吐く。
「あの・・・?」
また、と言われても何が何だか分からない。
「ああ、ナイトメア様がまた脱走なされたんだ。四季は気にしなくていい」
「だ、っそう」
一体何がどうなっているんだろう。
けれどグレイさんは柔らかく微笑んで私を安心させようとする。
「疲れただろう?君はゆっくり休むといい」
「わ、分かりました。・・・おやすみなさい」
グレイさんと部下さんが走り去っていくのを見届けて、私は客室に入る。
客室、とは言ってもとても広いし一通りの物は揃っている。
ベッドに座るとお気に入りの、猫の耳の飾りが付いた帽子を取ってサイドテーブルに置く。
帽子に付いている青薔薇を模した飾りを指先で撫でて深く息を吐いた。
「私、は」
誰かに呼ばれた。
何かを、探していた。
誰を?何を?
分からない。私には何も分からない。
ベッドに倒れ込むと、自分でも気を張っていたのかゆらゆらと睡魔がやってくる。
「・・・ん?」
すぅっと、睡魔に身を任せたはずなのに、私はよく分からない場所に立っていた。
よく分からない、という言葉が一番似合う。
薄暗くて不思議な色の光がちかちかと瞬く。
「やぁ、四季」
「ナイトメアさ・・・ええ!?」
そのよく分からない世界で、ナイトメアさんは空中に浮かんでいた。
(血色は悪いけれど)美しい顔で微笑んでいる。
「あ、の、ここは・・・?」
「ここ?ここは夢だよ。四季、君のね」
ゆめ、と口の中で繰り返す。
夢・・・ゆめ。
眠っている時に見る、アレ?
「そう、その眠っているときに見る夢だ」
「!?」
薄気味悪さが戻ってくる。
私の顔が歪んだのが分かったはずなのに、ナイトメアさんの表情は変わらない。
「私は夢魔なものでね。こうして人の夢に潜り込むことも、人の心を読む事も出来てしまうのだよ」
「心を、読む?」
つまり、考えている事が分かる。
確かにそう考えると色々つじつまは合うけど・・・。
「・・・そこで、だ。しばらく君の夢に居させて欲しい」
「何でで・・・あ、寝る前にグレイさんと部下さんが探してましたよ!」
そう言うとナイトメアさんはびくっと体を震わせる。
「君の夢から出て行ったら仕事をしなくてはならなくなるだろう!」
「仕事してください」
グレイさんたち・・・、まだ探しているんだろうな。
でも、青ざめた顔でぶるぶると震えているナイトメアさんを見ていると、薄気味悪いなんて思った事がバカらしくなる。
「後でちゃんと、お仕事してくださいね」
「・・・う、わ、分かっている」
分かってなさそう、なんて思いながら私は夢の中でナイトメアさんを話をした。