「これはちょっと派手すぎませんか・・・?」

鏡に映ったドレス姿の自分を見てから振り返る。
「いや、似合っている。可愛いよ」
にこりと笑ってグレイさんが言うから、途端に心臓が騒ぎ出す。

「でも会合用ですし、もうちょっと落ち着いたものにした方がいいんじゃないですか?」

そう、私は今グレイさんと一緒に会合用のドレスを探しに来ている。
会合中も出来るだけグレイさんやナイトメアさんと一緒に居た方が良いということになって、私も会合に参加する事に。
それはいいんだけど・・・。
会合への参加には正装が必要だからドレスを買わなくちゃいけないんだよね。

派手に見えるドレスだけれど、私がこういう物を着慣れていないせいなのかな。
グレイさんは普通にしてるけど・・・。

「そうか・・・?ならこっちはどうだ?」
「ああ、こっちの方が落ち着いてますね」

着替えますね、と私はまた試着室に籠もる。

別のドレスに着替えて、また鏡を見る。
「どうでしょう」
試着室のカーテンを開ける。
「ああ、こっちの方が合ってるな。四季はこれでいいか?」
「はい。すいません、スーツも買っていただいたのにドレスまで」
そう言うとグレイさんはいつもの優しい笑みを浮かべて頭をぽんぽんと撫でてくれる。
「これは俺がプレゼントしたいんだ。気にしないでくれ」
「・・・・・・はい」

ナイトメアさんには、グレイさんには極力甘えてくれと言われている。
それが嬉しいんだってナイトメアさんは言ってたけど・・・。

「さあ、次に行こうか」
「そうですね。次は・・・」

グレイさんと並んで私は通りを歩く。
時間帯がぐるぐる変わる不思議な国。
私が住む事を決めた国。

会合に必要な物を買い、クローバーの塔に戻る。
ふっと空が暗くなり夜の時間帯になる。
「あ、夜になりましたね」

いつもと変わらない星空がクローバーの塔を見下ろしている。
時間帯が変わるのはまちまちで、どの時間帯になるのか分からないから『明日』というくくりがあるのかは分からないけど。
でも夜が来ると新しい日がどんな日になるのかわくわくする。

「四季。もう一カ所活きたい場所があるんだが大丈夫か?」
「え?大丈夫ですけど・・・。もう夜ですよ?」
「この時間帯じゃないとダメなんだ」

よく分からないけれど私は頷くとグレイさんに手を引かれて歩き出す。

そうしてたどり着いた場所は

「わぁ・・・」

月明かりに照らされた森の中で、白い花がぼんやりと浮かび上がる。
「これって・・・」
前にテレビか何かで見た事があるだけの花に似ている。
「限られた夜の時間帯にしか咲かない花なんだ」

森の中に花の香りが漂う。
白い花は思っていたよりも大きさがある。

月の光と白い花。
幻想的な風景に言葉が出ない。

「凄いですね・・・」

風が吹き抜けて香りは空へと舞っていく。

「君に見せたかったんだ。こういうものが好きだろう?」
「・・・はい」

こうやってキレイな風景を見られた事も嬉しいけど。
でも、それよりもグレイさんが私の事を考えてくれた事がなによりも嬉しくて。

「私にとっては・・・この夜は特別です」

いいんだよ、って誰かが私の背中を優しく押してくれる。

分からないのに何故か悲しくなって、涙が一筋だけ流れた。
ごめんねって伝えたいのに、伝えるべき相手が居ないの。

香りがむせ返る花の中、私とグレイさんは並んでその幻想的な風景を見つめる。

「やっぱり時間帯が変わるとこの花は枯れてしまうんですか?」
「いいや。これが咲いている間は特別なんだ。・・・この花が枯れきると時間帯が変わる」

やっぱりこの世界でもこの花は・・・夜の間しか咲けないんだ。
「でも、だからこそキレイなんですよ、きっと」
たったそれっぽっちの時間帯にしか咲けない花。
時間が狂ったこの国で、きっちりとした時間を持っている。
グレイさんはいつもの笑みを浮かべて、でも、少しだけ困ったような風にも見えたけれど、私の頭をぽんぽんと撫でてくれる。

その手の感触も、温かさも、いまここに私とグレイさんが居る証拠。

(本当に、よかった)

グレイさんが生きていてくれて。
もう誰かが死ぬ所なんて見たくないから。

「グレイさん」

グレイさんに抱き付いて心臓に耳を当てる。
かちこちと聞こえてくる針音。
ぎゅうっと強く抱き付いて、大好きです、と聞こえないくらい小さな声で呟く。


「私、ずっとここに居ていいですか?」

「それは俺から頼みたいくらいだな。ここに、ずっと居てくれ」


そうして私たちは何度となくキスを交わす。

「私」
至近距離で見つめ合いながら私は口を開く。
「ようやく、見つけたいものが見つかったような気がします」


長い長い時間をかけて私はようやく見つけて。

「愛しています」

私は伝えても伝えても、伝えきれない想いを載せて笑顔を浮かべた。






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