『おいで、こっちに、おいで』

暗闇の中、誰かが私を呼んでいる。

自分の姿も分からない闇の中、けれど声は確かに前から聞こえてくる。

歩く事なんて出来ないはずだったのに、いつの間にか私は声を追って闇の中を走る。

『こっち。こっちだ。そのまままっすぐ』

ふと、そこでその声の主を思い出す。

「ユーキ」

声は答えない。

(そうだ、会わなきゃ)

ユーキに、会わなければ。

目的を思い出すと足取りも軽くなる。

ただただ走り続けていると、足下からこつこつという足音が聞こえてくる。

そこで、今までユーキの声以外が聞こえていなかったことに気付く。

走って、走って。

私は、ドアを開けた。









ロストエンファウンド










「グレイ!」
という知らない男の人の声と、何か白い光のようなものが見えたのはほぼ同時だった。
突然に事に一歩も動けず喉に何か冷たい物が当たる。

「・・・え?」

目の前には黒い・・・スーツ。
黒い髪に金色の瞳をした男の人が、私の喉に刃物・・・ナイフを当てている。

「グレイ。下がれ」
「ですが、ナイトメア様」

だがグレイと呼ばれた人は渋々といった様子で私から離れる。
喉から冷たい感触が消えた瞬間に体から力が抜けてその場に座り込む。

「何・・・」

私は・・・誰かの声を追って走ってきていたはずなのに。
ドアを開けた瞬間にナイフを突き付けられる言われはない、はず。

「すまないな。大丈夫か、四季」

ふと視界が陰り、顔を上げるとキレイな銀髪をした男の人が私に手を差し出している所だった。
少し青白い顔をしているけれど、とても整った顔立ちをした・・・男の人に使うのは可笑しいかもしれないけれど、とてもキレイな人。

「何で、名前・・・」

その人は柔らかく、優しく微笑んではいるがそれよりも名前を呼ばれた事が気持ち悪い。
彼は何も答えずに私の手を取って立ち上がらせる。

ゆっくりとその部屋を見回すと、偉い人の部屋、といったような感じがする。
執務室?

「クローバーの国へようこそ、四季。私はナイトメア=ゴットシャルク。この国を治めている」
「あの、だから・・・何で、名前」

ナイトメア・・・さん、は口元に薄く笑みを浮かべると自分の椅子へ戻っていく。
グレイ・・・さんは、ナイトメアさんの部下・・・のような立ち位置なのか、彼の後ろに立って控えている。

「私は君がこの国に来たときから知っているからね。名前くらい把握していて当たり前だろう?」
「でも、私貴方を知りません」

彼のようにキレイな人は今まで見た事がない。

「あぁ、そうだ。でも君は呼ばれてこの国にやってきた」

呼ばれたのは事実。
誰かの声に呼ばれて走って、私はドアを開けた。
そのドアの先が、この部屋だった。

夢のような、現実のような。
足下がふわふわとしている。

「・・・あれ?」

誰に、呼ばれたんだっけ?
あんなに会いたかったはずなのに、誰に呼ばれたのかが分からない。

「あ、あの、ナイトメア・・・さん?」
「どうした?」
「ここ、何処なんですか?私・・・ずっと暗い場所を走ってて、それで、ドアを開けたらこの場所で・・・」

混乱はまだしているけれど、少し落ち着いてくると不安が押し寄せてくる。
ここが何処なのか分からないし、あの声も思い出せないし、知らない人ばっかりだし。

「ああ、混乱するのも無理はない。君が知りたい事は、知っている範囲で教えよう」




それは、銃丸飛び交う不思議な世界で起きた、私の不思議な物語。






―――
塔コンビメインでトリップ主です。
アリスはハートの城に滞在しています。



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