「四季」
「ナイトメアさん・・・?」

次に目を覚ましたとき、私は夢の世界に居た。
あれ?じゃあ目を覚ましてるわけではないんだ。

「あ、わ・・・私、誰かに行き成り攫われて、それでっ・・・」
「ああ、分かっている。兎に角落ち着くんだ」

いつも通り落ち着いたナイトメアさんの声に、私は一度頷く。
「君を攫った連中の事ももう調べはついている」
だから安心して欲しい、と笑うナイトメアさんはいつも通り。
・・・だから、私も安心できる。

ナイトメアさんが大丈夫って言うんだから、大丈夫。

「それに、今回は帽子屋も協力してくれていてな。思ったより早くカタはつきそうだ」
「ブラッドさんも・・・?」

・・・何で?
ブラッドさんがナイトメアさん達に協力するメリットってあるのかな・・・?
クローバーの塔は中立地帯だとは聞いているけれど、この世界では領地争いが常だって。
それなのにブラッドさんが?

「ああ、それに関してだが、どうやら帽子屋の領土でも色々やらかしていたようでな。お礼参りみたいなものだ」
「お礼参り・・・」

血の気が多いって聞いたけど、本当なんだな。

「・・・現実の私は眠ってるんですよね?」
「ああ、そうだよ。ここは夢の世界だからね」

うーん・・・のんきに眠っていていいのかな・・・。
でも起きた所で何が出来るわけでもないんだよな・・・。
大人しくしてれば殺さない、なんて言ってたけど・・・それだって本当かは分からない。

あの時当てられたナイフの感覚がリアルに思い出されて、今更ながら体が震える。

「四季」
「・・・ナイトメアさん」

口を開いたら、弱音が出てきてしまいそう。
・・・ううん、ナイトメアさんは心が読めるから、私の弱音なんてお見通しなんだろう。
それでもナイトメアさんは私を見捨てない。

「まったく、君は」

呆れたように言ってナイトメアさんはふよふよと漂う。

「君はもう立派な塔の一員だ。見捨てるわけがないだろう」
「・・・」

何だか、泣きそうだ。
好かれてる、愛されてる。
それが、はっきりと分かる。

「四季」

ふいに、ナイトメアさんの声が真剣になる。
「・・・はい」
ぎゅっと手を握り、私はナイトメアさんの目を見る。
「君はグレイの事が好きなんだろう?・・・それが、この世界に残りたいという君の理由だ」
息を吸い込むと少しだけ心臓が痛い。
じりじりと焼け付くような、そんな感覚。

「そうです」

でも、ナイトメアさんだって残りたい理由なんですよ?
そう心の中で言うと、ナイトメアさんは有り難うと微笑む。

「君はいつだって私たちを受け入れてくれた。・・・いや、受け入れる努力をしてくれていた」
「私は・・・ただ・・・」

ナイトメアさんとグレイさんの期待に応えたかっただけ。
例え心臓が時計だったとしても、私にとってナイトメアさんは【ナイトメアさん】で、グレイさんは【グレイさん】だった。
ただそれだけの話。

「だからこそ、グレイのことも受け入れてやってほしい」
「・・・グレイさん?」

なんで此処でグレイさん?

「君はアイツの事を優しい大人だ、と思っているだろう?実際君の前ではそうだしな」
「・・・えーと、そう・・・ですね」

いつでも優しい大人。
スマートで、私みたいな子供にも優しい人。

「だが、それはアイツの一面に過ぎない、という事だ」

それはつまり、グレイさんには私が知らない一面があるという事。
ナイトメアさんがわざわざ言うなんて・・・簡単には受け入れられない事なのかもしれない、なんて心の何処かで思う。

「大丈夫ですよ」

きっと、どんな人であってもグレイさんだから。
「君には本当に敵わないな」
ナイトメアさんがそう言って呆れ声。でも、何だか楽しそうに見える。

「そろそろ助けが来る頃だ。目を覚ますといい」

こくりと頷くと夢の世界が終わり始める。
私は目を閉じて夢が終わるのを待った。





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