「やぁ、お嬢さん達こんにちは」

いつだったか会ったときと同じように気怠そうにブラッドさんが笑う。
こんな表情でも似合うなんて、美形って言うのは得なんだなぁ、なんてそんなバカなことを思う。

「ブラッドさんこんにちは。お誘い有り難うございます」

キレイな赤バラが咲いている広い庭園は隅まで手入れが行き届いていて、こんな素敵な場所でお茶会だなんてまるでおとぎ話みたい。
ブラッドさんは紅茶が好きで、色々とこだわりがあるらしい。
だから出される紅茶は期待していて良いとアリスには聞いていた。

「わ、本当に美味しい」
「流石こだわってるだけあるわよね」

元の世界だとあまり紅茶を飲んだ事がなかったけど、この紅茶が美味しい事は分かる。
「ふむ、気に入ってもらえたならばホストとしてはとても嬉しいことだ」
「はい、とっても美味しいです」

一緒に用意されているお茶菓子も美味しいし、ブラッドさんって本当に紅茶が好きなんだなぁ。
そう言えば今日はエリオットさんを見てないけど・・・どうしたんだろう。

「そういえばエリオットさんは居ないんですか?」

エリオットさん、ブラッドさんの事大好きだから居ると思ったんだけど・・・。
すると、ブラッドさんが一瞬にして遠い目をし始める。
「・・・?ブラッドさん?」
何だろう。何か・・・こう・・・悲哀的なものを感じる。

「・・・また?」
「ああ、まただ」

また、って何の話だろう。
頭の上に疑問符を飛ばしながらも私はカップに口づける。

「あの・・・」
「ブラッド!」

何かあるんですか、と続けようとした私の言葉はエリオットさんの楽しそうな声にかき消される。
現れたエリオットさんは手に大きなお皿を持っていて、その上にはこれまた大きなオレンジ色のケーキ。

「あ、エリオットさん。こんにちは、お邪魔してます」
「四季も来てたのか。コレ、食うだろ?」

そう言ってお皿を持ち上げる。

「・・・ケーキですか?」
「おう、にんじんケーキだ」

視界の端でブラッドさんがぐったりしたのが見える。
ケーキ嫌いなのかな。それともにんじんかな・・・。

「四季」
「はい?」
ブラッドさんは先ほどと変わらず気怠げに笑っているが、目が笑っていない。本気だ。
「君はそのオレンジ色の物体が好きなんだな?そうだ、そうに決まっている。私の分も食べるといい。何、遠慮することはない」
「・・・は、はぁ。にんじんケーキは美味しいと思いますけど・・・」
何だか必死。

「ブラッド、エリオットににんじんを執拗に勧められたせいでにんじんが嫌いなのよ」
「ああ・・・だからオレンジ色の物体なんだ」

にんじんという単語を出すのも嫌なくらいに嫌っているんだ。

「でもエリオット。貴方の取り分が少なくなるじゃない」
「俺、アンタたちにならにんじん分けてもいいって思ってるんだぜ!」

ぴょこぴょこと耳が動くのを見て、何だかうずうずする。
【三月ウサギ】っていうくらいだからエリオットさんはやっぱりウサギさんなんだよね。

「・・・エリオットさん」
「どうした?」
「ちょっとこう・・・しゃがんで下さい」

ブラッドさんににんじんの魅力を語っているエリオットさんを呼ぶと、大人しくしゃがんでくれる。
手を伸ばして、耳にそーっと触れてみる。

「ふわふわしてる・・・」

ついでに髪の毛も触ってみる。オレンジ色の髪の毛もふわふわしていてさわり心地がいい。
「・・・私も触って良い?」
アリスも一緒になってエリオットさんの耳を触る。
「・・・・・・楽しいか?」
「とっても楽しいです」


・・・・・・しっぽも生えてるのかな?


ブラッドさんはそんな私たちを尻目に紅茶を飲んでいる。
さり気なく・・・もないんだけど、ブラッドさんの為に切り分けられたであろうケーキのお皿は私の席に置かれている。

「あれ、ブラッドは食わないのか?」
「ああ、お嬢さん達は客人だ。客人はもてなすべきだろう?」

ブラッドさんがにっこり笑うけれど・・・何だろう。凄い・・・違和感?
にっこりとした笑顔がここまで似合わない人も珍しいなぁ。
むしろ気怠い表情が似合うからこういう笑顔が似合わないのかな?

「ブラッドはほんっとうに優しい奴だな・・・!」

そう言ってブラッドさんを見るエリオットさんの目はキラキラと輝いている。
私よりも年上の男の人なのに、何だか可愛い。

エリオットさんが持ってきてくれたにんじんケーキは甘さ控えめでとても美味しい。
・・・ブラッドさんも食べればいいのに。
にんじんという単語すら嫌いになるくらいのにんじんプッシュって、一体何があったんだろう。
ちょっと気になるような怖いような・・・。

「ああ、そうだ。ここしばらく塔を嗅ぎ回っている連中が居るらしい」
「この前も爆発騒ぎがあったばかりだし・・・」
アリスの目に心配の色が宿る。
軽く肩をすくめる。

「夢魔とトカゲが居るとは言え、気をつけるといい」
「そうですね・・・。有り難うございます、ブラッドさん」

何も、ないといいな。




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