【帽子屋】の役を与えられたブラッドさんが治める領地。それがこの帽子屋領。

「わぁ」

目の前に広がるお屋敷をみて、声が漏れる。
ブラッドさんの役が【帽子屋】だというだけあって、お屋敷のあちこちに帽子をモチーフにしたものがある。
「凄い大きいね。私こんなお屋敷みたいなお家初めて見たよ」
「お屋敷みたい、っていうか実際屋敷だものね」

四季の世界にはこういう家はないの?と聞かれる。

「うーん・・・もっとお金持ちの人は所謂豪邸っていうの?そういうのに住んでるのかもしれないけど、普通の人はこんな大きな家には住まないよ」

私が元々住んでいた世界と、アリスが元々住んでいた世界も違うから、そこの常識の差は少しあるみたい。

「お姉さん!」
「お姉さんだ!」

見上げるくらい大きな門をくぐろうとしたとき、赤と青の服を着た双子の男の子がアリスに抱き付く。
「ディー、ダム。・・・今日はちゃんと仕事してるのね」
双子の男の子の頭を撫でながらアリスが言う。
・・・こんな男の子も仕事をサボる世界なの?

「・・・?」

あれ、この子達には顔がある・・・ってことは役持ちさんなのかな。
でも・・・会合の時に居たっけ?

(あの時居た人は・・・)

ブラッドさんとエリオットさん、エースさん。
それにスーツが似合うキレイな女の人とその隣に座っていた男の人。
そう言えば白いウサギの耳が見えたような気もした・・・。
後は猫の耳が生えたピンク色の男の人と帽子を被った男の子。

(居たっけ?)

あの時は確か双子の男の人は居たけれど、男の子は居なかったような。
私が内心ちょっとした混乱状態になっているのを見たのか、アリスが双子の男の子を紹介してくれる。

「この子達はディーとダム。帽子屋屋敷の門番なのよ」
「あ、そうなんですね。私は四季です。よろしくお願いします」

どうしたらいいのか分からず、とりあえず頭を下げる。

「この人塔に居た人だよね?ハートの騎士を連れてきた人」
「あいつは何処でも迷うからね。きっとこのお姉さんに迷惑をかけてたんだ」

・・・・・・何で知ってるんだろう。
「あの会合の時に、2人は居ましたっけ?」
どうしても思い出せない。・・・それって結構失礼だよなぁ。

「・・・あぁ、あのね四季」

アリスが私の腕を引っ張って耳打ちする。

「あの時ブラッド達と一緒に双子が居たでしょう?」
「あぁ・・・あの男の人達?」

その人達とこの子達に何が関係あるんだろう。

「・・・・・・その2人がこの子たちよ」
「はい?」

バッと双子を見る。

「・・・言われてみれば似てる、ような」

でも言われなくちゃ分からない。

「この世界って何でもありなんですね」
「あっさり受け入れたわね」

この世界は元々色んなものが不思議だから、きっとこういうこともあるんだ。

「ほら、考えても分からない事はありのままを受け入れなきゃ」
「四季ってぼんやりしてて時々逞しいわよね」

羨ましいわ、とアリスが独り言のように呟く。

「アリス?」
「何でもないわ。ディー、ダム。ブラッドは?」

ディーさんとダムさんはアリスが来てくれたのが嬉しいのか飛び跳ねる勢いでアリスにくっついている。

「ふふ、こうしてみると仲良しの姉弟みたい」
「こういうときは可愛いんだけどね」

アリスの口調に疲れたような響き。
この子達もこんなに可愛いけれどこの世界の人だから、きっと・・・色々あるんだろう。

「ボスなら庭にいるよ」
「お茶会だから機嫌がいいんだ」

お姉さんも行こうよ、と青い服の・・・ディーさんが私の腕を引く。
「はい、有り難うございます」

お茶会の会場だという庭を目指して歩きながら4人で色々と話をする。

「それにしてもお姉さんと姉弟だったら僕たちお姉さんとイチャイチャできないよ!」
「そうだよ。ねぇねぇお姉さんはいつになったら帽子屋屋敷に来てくれるの?」
「アリスは人気者だねぇ」

アリスが他人事だからって、とぼやく。
世話焼きのお姉さんと甘えたがりの弟。
何だか微笑ましい。


『四季』


ふいに、ユーキの声が聞こえた、気がした。
甘さも、愛しさも、悲しさも、全部がごちゃ混ぜになった声。


『―――――』

『だから、俺を』

『―――』


「―――っ」

途端に頭痛が走り、思わず膝をつく。
「四季!?」
アリスが慌てて私に駆け寄る。
「どうしたの?・・・頭痛?」
「・・・ううん、大丈夫」
小刻みに震える手をぎゅっと握る。


(本当に、忘れて良いの・・・?)




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