「・・・あ」

目を開けると私はナイトメアさんが作りだした夢の世界にいた。
「私・・・」
アリスと一緒に雑貨屋さんを見ていて、何か爆発したから逃げようとして・・・。
「君は爆発に巻き込まれたんだよ」
「ナイトメアさん!」
この世界の主とも言えるナイトメアさんの姿が見えてほっとする。

あれ?ここが夢の世界って事は・・・。

「ああ、現実の君は眠っている。怪我は大したことは無かったが一応医者にも診て貰った。特に問題は無いから少しゆっくりするといい」
「ついでにナイトメアさんも診てもらいました?」

クローバーの塔にお医者さんなんて、私よりナイトメアさんを診た方がいいと思うの。
「四季、少しは自分の身を案じなさい」
「はい・・・。それで、あの・・・。あの爆発は一体」
ナイトメアさんはふむ、と言葉を選んでいるように見える。

「役持ちというのは命を狙われる機会が多くてね。特に領主ともなると酷いんだ」
「・・・ナイトメアさんを?」
何でそんな事。
「私の方こそ・・・四季やアリスを巻き込んでしまってすまない」
「謝らないでください!ナイトメアさんは狙われている側なんですよ!?」

自分が命を狙われているのに、私に謝るなんて。
まず自分を心配しなきゃ行けないのに・・・。

「この世界の住人は皆そうなんだよ。命を軽視する。壊れた所で修理が可能だからな」
「修理・・・」

何を、言ってるんだろう。
壊れる、私の世界で言う死ぬって言う事なんだよね?
死んで・・・修理する?
ナイトメアさんは口元に笑みを浮かべて、私を抱き寄せて自分の心臓の上に私の耳を当てさせる。

「なっ!?」
「いいから聞くんだ」

聞く?一体何を?

「・・・・・・え?」

聞こえてきたのはどくんどくんという心音ではない、かちこちという針の音。

「とけ、い」

そう、時計の音。
ナイトメアさんは私を解放すると、ふわりと浮く。

「そう。時計。私たちの心臓は時計で出来ている。死んでも時計は修理され、また別の人間として蘇る」
だから命が軽視される。
死んでも、直ぐに蘇る。
「例え私が死んでもまた別の夢魔として蘇る。だから四季がそこまで気にする事では・・・四季?」

涙が止まらない。
何だろう、悲しい?辛い?
そんな風に考える世界。それがこの世界の常識なのかもしれない、でも。

「・・・例えば、ナイトメアさんが死んで・・・また別の夢魔さんが現れたら、その人はナイトメアさんなんですか?」
「いいや、夢魔の肩書きは同じでも私ではない」

多分これは怒りだ。
そんな風な世界でも、そんな風に考えて欲しくないと思う私の我が儘。
それが、怒りになっている。
でもなんでだろう、それを伝えても、きっと伝わらない。
それが分かってるから、どうしようもないから。

「死んじゃ、いやですよ」

もう、私は。

・・・もう?
瞬間血の香りがむせかえる。
死んでる。人が。

「四季。酷い悪夢だ」
違います、夢じゃない。
「いいや、悪夢だ。君を苦しめているものは全て悪夢だよ」
ナイトメアさんが手をゆっくりと振るうとあれだけ強かった血の臭いがさっぱり消え失せる。

やっぱりナイトメアさんは、ナイトメアさんだ。

「・・・この世界の人はみんな、心臓が時計で出来てるんですか?」
「ああ、そうだ。例外は無い」

心臓を持つのは余所者だけ。

このクローバーの国は、時計の国なんだ。

(時計、時間の・・・国)

「さぁ、そろそろ目を覚ますといい。アリスもグレイもとても心配しているからね」
ナイトメアさんが笑い、私の意識はふわっと浮かび上がる。

そして次に目を覚ますと見慣れた自室の天井。

「四季!」

アリスの声が聞こえた、と思ったら駆け寄ってきたアリスが私の手を握る。
「よかった!目を覚ましたのね」
「さっきからずっとナイトメアさんと話してたから寝てたっていう感覚があんまりないけど・・・」
苦笑を浮かべて、起き上がる。
全身が怠いけれど動けない訳じゃない。

「・・・ねぇ、アリス」
「どうしたの?」

聞いて良い事なのかが分からない。
もしもアリスが知らなかったら・・・?
何度も口を開きかけて、私は首を横に振る。

「ううん、何でもない。ごめんね、心配させちゃって」

それがこの世界のルールなら、私はそれを受け入れなくてはいけない。
(好きだなぁ)
この世界が、この人たちが。

「気にしないで。怪我が酷くなくてよかった。グレイも凄く心配してたのよ」
「グレイさんが・・・?」

うーん・・・思い浮かばないなぁ。
あの爆発はナイトメアさんが言ったように、塔の人間をよく思っていない人たちが起こしたものだったらしい。
私が爆発に巻き込まれて直ぐ塔の人たちがやってきてアリスを助けてくれて。
グレイさんが頭を打って倒れていた私を塔まで運んでくれたらしい。

「ああ、気を失う前に聞こえた足音はグレイさんだったんだ」

・・・あれ?その前にも誰かが居たような気がしたけど。
気のせい、かな。首をひねっても思い出せない。
まぁ、思い出す必要もないからいいのかな。

「私はそろそろ城に帰るわ。今日は散々になっちゃったけど、また今度一緒にお茶しましょう」
「そうだね。またね」

手を振って部屋を出て行くアリスを見送る。
「グレイさん、探してこよう」

アリスが帰ったのを確認し、私も部屋を出て塔を歩き出した。




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