「あ、アリス。こんにちは」

仕事は休みを貰っているので街をぶらぶらしていると、こちらまで遊びに来たらしいアリスと出会う。
「四季。今の時間帯は貴女も休みなのね」
「うん。珍しくナイトメアさんがお仕事頑張ってるから何か休憩用のお菓子を探しに来たの」

珍しく、本当に珍しく、ナイトメアさんが仕事をしている。
グレイさんは書類が徐々に減っていくのを見て嬉しそうな困惑したような、そんな感じだった。
まぁ今まで仕事をしなかった人が自発的にしているというのはそれだけで天地がひっくり返るかのようなことなんだろう。そう思う。

「そうだ。アリスも一緒にお茶しましょう。きっとアリスが来たらナイトメアさんも喜ぶよ」
「・・・そうね。この前の会合の時はゆっくり話せなかったから、久しぶりにナイトメアともゆっくり話したいわ」
それにグレイとも、とアリスが続ける。
「グレイってどんな人なの?あのナイトメアの補佐をしているくらいだから優秀なのよね」

思わず吹き出す。
アリスは私よりもナイトメアさんとの付き合いが長いそうだから、短い時間でグレイさんの仕事っぷりを見抜いたんだろう。

「そうだなぁ・・・。凄い仕事が出来る人だよ。ナイトメアさんが逃げ出しちゃうと率先して探してるし」

それにとても優しくて大人。
その後もアリスの滞在場所であるハートの城の話でも盛り上がる。
ハートの女王のビバルディさんの事や、ペーターさんの事。
それに、エースさん。

(ドアの声)

出来るだけ考えないようにしてはいても、ふとした瞬間にあの時のエースさんを思い出す。
(アリスはどうなんだろう)
私と同じ、余所者。
外の世界から来た人。
アリスはドアの声を聞いた事があるのかどうか、聞いてみたいと思うけれど、聞いてはいけない事のような気がして。
いつになるのか分からない【いつか】の日に、私はドアを開ける事になるのかもしれない。

「あれ、何だか人が集まってるね」
「本当だわ。何かあるのかしら」

今日、何かお祭りみたいな事があるなんて誰か言ってたかなぁ・・・。
「ちょっと見ていく?何やってるんだろう」
けれど、アリスは少し考えてから首を横に振る。
「何でかしら。こう・・・不自然に人が集まってるのって何か嫌な予感がするのよね」
「こ、怖い事言わないでよ・・・」

そんなことを言われるとこの人だかりが怖い物に見えてくる。

「じゃあお菓子買いに行こうか。この前はケーキだったし、今日は焼き菓子がいいかな」
「それなら向こうのお店がいいんじゃない?この前食べたんだけど凄く美味しかったの」

人だかりに背を向けて再び歩き出す。

「あ、ねぇねぇアリス。このリボン可愛いよ。アリスに似合いそう」
その途中にある雑貨屋は色々可愛い物が売ってて見ているだけでも楽しい。
「本当?あら、この帽子可愛いわよ」
「あ、やっぱりその帽子可愛いよね!前からいいなって思ってたんだ」
今被ってる帽子もいいんだけど、こっちの帽子もいいなぁ・・・。買っちゃおうかな。
アリスと一緒に雑貨屋さんに入って日用品や装飾品を見て回る。

「うん、やっぱり帽子買おう。可愛いもん」
「帽子が好きなのね」

頷いて、帽子とさっきのリボンを取ってレジに向かう。
そして別々にラッピングしてもらうと、リボンをアリスに渡す。

「これアリスにあげる」
「え・・・?いいの?」

アリスがリボンを受け取ったのを確認して小さく頷く。

「もちろんだよ。私、こうやって女の子同士で買い物とかプレゼントあげたりとかしてみたかったの」

・・・あれ?
何だか、違和感。
でも何が違和感なんだろう。


『大丈夫だよ』と私に声をかける人。
その人が私の手をぎゅっと握る。
『四季が怖がる事は何も無いから』とその人は私に笑いかける。


『四季が笑ってくれるなら、俺が何でもしてあげる。だから大丈夫だよ』



「ユーキ」

「四季・・・?」

じりじりと胸の奥が痛んで、耳鳴りもしてくる。
ダメだ、思い出しちゃいけない。
思い出したら戻れない。
分からないのに、分からない記憶が警鐘を鳴らす。

その時、何処かから爆発音が響く。
「え!?」
店の外を見ると奥まった通路の方から煙が上がっているのが見える。
突然の事に固まっているとアリスが私の手を引く。

「塔まで逃げるわよ!」
「あ・・・うん」
アリスが走るのに続いて私も走る。
アリスの背を追って走って、突如近い場所から轟音。

「―――っ!!」

何かに全身を打ち付けて、ようやく爆発に巻き込まれたんだと理解する。
(にげ、なきゃ)
音と衝撃でフラフラする頭を何とか持ち上げると地面に出来た小さな赤い染みが目に映る。
血。
逃げなくては、と思うのに体が動かない。

爆発の煙の中足音が聞こえてくる。
(だれ・・・)
その人物は私の前で立ち止まると膝をつく。


「大丈夫だよ」


「ユー・・・キ・・・?」
掠れた声で問いかける。
その人は聞こえていないのか、もう1つ聞こえてきた足音に立ち上がり煙の中に消えていく。
アリスが遠くで私を呼ぶ声が聞こえて、私は目を閉じた。




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