会合期間中は争い事が禁止される。
それがこの会合のルールだとナイトメアさんから聞いている。

部屋で少し休憩してから、私は私服に着替えて街をぶらぶらする。

「あ、これ可愛い」

雑貨屋さんの店先に並んだピンク色のマグカップ。
今は塔備え付けのカップを使わせて貰ってるし、自分用のカップを買ってもいいかも・・・。
そうだ。会合も終わったしナイトメアさんにケーキ買っていってあげよう。
喜ぶといいな。
カップも買って次は洋菓子店に向かう。


「待って!」

「はい?」


振り返ると、黒いドレスを着た女の子・・・さっきエースさんとお話ししていた、アリスさんが、駆け寄ってくる所だった。
「あ・・・えっと」
「貴女が塔に滞在している四季よね?私はアリス=リデル。貴女と同じ余所者なの」

ドレスにリボンが似合う可愛らしい容姿の女の子がふわっと笑う。

「は・・・はい。塔に滞在させてもらってます」
アリスさんも買い物に来たのかな。
それにしても可愛い子だなぁ。

「ナイトメアに聞いたら貴女は街に行ったって言うから、探していたの。少し話がしたくて」
「え!?探してくれてたんですか?」

ああ、何か申し訳ない事しちゃったな。わざわざ探してくれてたんだ・・・。

「あ、それならよかったら一緒にカフェに行きませんか?美味しい紅茶があるんですよ」
「・・・・・・」

そう提案するとアリスさんはじっと私の顔を見る。

「あの・・・?もしかして紅茶は嫌いですか?」
「違うわ。何で敬語なの?」

そこ!?
今更そこを言われると思わなかったな・・・。

「えっと・・・何ででしょう。クセ・・・でしょうか」

そういえばあんまり気にした事なかったけれど、元の世界でも敬語で喋る事が多かったような気がする。

「私の事はアリスでいいわ。それに敬語もいらないから」
「わかりま・・・わ、分かった。よろしくね、アリス」

そう言い直すとアリス・・・は嬉しそうに笑う。
うーん・・・敬語じゃないとちょっと違和感だなぁ。
・・・そのうち慣れるといいんだけど。

「四季はどうしてこの世界に来たの?」
「よく覚えてないんだけど・・・誰かに呼ばれて、その声を追ってきたらナイトメアさんの執務室だったの」

そのままの流れで塔に滞在していることと、ナイトメアさんの仕事の手伝いをしていることも話す。

「・・・何だか大変そうね」
「ナイトメアさん、よく脱走するから・・・。グレイさんの顔色が時々大変な事になってる」
もちろん私も捕獲に参加するけれど中々捕まってくれないし。書類は溜まるし。

余所者同士、という事もあって中々理解出来なかった感覚もアリスとなら共有する事が出来る。
・・・とは言ってもアリスは私よりも長くこの世界に居るから私よりも慣れてはいるみたい。

私も長く居たら慣れるのかな、と思うのと同時に、ユーキを探さなきゃとも思う。

何で呼ばれたのかとか、元の世界の事とかがよく思い出せない。
何かがあったような気がするけれど、記憶に靄がかかってしまっている。

「おや、お嬢さんじゃないか」
「あら、ブラッドじゃない。貴方もお茶をしに?」

アリスの声に顔を上げると、バラの着いた帽子を被った男の人が優雅と言える所作で気怠く笑みを浮かべた所だった。
気怠いのにどこか美しく見えるのは、きっとこの人の顔が整っているから。

「・・・あ」

そうだ、この人も会合に出ていた人だ。
ウサギ耳のお兄さんと一緒に居た・・・。っていう事はこの人は役持ちさんなんだ。

「アンタは」
「あ・・・この前は有り難うございました」

ウサギ耳のお兄さんも一緒に居る。
やっぱりちょっと驚いた顔。

「四季、貴女エリオットと知り合いなの?」
「この前街で道に迷っているときに助けてもらったの」
「あの時はありがとな。アレ大事なモンだったからさー」

やっぱりウサギさんはにんじんが好きなんだ。

そこで私は2人に向き直り名を名乗る。

バラの飾りが付いた帽子を被っている男の人は【帽子屋】のブラッド=デュプレさん。
ウサギ耳のお兄さんは【三月ウサギ】のエリオット=マーチさん。でもエリオットさん曰くウサギではなく犬らしい。

(犬・・・)

犬の耳はそんなに長くないんだけどな。まぁ、本人がそういうならいいのかな?

「・・・・・・あの、ブラッドさん?」

ブラッドさんは相変わらず気怠そうに、けれどその目の色に楽しそうなものを滲ませながら私を見ている。

「四季、か。君は中々面白い物を持っているな」
「面白い、物?」

ブラッドさんは持っていた杖で私の左胸を、心臓の真上をつつく。

どくん、と心臓が鳴る。

「ああ、とても面白い。君は・・・」

ブラッドさんが言いかけた時、近くでガラスの割れる音が響く。
「なっ・・・」
突然の事に通りにざわめきが走る。
「敵か?」
エリオットさんの声が低くなる。
「・・・いや、これは」

目の端に映るブラッドさんは口元に楽しそうな笑みを浮かべる。

「エリオット。お嬢さんたちを塔まで送ってさしあげろ。・・・万が一敵なら、余所者は危ないだろう?」
「あぁ、分かった。アリス、四季。行こうぜ」

でも、ブラッドさんは・・・。
言いかけて、アリスさんが小さく首を横に振ったのが見えた。

「行きましょう。・・・争いがあったら、私たちじゃ何もできないもの」
「・・・うん」

私たちを見送るブラッドさんは、それでもなお楽しそうだった。




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