会合が始まり、他領土の役持ちさん達が集まってくる。
私はと言うと休憩をもらったので部屋に帰るところ。
少し休んで、また仕事を頑張ろう。


「あ・・・」


赤いコートが見えた。
塔の人じゃない。ふとそう思う。

「あの!」

小走りで追って、その人を追う。
スーツの上から赤いコートを着た男の人。
赤い瞳が私を見る。

「あれ?君、塔の人?」
「はい。貴方も会合の参加者ですか?」

・・・こっち、会議室じゃないんだよなぁ。

会議室はあっちですよ、と言うと男の人は軽い笑い声を上げる。
「あれそうだったんだ。可笑しいなぁ、向かってたはずなのに」
「ここ広いですからねー。仕方ないですよ」
私もここに滞在して暫く経つけれど未だに迷ったりする。

「よければ一緒に会議室に行きませんか?私、四季って言います」
「はは、こんな可愛い女の子と一緒に旅が出来るなんて光栄だなぁ。俺はエース。よろしくな、四季」

差し出された手を握り返し、エースさんの隣に並んで歩く。

「エースさんはどちらにお住まいなんですか?」
「俺?俺は一応ハートの城だよ」

あぁ、だから持っている剣がハートのモチーフなんだ。

「君って余所者?」
「え?あ、はい。そうみたいです」

外の世界の人。この世界の人じゃない。
エースさんは【ハートの騎士】をしているらしく、この世界にもう1人居る余所者のアリスさんと仲がいいと話をしてくれる。

「アリスさん・・・。一回お話してみたいです」
「会合に参加しているから声をかけてみたらいいんじゃないかな。あぁ、でもアリスにはペーターさんがいつもくっついてるからなぁ」

ペーターさんは【白ウサギ】さんで、アリスさんの事が大好きなんだそうだ。
それからエースさんは今までしてきたアウトドアの話をしてくれるけど・・・。

「もしかして方向音痴なんですか?」
「え?四季までそんな事言うの?俺はただ旅をしているだけだよ」

あ、自覚がないタイプだ・・・。
こういうのって自覚が無いのが一番厄介だって聞いた事あるな。

「でも旅ですかぁ。いいですねー。私もちょっと遠くに行ってみたいです」
「若いのに引きこもってちゃダメだよ。もっとアウトドアを愛さなきゃ!」
「そうですねぇ。会合が終わったら少しずつ遠くに出てみる事にします」

エースさん・・・凄く元気だ。


「ねぇ、四季」
「―――っ」


ふいに隣から聞こえてきた声に見え隠れする冷たさに、息を呑む。
そうだ、私は、この冷たさを知っている。
この人じゃない誰かから、私は。

「君はドアの声を聞いた事がある?」
「ドアの、声?」

この不思議な世界は、ドアすら喋るのだろうか。

「そう。迷っている人を導いてくれるんだぜ。便利だろ?」
「迷って、いる・・・」




『四季、帰っておいで』



会合が始まる前、廊下を歩いていたときに聞こえてきた声。
アレが・・・ドアの声だったのかな。
チリッと胸の奥が痛む。

帰る・・・帰る?何処に?
私が帰るべき場所は何処?
元の世界だ。
だけど、それって何処なの?

「でも、帰っても1人足りない」

立ち止まって口を押さえる。
自分で言った事なのに分からない。
エースさんはまだニコニコと笑っているけれど、何だか、怖い。

「あ、そろそろ会合始まっちゃうかも」
「ええ!?急がないと!こっちです」

エースさんの腕を掴んで小走りになる。

(今の、何だったんだろう)

隣を私に腕を捕まれて走るエースさんの笑顔は、怖くない。
見慣れたはずの塔なのに、何処か怖い。

(ナイトメアさん・・・グレイさん・・・)

2人の顔が見たい。
ここはクローバーの塔だって、確認したい。

何が怖いのかが分からない。でも、怖い。
会議室の扉を控えめにノックするとナイトメアさんはいつものように入室の許可を出してくれる。
出来るだけ音を立てないようにドアを開けると、大勢の人間の視線が突き刺さる。
その中に私が会いたかった人の姿を見つけて心の中でほっとする。

(よかった、居た・・・)

その中にこの前街で会ったウサギ耳のお兄さんの姿がある。
お兄さんも私の事が分かったのかびっくりした顔をしている。

失礼しますと一礼をしてドアを閉める。

「ドアの声なんて、大丈夫だよ」

根拠のない自信。
でも、ナイトメアさんとグレイさんが居る。
「大丈夫。・・・怖くない」

少し休もうと私は自室に向かって歩き出した。


エースさんと話していた女の子がきっとアリスさんなんだろう。
機会があったら一度ちゃんと話したいな。



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