*未来妄想話











「いやー、それにしても助かったわー」
7月18日。じりじりと照りつける太陽の下を歩く。
「っていうかわざわざ呼び出しちゃってごめんね」
そう言って隣を歩く晃を伺うと以前は校内でも寮内でもよく見ていた人の良さそうな笑みを返してくれる。
うーん、だからコイツはモテるのか。
顔がいいのもそうだけど、何だかんだ晃は気配りの人だし。
「気にしなくていいよ。俺もこっちで買い物したかったしね」
「やっぱそういうことサラッと言えるからモテるわけ?」
よく他校の女子に囲まれていた高校時代を思い出す。
懐かしいなぁ、なんて思うのも卒業してもう何年も経つからかもしれない。
「えー、そんなことないと思うけど」
「それ他の男の前で言ってみろ、ぶっ飛ばされるぞ」
よく痴情の縺れで事件とか起きなかったよなぁ、なんて妙なところで感心してしまう。
いや、感心する所じゃないか。
「それに白斗ちゃんがまだ啓ちゃんとラブラブ・・・―――っ!!?」
ふざけた事を言い出した晃の脇腹に、思いっきり肘を叩き込む。
「あ、ごめんねー。手が滑っちゃって」
しれっと言うと苦しそうな息で「滑らないでしょ・・・」と返ってくる。
「一言多いのが悪い」
「あはは、白斗ちゃんは何というか相変わらず」
「まあ、店紹介してくれたし流してあげるよ」
鞄の中に入れたプレゼント包装のされた袋。
「あのメンバーの中じゃアンタが一番センス良いし、店とか知ってそうだったし・・・。うん、助かった助かった」
明日は啓一郎の誕生日で、プレゼントを何にしようか唸っていたときにネクタイピンみたいな実用品なら!と。
ご飯を奢る約束でそういうお店に案内して貰って・・・。
(喜んで貰えるといいなぁ)
心臓の辺りがぎゅっとして、頬が緩みそうになる。
「おっと。じゃあ約束だしご飯奢るよ・・・もう時間的に夕飯だね」
「帰らなくて大丈夫?」
心配するんじゃない?と聞かれ、手をひらひらと振る。
「今日は大学の人と出かけるって言っててさ。夜まで帰ってこないんだよね」
それに誕生日自体は明日だし。
「それならいいけど・・・」

久しぶりと言うこともあってそれなりに盛り上がって、適当なところまで送って貰ってから家路に着く。

「ただいまー」
誰も居ない家に向かってそう言って、荷物を整理する。
一番最初におめでとうを言いたい、なんて柄にもない乙女みたいな事を思って、やっぱり頬が緩む。
パジャマ姿でベッドに寝転がって啓一郎の帰りを待つ。

(それにしても)

遅い。
男だし、心配することもないとは思うけど・・・。
ゴロゴロしながらそんなことを思ってると、ドアの方から金属音・・・鍵が開く音だ。
「あ、帰ってきた」
盛り上がってたのかなー、なんて暢気に思いつつ玄関に向かうと。

「ちょ・・・!?」

微かに香るアルコール。
飲んだのか。飲んじゃったのか。
とりあえず鍵をかけて、膝をつく。
「ちょ、ちょっと。大丈夫?飲んだの!?」
「ん・・・あぁ・・・」
駄目だコレは。
分量間違えた料理酒で酔うくらい弱いのに・・・。
何とかベッドに座らせて、水の入ったコップを渡す。

「啓一郎大丈夫?着替えられる?お風呂・・・は入ったらやばいな。酒が回る」

明日朝一にシャワーでも浴びてくれ。
風呂場で倒れられても困るし。
そんなことを考えつつ立ち上がろうとした所、腕を引かれて体勢を崩す。
「・・・啓一郎?」
あーもー酔ってるなぁ、なんて苦笑した瞬間、ぐるりと世界が回って口を塞がれる。
そのまま舌まで入ってきて口の中に酒の味が広がって一瞬ぐらりとする。

「・・・っは」

息苦しくなってきた頃、ようやく解放されて肩で息をする。
「もー・・・。どんだけ飲んだの・・・」
押し倒された・・・と言うよりも馬乗りになられたまま啓一郎と目が合って。
その瞬間、第六感というかぞわっとする。
「け・・・啓一郎・・・?」
名前を呼ぶ声も、少しだけ固くなる。
啓一郎はと言うと、何だか迷ったような、そんな表情で私を見ている。

「白斗」
「な、に?」

何かを言おうとして、言うべきか迷っている。そんな感じ。
結局何も言わず酔っているからか普段より荒くキスを繰り返す。
その間に手はパジャマのボタンを外しにかかっていて、くすぐったいのと恥ずかしいのとで身を捩る。
キスの合間に低い声で名前を呼ばれる度にぎゅうっとなる。
こうやって名前を呼ばれるのはこの人じゃなきゃ嫌だって思う。

「あ・・・」

ボタンを全部外されてから、もう寝ようと思ってた事もあってノーブラだった事を思い出す。
別に今更恥ずかしがる関係でもないけど、恥ずかしいもんは恥ずかしい。
はだけた前を隠そうとした手を啓一郎が掴む。

・・・やっぱり、何か言いたそうな顔で。

「あ、あのさ。何かあった?」
尋ねると啓一郎は大きく息を吐いてから私の首元に顔を埋めるようにして抱きしめる。
両手が手持ちぶさたで、ゆっくりと啓一郎の背に腕を回す。

「夕方」
「ん?」
息が当たってくすぐったくて、身を捩りそうになるけれど我慢。
「・・・・・・アイツと歩いてた、だろ」
「アイツ・・・」

心当たりがあるアイツ、と言うと。
「晃・・・?」
私がそう言うと啓一郎が顔をしかめる。

(ん・・・)

もしかして、もしかしかくても。
(ヤキモチ!?ヤキモチか!?)
あの啓一郎が!?
わー・・・うわー・・・何だろう凄いくすぐったい気分。

ちらりと時計を見るともう12時を過ぎている。もう・・・19日だ。
「啓一郎」
嬉しいやらなんやら、心の中がごちゃごちゃで啓一郎の首にぎゅっと抱き付きながら口を開く。
「誕生日おめでとう」
ここに居てくれてありがとう、なんて、そんな意味も込めて。
「プレゼント探す手伝いしてもらってただけだよ。そのお礼に夕飯奢ったの」
ヤキモチ焼いてる啓一郎なんて滅多に見られないし。わー、どうしよう。何か嬉しい。
「っ・・・。そ、そうか」
「うん」
本当ならゴロゴロ転がって喜びたいけど我慢。
拗ねられる。
もういいや、私のテンションが若干高いのは酔ったっていうことにしておこう。
私からキスすると、啓一郎は少し驚いたような表情を見せて、そのまま私をベッドに沈める。
啓一郎の手が体を撫でて、小さく跳ねる。
何度抱かれたって慣れきるなんてことはないんじゃないかって。

「白斗」
「んー?」

体の上にのし掛かる重みを愛しく感じながら目を開ける。
何でもない、と言う啓一郎が何だか嬉しそうなような気がして、口元に笑みを浮かべた。




今日という日に祝福を



―――
裏夢書いてたはずが「そこまで必要ないんじゃない?」と思い立った結果です。
未来妄想美味しいです。

後、晃なんかごめんね←

啓一郎誕生日おめでとう!貴方の部屋の床になりたいです。



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